悪役大臣(略)4

わけのわからない“それ”とにらみ合うこと、数分。


「しかたない」


向こうが折れてきた。


「あなたの祖母が我等の得になることをした。我等は恩を受けたら返さねばならぬ」


祖母というなら話は理解できた。

王家の血をひく我が祖母は聖女のごとき澄んだ心の持ち主だったそうだ。

人助けは数しれず。

あの金に細かい祖父が祖母に頼まれて財産を寄付していたのだ。

人だけではなく、捨て犬捨て猫も保護していたという。

まさか、“それ”まで助けていたとは。

そのおかげで牢屋から天に召されるはずの私の魂は救い出され、別の身体に入れたのだそう。


「で、この身体のもともとの持ち主ジョセフィーヌ嬢はどうした?」


「この娘は縁談話に悲嘆し、身体から魂が抜け出してしまった。すでに魂は先に事故で亡くなった家族の元へと旅立った。現世に留まるだけの気力がなかったせいだ。身体は元気であっても魂がなければそのうち朽ちる。ならば、我等の恩返しに再利用させてもらった」


再利用、と言われたら、少し変な心持ちだ。

“私”の腕を見下ろすと、細くて白い。

さっきまでしていた包帯はなくなっている。


「そなたは今実体ではない。状況を把握できていないだろう。説明のために一時的に我等の領域に来ている。話が終われば元に返す」


心を見透かされたように言われて、と私は戸惑っていたのに勝手に身体は頷いていた。


「ところで恩というのなら我が父にかえしたのですか?」


私の父は突然亡くなった。

父の魂もどこかの娘の身体に入っているのだろうか?


「そなたの父の魂は汚れていた。いくら恩返しといえど、できぬ相手はいる」


一応選別はされたようだ。


「そなたはこれからコール公爵家の養女ジョセフィーヌとして生きていくのだ」


そんなこと決められても、と思ったが、“それ”に歯向かうことは人間では難しいようだ。

また“私”の意思とは違う力が働いて、「わかりました」と声を発していた。

満足気に微笑むと“それ”は消えた。

そして薄れゆく記憶のなかで“私”は誓った。

こうなったらジョセフィーヌ嬢としての人生を全うしてやろうじゃないか、と。