悪徳大臣(略)22


正妃の説明はこうだった。


無実の罪で投獄された“わたし”は、正妃やコール公爵たちの嘆願により釈放されるはずだった。


王からの伝令が届く前に“わたし”は何者かにより毒が盛られ、瀕死の状態。


身体だけではなく、飲まされた者の魂すら蝕む強力な毒。


正妃の叔父が直々に解毒の術を施すこととなったが、長き牢屋生活で衰弱が激しく、このままでは耐えられない、と判断された。


“わたし”が生き延びるためには、いったん肉体と魂を引き剥がす。


それから、“わたし”の肉体に誰かの魂を、引き剥がされた“わたし”の魂を別の身体に入れて、耐えうるまで回復させた後に術を施すしかなかったのだ。


正妃の叔父がかなりの使い手とはいえ、自らの身体と魂を引き裂かれ、毒に冒された“わたし”を引き受けるのは生命の危険と隣り合わせだ。


『私の身体をお使いください』


それをかえりみず志願したのはジョセフィーヌ嬢だった。


『ユリウス様が助かるのならわたしの命など惜しくありません!』



こうして“わたし”の身体と魂は2つに分けられ、ジョセフィーヌ嬢のものと入れ替えられた。


ジョセフィーヌ嬢の身体に入った“わたし”が時々感じていためまいは毒によるものだったらしい。


『ずっと貴方の身体はこの屋敷の一室で守られています。ジョセフィーヌーヌの魂とともに眠っています』


『ジョセフィーヌは?無事なのですか?』


“わたし”は正妃を問い詰めると、正妃は顔を扇子で覆った。


『ジョセフィーヌは我らが竜族の血を引く娘、とはいえ貴方に盛られた毒はかなり強きもの……解毒は今夜でそろそろ終わると思います。毒はジョセフィーヌがすべて吸収して引き受けるので、貴方の身体と魂は助かるでしょう』


貴方の身体と魂“は”助かるでしょう、という正妃の言葉が引っかかった。


『毒を引き受けたジョセフィーヌはどうなるんです?』


『それはまあ、なんというのかしら』


はっきりと答えぬ正妃から“わたし”は正妃の叔父に視線を移した。


堂々とした態度だった彼は“わたし”から顔をそらし、口元を手で押さえていた。


『そのうえでジョセフィーヌが選択したこと。わたくしたちが口出しすることではないわ』


正妃は扇子をたたんで、ポンと手を叩いた。


『それでアーモンド公爵、貴方はこれからどうするおつもり?毒が抜けた後の貴方の身の振り方をお話ししましょうか』