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2ちゃんであったいい話~コッパンスレのハゲニキ~

これはいわゆる「ソースは2ちゃん」のお話である。
一時期「泣ける2ちゃんねる」「2ちゃんの怖い話」などが流行り一部は書籍化までされているが、私が実際にリアルタイムで遭遇したことのあるものはこれが唯一である。
過去ログを見ながら書いているが如何せん昔の記憶と「ソースは2ちゃん」なのでどこまで真実かはわからない。
しかしググってもまとめた記録が見つからなかったため、ここに自分語りを中心にしつつ一人のコテハンとスレ住人たちのお話を記録しておきたいと思う。


コッパンスレ

さて、「「ハッキング」から「今晩のおかず」まで」様々な話題が投稿されてきた2ちゃんねるであるが、今回のお話の舞台となるのは公務員試験板の国家一般職スレ(通称コッパンスレ)である。
なおこの記事冒頭の画像は公務員試験板のトップ画であるが、マシュマロマンの出来損ないみたいなのは人事院のマスコットキャラクター「KOHちゃん」である。AA化されてはやる気のないデザインで煽ってくるので住人から親しみを込めて忌み嫌われている存在である。
国家公務員一般職試験とは、人事院が実施する国家公務員採用試験の内いわゆるノンキャリアを採用するための旧国家2種(現・一般職大卒)、旧国家3種(現・一般職高卒)試験のことである。
国家公務員採用試験は試験の流れや用語が独特なため、コッパンスレでは受験者同士で活発なやり取りがなされてきた。
当時幾人かのコテハンが常駐していたが、そのうちの一人が主にハゲネタAAを投下していたことから命名された「HAGE」通称ハゲニキであった。
話はまだ彼がハゲニキと呼称される前にさかのぼる。


独特で複雑なコッパン試験

当時私は地方の学生で、就職活動の一環として国家公務員試験の受験を考えていた。
しかし、周囲の友人は地元志向が強く公務員志望者でもほとんどが地方公務員を目指しておりコッパン受験者はほぼいなかった。
また田舎なのでTAC、LEC、大原といった公務員試験予備校も近くにはなく、頼れるのは通信講座と2ちゃんのみという状況だった。
筆記試験については通信講座や市販のテキストで対策ができるが、国家公務員試験自体の流れが独特で複雑なことから必要となってくるリアルタイムの情報共有については「うそはうそであると見抜ける人でないと難しい」2ちゃんに頼るしかなかったのである。

では何がそんなに独特で複雑なのかというと、一般的な採用試験では説明会→エントリー(ES、SPIなど)→筆記試験→面接→採用面接→内定といった流れとなるが、コッパンは人事院の試験と各省庁の試験という2重構造となっているため各省庁説明会→人事院筆記試験→合同説明会→各省庁官庁訪問→人事院面接→各省庁採用面接→内定という流れである。

また、官庁訪問は受験する官庁・年度・地域によっても回数も内容もバラバラで、場合によっては面接→待機→面接→待機で丸1日拘束される流れを複数日経て10回以上面接を受けるといったパターンもある。
面接も人事が担当するものや人事以外の部署が担当するもの(原課面接)、個別面接・集団面接・グループディスカッション・逆質問中心など様々である。同じ年に同じ官庁を受けても人によって面接回数もバラバラである。
つまり、自分が今どの段階まで進んでいるのかまったくわからないのである。
(ちなみに、官庁訪問に関する人事からの電話は深夜に掛かってくることもザラであり中央省庁のブラックさを否応なく実感することとなる)

さらに、人事院としての合格発表(最終合格)は官庁訪問解禁日より後であり、各省庁から内々定をもらっても人事院から不合格を言い渡される場合もある。また最終合格は辞退者を見越して各省庁採用数合計の2倍ほど出しているようなので、最終合格したけど「無い内定」という可能性もある。

こうした独特の試験のため、用語も独特である。例えば人事院としての合否は筆記試験(教養・専門)・面接・小論文で判定されるが、このうち筆記試験は教養科目40問と専門科目40問を解答するものの得点としては専門科目が2倍となる。
これを「傾斜配点(傾斜)」と呼び、例えば教養30点・専門20点のAさんと教養20点・専門30点のBさんとでは素点ではどちらも合計50点であるが傾斜だとAさん70点、Bさん80点となる。

また、官庁訪問においては待機場所から個別に呼ばれても別室で面接を受けるパターン、出口に送られて次回の面接予定を告げられ帰されるパターン、「何かありましたら連絡します」と言われて帰されるパターン(この後連絡がくることもあればこないこともある)があり、このうち出口に送られるパターンについては以下のコピペのようなバリエーションがある。

