悪徳大臣(略)2
目を覚まして、“私”は唐突に理解した。
「大丈夫かい?ジョセフィーヌ」
心配そうに“私”の顔を覗き込む二人。
白ひげで垂れ目のコール公爵。
そして、しわだらけだが柔和な表情の夫人。
コール公爵は私が失脚した後に大臣の後釜に座った男。
有能ではなく、したたかでもなく、我が公爵家とは違い、育ちの良さ故に野心もなく、血筋だけはピカイチという理由で選ばれた。
ジョセフィーヌ。
“私”の頭の中でその名前が駆け巡った。
彼女はコール公爵家の遠縁の娘。
事故により彼女以外の家族がなくなり、夫人が引き取った。
コール公爵夫人に子供ができなかったので、ジョセフィーヌ嬢を我が子のように可愛がっているとは聞いていた。
普通正妻が跡継ぎが産めぬなら側女なり置いて、子供を作るのだが、コール公爵はそれをよしとしなかった。
公爵家の財産家督はコール公爵の弟が継ぐことで、ジョセフィーヌ嬢はコール公爵の“一人娘”になることができた。
噂では、王と正妃の仲が悪く、跡継ぎができないので、身分の高い家から側妃を迎える話があった。
ジョセフィーヌ嬢はコール公爵の本当の娘ではないが、一応王家の血は引いているそうで、彼女も側妃候補にあがっているらしい。
「そんなに王宮行きが嫌ならパパが断るよ」
悩ましげな瞳で“私”の手首を見つめるコール公爵。
巻かれた包帯から、“彼女”の置かれた状況を推測できた。
「ジョセフィーヌは静かに暮らしたいのよ、あなた」
夫人が“私”の手を掴んだ。
「あなたが大臣役を勤めるのはあと一年。公爵家の家督を弟君に引き渡すまでのつなぎなのでしょ?」
「うむ」
「そうしたら私達は弟君にこの屋敷を明け渡し、田舎でゆっくり3人水入らずで過ごせばいいではないですか」
「しかし」
コール公爵はひげを撫でた。
「アーモンド公爵家がなくなった以上、側妃はコール公爵家から出すのが筋。それに王がジョセフィーヌをぜひにと希望されたのだ」
そういうことはどうでもいいんだが、なんで“私”がジョセフィーヌ嬢になっているのかを誰か教えてくれ。ん