悪役大臣(略)19

女官による“ジョセフィーヌ嬢”に起こった出来事をここまで聞かされて、“わたし”の頭の中は疑問符だらけだった。


まず、“ユリウス”様とは、“わたし”だった件について。

コール公爵家と同等で、大臣やってて、神殿長と間違いを起こした娘を子供ごと押し付けられた男がこの国にもうひとりいたら別だが、どう考えてもジョセフィーヌ嬢の想い人ユリウスは“わたし”だ。

ジョセフィーヌ嬢は両親のことで、王家、竜族ともに本人に罪はないが、遺恨がある。

“わたし”の祖母は王族の出。

血の繋がりのある王に意見できる立場にあった。

そして、龍族からの干渉に対抗できる血筋、家柄と地位を持っていて、コール公爵の頼みを断れない、お人好しは“わたし”くらいだろう。


しかし、だ。

しかし、ジョセフィーヌ嬢のような可愛らしい女性に想いを寄せられるような顔面を“わたし”はしていない。

ジョセフィーヌ嬢より一回り以上年上のおっさんだ。

くせ毛で、身なりの手入れの行き届いてない、おっさんだ。

もう一度言おう。

おっさんだ!

親戚の目を盗んで貯めた小金を寝る前に数えるのが喜びの“おっさん”だ。

こんな恋愛小説みたいな話の登場人物ではない。


そして、ずっーと気にかかっていたことがある。

龍族の女官が話しているのだが、どう考えても、当事者しか知り得ない情報がそこかしこに散りばめられている。

離宮に引っ込んでいる正妃の女官がなぜにこんなに細密に“ジョセフィーヌ嬢とユリウス様の悲恋物語”を知っているのだ?


“わたし”ユリウスは幽閉され、牢にいた。

ジョセフィーヌ嬢はコール公爵家で、伏していた。

女官との接点があるようには思えないのだ。


『よろしいですか?』


滔々と語り続ける女官を“わたし”は遮った。


『ここからがいいところですのに』


残念そうな女官は胸の前で両手を組んだ。


『なんでしょう?』


『ええっと』


“わたし”は口ごもった。

『お前、見てきたんかい!』と本物のジョセフィーヌ嬢なんて言わないだろうし、なんて言えば、と考えていたら、目を輝かせた女官が“わたし”の両手を握りしめた。


『まあ、恥ずかしいのね!』


いや、そういうことじゃなくて。

そう言おうとして、“わたし”はハッとした。

女官に握られた時に、鼻をかすめた、女官の香水の匂い。

前に嗅いだことがあった。

あれはたしか、牢の中で死に行く“わたし”に耳元で囁いてきた時に………


『やり直すか、と。祖母に恩義がある、と言ったのはあなた?』


『思い出したの?やけに勘がいいのね、ユリウス』


女官は“わたし”の手を掴んだまま、唇の端をあげた。