各省庁人事必殺の送りテクニック
【エレオク】
 基本技。エレベーターまで送り、ご丁寧に『下がる』のボタンまで押してくれる。
 中には、「面接室までご案内いたします」と言って待合室から出したと思ったら、「本日はありがとうございました」と言ってエレオクをするテクニシャンな人事の人もいる。
【テレオク】
 基本技。「何かありましたら、追って連絡を差し上げます」と言って帰す。民間でも使われる手法。ちなみに連絡は来ないことが多い。
 鳴らない、電話。
【メンオク】
 面接室まで連れていき、選考落ちを伝える手法。
 エレベーターをスルーしたときの高揚感はたまらないが、面接室で地獄に落とされる。
 ちなみに面接室からエレベーターまでは送ってくれない。不親切である。
【デグオク】
 出口まで送ってくれる。しかし、他に行きたい省庁が同じ建物にある場合は有難迷惑でしかない。再度中に入ろうとすると、ディフェンスに定評のある人事にブロックされる。
【エキオク】
 奥義のひとつ。駅まで送ってくれるらしいが、エキオクを使いこなせる人事は滅多にいない。というか人事もそこまで暇じゃない。
【ホカオク】
 「是非他の官庁も回ってみて下さいね」が発動の合図。他のテクニックと併用される。
 言うなれば、京都の家庭でお茶漬け出された上に追い出されるようなもんである。
【公開処刑】
 主に国家Ⅰ種で多用される荒技。
 次の面接を待ちながら同士たちと談笑する中で、情け容赦なくこう言われる。「結果をお伝えしますので、〇〇番の方のみ荷物を持って廊下にお願いします」自分だけ特別室で内々定かもしれないという淡い期待は、続くエレホカオクを前にかき消される。
【ミンオク】
 「民間も回ってみたら?」が発動の合図。労働局が得意とする魔の誘導テクニック。業務説明会に来たつもりが気付くと受験生の就職相談会になっている。
 「これはおかしい」と思った時にはすでに遅し、自分の職業選択に疑問を持ちながら帰路につく。
【瀬戸オク】
 送りテクニック最終奥義
 面接に呼び出され船で向かっている途中に、官庁が「あ、やっぱ来なくていいです^^」と瀬戸内海上で宣告するという荒業。
 「瀬戸内海の中心で今後の活躍を祈ったケモノ」とはよく言ったものである。

〇〇オクをされたからといってすぐさま不合格というわけでもないが、かといって不合格だと明確に告げられることもないため、単に連絡または次の面接日を待つのではなく他省庁を訪問するほうが無難である。

また、各省庁・出先機関によって人気の差もあり、人事院としての合格発表後にまだ採用予定数満たしていない官庁から「うちの採用面接を受けないか」という連絡があることもあり、これを「スカウト」と呼ぶ。
スカウトは官庁訪問をしたがエレオクされたところから来ることもあれば1度も訪問していないところから来ることも、まったく来ないこともある。
こうした独特の用語や情報共有必須な官庁訪問について私が頼ることができたのはコッパンスレだけだったのである。


公務員試験板の1年

さて、就職活動をやりつつ通信講座で筆記試験対策をやりつつ迎えた春。
都庁や特別区を皮切りに公務員試験も始まるが、この時期からコッパンスレは空気が変わり始める。
ここで「公務員試験板の1年」コピペを見てみよう。

4月~10月:「どこの予備校がいいか」、「どの参考書がいいか」、「どの講師がいいか」の議論が再燃。
「12月の模試でA以上になる」系統のスレが乱立する。

12月:「半年で十分だろ?売り手市場だし。特別区何か3倍だぜw」
「一日に10時間も勉強するのはヒッキーだけ。普通はバイトゼミ色々あるだろ」「12月から初めて合格できる」などの工作員のカキコに釣られる被害者は毎年後を絶たない

1月~4月上旬:学歴煽りが最高潮。マーチ以下は警察・消防の論調がスタンダートとなり、国2、国税を滑り止めと勘違い。
直前模試、答練の話題で盛り上がる 公務員生活とアフター5の妄想もピーク

4月~5月:都庁、特別区後に場は一転し、「都庁死亡スレ」、「択一50で論文読んでもらえますか?」、「今年の数的は難しすぎ」などのスレが入り乱れる。
この頃を境に警察消防などの煽りがピタッと止まり、新聞配達、小売などのちょっと前までは考えられなかったスレが続出。
「人生オワタ」、「死にたい」などのスレも見られるようになり、「努力は実らない」などと自分の努力がたいしたものでなかったことに未だに気づけていない書き込みも散見されるようになる。
答え合わせスレでは、ボーダー超えた奴より、「筆記全滅した」というような痛ましい書き込みの方が多くなり、「1浪はセーフ、2浪はアウト」、「現役で小売よりはマシ」などの自分たちに都合が良い浪人肯定スレが目立つようになる。
「ここは良スレだ」と賛同して、浪人する自分たちを肯定。

