漢検闘争記

 今回は、漢検を受験してみて、また受験前のことそこはかとなく書き綴ろうと思う。

 今回受験した級は準1級だ。
理由は、かなり捻くれているものではあったが。
まず、どの級を受験するかひどく悩んだ。
その候補は、1級、準1級、2級だ。
この中で、1級に関しては無謀さを感じた為、
準1級か2級かを迷っていた。
否、厳密には準1級に決めていた。
ただ、決意をしかねていただけなのだ。
私の捻くれた性格は2級では味気ないと言う。
しかし、もう一方の弱い私が準1級なんて無理だと囁く。
それでも、私の捻くれた、空回りしている勝ち気な性格が競り勝った。

そういう何とも捻くれた経緯で、準1級受験を決断した。


ここから準1級合格への道が始まる。
早速、参考書を幾つか購入し、勉学に励んだ。
普通、勉強というものは苦に感じる人も多いだろう。しかし、好きなものを勉強するのはただただ楽しい。
来る日も来る日も漢検の勉強に励んだ。
夏季休暇の大半さえも勉強に費やした。
参考書は2周以上、他にも、辞書などで知識を蓄えていく。

しかしながら、やはり生易しいものではなかった。勉強をやればやるほど知識不足であると認識させられた。
「こんな語句見たことない」
「やったことがあったのに解けなかった」
「2級以下も受験しとけばよかった」
など、自責の念と後悔に袋叩きにされた。
やはり、無謀なのか。無難に2級を受けるべきだったのか。そんな思考が頭を駆け巡る。
それでも、それでも、成長も感じられていた。
少しずつではあるものの知識がついてきた感触を掴んだり、初遭遇の語句も推測で正答を導いたりと着実に力を延ばしていた。

参考書も2周以上し終え、準1級対象漢字を一通り学習。更には、漢検リピーターの方々の情報や資料、過去問など出来ることは何でも手を出した。
知識不足を補う為には、労を厭わなかった。
寧ろ、未だ見ぬ知識を得るのはとても知的好奇心を掻き立てた。
他の友達らが夏祭りやら部活やらを楽しむ中、私はひたすらに勉強をしていた。
「これが私の青春だ」そう自身に言い聞かせて我武者羅に奔走した。

とある日のこと。
「そろそろ模試と過去問にも着手するか」
早速、評判の良い模試を力試しに一度解いてみた。
ふむ、やった事あるやつだ。
私は順調だと思っていたが勘違いだった。
だんだんと難易度を認識し始めると、顔の色を失いつつあることを実感した。
それはあたかも地図の無い未開の樹海を掻き分け進むようであった。
先の見えない恐怖、天狗になっていた鼻をへし折られ、絶望の縁へと追い込まれた。
これまではご丁寧に地図に目的地が記され、また、そこへ行く為の方法さえも書いてあった。
そこからいきなり黒闇無間を進めと言われても出来るはずかなった。
唇を噛みつつ、採点を始めた。
私の答案用紙に添削された赤い文字が並んでいるのを見てただただ悔しかった。

その日は久しぶりに弱い私が帰ってきた。
他のやつらは青春を謳歌しているのに私は何をしているのだろうかと。
近頃、周囲との隔たりをひしひしを感じ、疎外感を覚えていたからこそより感傷に浸った。
それは、以前から私の趣味を解する人が少なかったことに加え私も周囲に合わせようとしなかったが故に惹起した問題だったのだが。

そんな屈辱を経験した私は更に内容を強化した。
開き直って勉強するしかないのだ。悔やんでも残るのは空虚感だけ。
それならば、負け犬らしく足掻いた方がお似合いだ。そう結論づけた。
その後も幾つかの模試に挑戦した。
模試を解き、間違えた問題を復習し、更に知識を蓄え、貪欲に知識を欲した。
しかし、いずれの模試も7割という歯がゆい結果に終わった。
合格には最低8割は必須なのだが、手が届きそうで届かない。
それは目の前にあるように思えた。しかし、それは遥か高みで私を見下し嘲笑していた。
この時は本当に苦しかった。
これまでたくさん勉強はしてきた。それでも、全然足りなかったことを突き付けられた。
空虚感と悔しさがふつふつと湧き上がる。
足りない、足りない、足りないと言い聞かせ、愚直に努力を重ねるしかなかった。


