悪徳大臣(略)11
王宮につくのかと思えば、正妃のお住まいになる場所は山奥だった。
切り立った崖と渓谷に囲まれた、孤高の離宮。
「わたくしたちの養女ジョセフィーヌにございます。ミーナスタコラサッサ様」
別の馬車でついてきていたはずの、王と公爵は門から入れてもらえず、外で待機。
私と公爵夫人だけが中に入れてもらえたのは龍の血筋のせいらしかった。
「お久しゅう、おばさま」
豪華な椅子に腰掛けて扇子で顔を隠した正妃の声は涼やかに響いた。
まだ幼い頃に一度だけ正妃のご尊顔を拝見させていただいたことはあるが、容姿端麗で王宮にあがった女官たちがひれ伏すほどの美少女だったと記憶している。
「ごきげんよう、ジョセフィーヌ」
そっと扇子を外し、正妃は私に微笑んだ。
おお、健やかにお育ちになられたご様子。
二十歳を超えられて大人の魅力が足された正妃。
まだ気持ちが幼いときは正妃の美しさが理解できなかったのだろうが、今になって王は気がついた。
それでどうにかして近づく“手段”としてジョセフィーヌ嬢に固執した。
ジョセフィーヌ嬢にとっては大迷惑な話ではある。
「ご拝謁に賜り、恐悦至極に存じます」
「堅苦しい挨拶はよいの」
正妃は立ち上がり、口元を扇子で隠したまま私に近づいてきた。
「ここに来たからには大丈夫よ、ジョセフィーヌ」
正妃が私の手を握りしめた。
「へ?」
「陛下に側女として召し上げられそうになって世を儚んだ、と聞いたわ。ここならジョセフィーヌ、あなたをわたくしが守ってあげる」
ちらりと後ろに佇む公爵夫人を振り返ったが、満面の笑みだ。
余計なことは喋るな。
そう言われているように思った。
「あ、ありがとうございます」
おい、陛下。
ジョセフィーヌ嬢に乗じて正妃に近づく戦法は廃案になったようだ。