悪徳大臣(略)15


町は王国の領地。

長老は役人に“わたし”たちのことを伝えた。

王宮からの使者が到着したのは葬儀を始まる、すこし前で、それが終わると葬儀場の前に馬車がやってきた。

“わたし”はそれに乗るしかなく、連れて行かれたのは大きな塔だった。

薄気味悪い煉瓦の建物で、到着早々“私は”そこの一室に閉じ込められた。

ひどい扱いは受けなかったが、食事や身の回りの世話は最低限。

“わたし”には誰も話しかけてこなかった。

そこで働く役人たちのひそひそ話からここが罪を犯した身分の高い王族や貴族たちが収監される牢獄だとわかった。


“わたし”の両親はそれぞれ決められた婚約者がいたのにもかかわらず、反対を押し切って駆け落ちした。

二人の行動は大問題となり、身分は剥奪されて勘当された。

王国と竜の一族は話し合い、友好のしるしとして、今の王と竜の一族の姫の婚姻が決められたのだという。


『この塔で幽閉されて、一生を終えるのね』

と寂しく呟いた“わたし”を救ってくれたのは公爵夫妻。

竜の一族の血を引く公爵夫人が苦境に陥った“わたし”に助けの手を差し伸べてくれた。


『大変だったね』


公爵は“わたし”のと竜の一族の家系ということで、歳は離れているが“わたし”の父とは時折王の狩猟のお供として出掛ける仲だったそうだ。

ずっと“わたし”たち家族を心配していたらしい。

“わたし”についてとやかく言う者も公爵家関係ではいたらしいが、面と向かって公爵夫妻に文句を言えなかったようで、竜の一族からも横槍は入らず、“わたし”は公爵家に引き取られた。


『娘がほしかったの』


微笑む公爵夫妻には子供がいなかった。

貴族の家なら跡継ぎを作るために他の女性に産ませたりするのだろうが、夫妻は相思相愛。

そして公爵夫人が竜の一族の血筋ということで、あちらに遠慮があったのかもしれない。

とにかく公爵夫妻は家督をもともと公爵の弟に譲ると宣言していた。

“わたし”が公爵夫妻のもとで生活するようになったのは両親の死から一ヶ月後のことだった。

夫妻は養女にしようとしていたらしいが、それに関しては公爵家の身内から大反対があったようだ。

牢獄から出してくれただけで公爵夫妻には感謝

していた。


『わたくしたちが隠居した後、あの方にあなたを任せようと思うの』


公爵家での穏やかで静かな生活は、“わたし”の縁談話で破られることとなった。

“わたし”も公爵夫妻とともに田舎に引っ込もうと思っていたのに、二人は“わたし”の嫁ぎ先を探し、お眼鏡にかなう相手を見つけた。


『ユリウスならあなたを守ってくださるわ』


ユリウス様。

“わたし”はどんな人なのか、期待と不安で戸惑っていた。