そんな中、転機が訪れる。
普段は模試を解くのだが、この日は過去問に手を出していた。
一度、本物の問題に立ち向かいたかったのだ。
過去問題集と答案用紙を配置し、いつものようにタイマーを本試験と同じ制限時間に設定した。

解答を始めて何分か経った後、違和感を覚えた。難しいと思っていた過去問が嘘みたいに解けるのだ。当然、分からない問題もあった。
しかし、それを加味しても模試よりも出来が良いのを感じずにはいられなかった。
この時、初めて勉強の成果を実感した。
苦学の末に実った果実はまだ小さかったが、その木は気付かぬうちに実をつけるほど成長していた。

採点の結果、8割を超え、9割にも迫る程であった。しかし、それで慢心する私ではない。
本番どれ程の難易度かは不明なのだ。どんな難易度でも合格出来る力はつけておきたかった。
それ故に、勉学を怠ることはあるはずがなかった。
これを皮切りに模試でも8割を超えるようになった。
ここでもやはり、気を緩めず知識の強化、定着に精を出す。

そんな磨穿鉄硯の日々を重ねていた。

そして遂に本番2日前となる。
これまで解いてきた模試や過去問の解き直しを開始した。ここで得られる知識は定着させる為である。
解いた模試、過去問は全て9割を超えたから、知識はついているだろうと判断し、自信もついた。
本当は合格に必要な知識は足りないかもしれない。まだまだ力不足なのかもしれないけれども、今あるもので勝負しなければならないのだ。くよくよしている場合ではない。
腹を括って、歯を食いしばり、全身全霊で挑まねばならぬ。


そして、本番当日。
私は緊張せず、寧ろ平然としていた。
やることはやったのだ。くよくよとする必要はない。そう考えていた。
会場へ向かう途中、これまでのことをただ漠然と回顧していた。
そんな事をしていたら、気づけば会場へ到着していた。
そして、指定された席へと着く。
私が受験する地域は田舎であったから人も少ないだろうと思っていたが、案外人がいたことに驚いた。
その時を今か今かと何度も時計に目を落とす。
すると、担当者から試験の説明が始まった。
いよいよか……
気が引き締まるのと同時に楽しみだという感情も湧き上がってきている自分がいた。
場に響き渡る「始めてください」という開始の声。
私は落ち着きつつも意気揚々と問題用紙を捲る。
順番に解いていき、順調だった。
分からない問題も当然あった。それでも、この会場でこの問題を解いていることはただ楽しかった。
時には、(私にとっての)難問に顔をしかめつつ、終始笑顔だったと思われる。
楽しく楽しく仕方がない。
一通り解き終わり、自己採点用に解答をメモし、分からなかった問題を処理にかかる。
結局分からなかったのだが、私は何とも言えない高揚感に浸っていた。
やり切った。それだけであるのに、それだけで私にとっては充分であった。
終了の合図と共に一礼をし、会場を後にした。
そして、自分でも分からない謎の充足感に満ちたまま、帰路についた。

自宅に到着し、自己採点をしてみる。
Twitterにて有能な方が標準解答予想を制作してくれていた為、手間はかからなかった。
おおよそ、分からなかった箇所が間違っていた。今回の問題は所々に難所はあったが、全然的に易しかった。
結果は200点満点中175点。
最低合格ラインが160点であるので余裕がある点数だ。
結果はまだ確定したわけではないが、合格は固そうだ。

この約7ヶ月、苦楽に奮闘してきた。
ノートを何冊も使い切り、時に辛酸を舐め、時に自信に溢れた。山あり谷ありという言葉がお似合いな期間だった。
多くの人に影響を受け、応援して頂き、感謝しかない。
ここまで続けられたのも様々な方のおかげだ。
この後には共通テストという最終決戦が待ち受けている。
それを乗り越えた暁には多くの検定に挑戦を挑みたと構想している。

以上、漢検闘争記でした。

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