6月初旬:特別区のボーダーは60、今年の国税は簡単すぎボーダー60超えたな等の書き込みが乱発する。12月から公務員特攻を決めた初学者はビビッて特別区は択一50なら論文読んでもらえる。国税は今年は難しすぎ、46くらいがボーダーじゃないの?と現実逃避を始める

6月中旬:特別区の発表で論文が平均レベルの奴は択一60超えであることが判明。50前半の合格者は論文がAランクだった事が判明。2~3月に会社を辞めた奴は2chに騙されたことに気がつき全滅を確信するが時は既に遅し。Wセミの宮本の「完璧に終わった人はいない。不安を抱えながら合格する。模試答練を間違ったとこを復習すればよい」という方便に騙された奴も多数。もちろん心が折れて国Ⅱは力を発揮できず。

7月下旬~8月上旬:地上の最終合格発表が出揃い、全滅者がゴロゴロ出てくる。県庁合格者は神クラスの扱いとなる。
また警察消防が、腹いせに「中小企業より、警察だろ」などの煽りスレを立てて憂さ晴らしをするのが、毎年の恒例行事となっている。
市役所BC日程スレが乱立するとともに、浪人肯定スレもこの頃がピークとなり、自分自身の逃げ場を作る。
それに対して現実を突きつける奴には、また同じように一致団結して対抗。諦めなければ公務員などと夢を見て、「6月に力を出し切れなかった奴が、果たして採用少ない独自日程に受かるのか」という現実から目を逸らす。
この時期になると2浪>ネット喫茶難民などの悲惨極まる報告も続出。「ハロワでの成果を報告するスレ」など傷の舐めあいスレが、多々見られるようになる。「4月から死ぬ気で勉強するぞ!」と宣言するも、「今遊んどかなきゃ」と浪人決定したにも関わらず、何の反省もなくまた遊ぶ(当然4月以降も)。
滑り止めの代名詞のごとく扱われていた国税が、高学歴扱いになり、警察消防も普通に優秀と言われるようになる。地元のスーパーに内定しても、普通に「良かったね」と言う返事が返ってくるようになり、何とも言えない荒廃した雰囲気となって、公務員試験板の一年は幕を閉じる


ハゲニキとの出会い

春、現実を突きつけられ殺伐とした空気が漂うコッパンスレであったが、そんな時に現れたのがハゲニキであった。

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殺伐とした流れをぶった切り、いい意味で空気を読まずにAAを投下するハゲニキに笑わせられることも多々あった。
また彼はそれだけでなく受験者にとって有益な情報も適宜投下してくれた。


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試験は続く

季節は夏になり筆記試験合格発表ののち人事院主催の官庁合同説明会、官庁訪問解禁と重要な日程が続く。

官庁合同説明会は採用予定官庁が一堂に会し官庁訪問先を決めるのに有益なイベントであるが、当時は官庁訪問解禁日の前日に開催するというクソ日程であり、優先順位の低い併願先を決めるのには使えるかもしれないがこの説明会で初めて説明を聞いた官庁を本命にするのは面接の準備を考えるとまず不可能であった。
ちなみにコッパンスレでも話題に上がっていたが、なぜか受験生の透けブラ率がやたら高かった()

またこの時期は、経産省は陽キャだの公安調査庁の面接に行ったら面接官がドラえもんのお面していただの宮内庁は家柄もみられるだの様々な怪情報も飛び交っていた。
本命以外にも趣味的に回りたいところもあったが日程的・精神的にそんな余裕はなかったのが悔やまれる。

合格発表、そして…

さていよいよ最終合格発表、そして採用面接解禁日の前日。
2重に緊張する住民たちにハゲニキはいつものようにAAを投下した。

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人事院面接の出来に不安があった私も緊張しつつハゲニキに励まされつつ眠りについた。
そして迎えた翌朝。

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最終合格発表日・採用面接初日という重要な1日が終わるころ、ゲリニキ、B以上確信ニキらコテハンたちの結果が次々に報告された。

「また夜会おう」
そう言って朝別れたハゲニキの結果報告を待ちわびる住人たち。
しかし、ハゲニキはこの投稿を最後に二度と現れることはなかった。

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不安と緊張で荒れるスレを和ませ有益な情報を投下し続けてくれたコッパンスレのハゲニキ。
彼が最終不合格で人知れず去ったのか、はたまた実は現職人事だったのかはわからない。
本当に彼がこの後公務員試験板に出没していないのかも正直わからない。
私の試験結果がどうだったのかについても敢えて触れない。

しかし、住人たちとハゲニキと過ごした数か月はかけがえのないものであり、私にとって唯一リアルタイムで体験した「2ちゃんであったいい話」なのだ。
今日も鏡に向かって遺伝を呪いつつも、私はそう思うのである。
ありがとう、ハゲニキ。

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