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Midsommarを観た

ネタバレを含む。でもホラーのネタバレとは…?



よかったところ

オープニング
これはもう完全に良い。主人公の女性の妹が両親を道連れにガスを引き込んで自殺するという引くほど陰鬱なエピソードから始まるのだが、家族の訃報を知った主人公が恋人の膝にとりすがって慟哭している様へカメラが寄り、観客の視線は彼らを通り越していったん窓の外へ出る。夜の吹雪からタイトルバックが浮かび上がるが、カメラはまた屋内へ戻り、そこではすでに夜が明けていて、家族を喪った主人公の日常が続く。この内/外ー日常/非日常という偏執的に整頓された構造はよかった。

友人
一組のカップル、真面目キャラ、自分勝手キャラ、案内役キャラ、という王道中の王道で構成された主人公グループだが、この「自分勝手キャラ」が最高だった。そもそも旅行前から主人公の男性に「あんなメンヘラ女別れちまえよ」と迫ったり口裏を合わせて主人公の女性に優しくすることを拒んだり、もっとも人間味のあるキャラクターといえる(そして人間味のあるキャラクターが真っ先に死ぬのはホラーのお約束だ)。こいつはホルガで尊重されている枯木にションベンをひっかけてたいそう怒られてしまい、村の男性に終始睨まれるという目に遭うのだが、「まだ睨んでる、あいつオレを殺すんじゃないか…」と冗談めかして言うセリフがまったく冗談にならないことは、観客には伝わっていたわけだ。

ホルガで用いられる長回し
だだっ広い草原に住むホルガの住民の暮らしを、いずれにせよカメラで切り取らなければいけないわけだが、ごく普通にカットを割って軽快に撮ったとしたらもうすこし作り物くさくなっていた気がする。いや、たしかに照明や色彩の効果で限りなく作り物くさく宙に浮いている感じはするのだが、そういう世界をもっともらしく長回しで撮ることのアンバランスさが、独特の不気味さに貢献しているというか。たとえばホルガ到着前に一度車を降りて薬物をきめるシークエンスなど、主人公の女性の背中にピントは合っているのだが、後景では友人が再会のハグをしていたり、別の村人が輪になってくつろいでいたり、というすべてを途切れなく撮ってしまうことから出る一種のリアリティが、居心地が悪くてよかった。

エンディング・笑顔
けっきょくこれはひとりの女性が家族を喪い、悲嘆に暮れるなか軽薄な男性との共依存関係から抜け出し、新しい強固な家族(それは当然また違う種の共依存関係なのだが)を手に入れる話、ということができる。家族を喪失したとき恋人はともに泣いてくれなかったが(いやふつうに考えて一緒にワンワン泣かれても困るが)、ホルガの家族は恋人に不貞されたときともに泣いてくれるのだ(考えてみればホルガの人々は生贄を捧げる際、まるで他の人間も一緒に痛みを覚えているかのように苦悶し泣き叫ぶわけで、これは他我の境界線が確立した現代西洋的個人とはまったく異なるあり方であり…云々)。彼女は恋人を生贄に捧げることを選ぶわけだが、もはや堅固な家族がいるわけで、そうした過去の一切の関係は不要なのだ。こうした一種のイニシエーションの物語と考えるとき、女性がエンディングで笑みを浮かべるのは必然であり、あれ以外ないだろうという感じがする。

よくなかったところ

踊りのシーン、の一部
三幕冒頭で主人公の女性は村の女王を決めるダンスバトル(音楽に合わせて延々と踊り、最後まで立っていた者を女王とする)に参加する。まあずっと動いてるわけだからだんだんと朦朧としてきて法悦状態になるわけだが、その演出があんまりだった。女性の顔を大写しにしたのを何枚もオーバーラップさせて異常さ・女性の変容を演出しているのが、なんというか少し安直な感じ。女性の肩のあたりにピントを合わせて、隣で踊っている女性目線で踊りを撮ったり、上空から直角に撮っているのはとてもきれいで、それをもう少しちゃんと観たいという気分になる。

死体の扱い
学生たちはひとりまたひとりと殺されていくわけだが、その中で背中の皮を剥がれて羽根のように広げられ、小屋の中に吊られるという死に様がある。観たときはこれ完全にハンニバルやんけとなったのだが、「血のワシ」と呼ばれる、中世北欧で行われていた儀式的な処刑法を模したものという指摘をしている記事があり、あぁ、むしろこっちが元ネタかと。シェイクスピア/ブレードランナー/ジョジョ現象がここにもあった。

黄色
色彩にこだわった作品なのは言うまでもなく、どこを見ても調和が取れていてきれいなのだが、三幕で唐突に現れる黄色い馬車の浮きようがすごかった。観光地にありそうな、動きはしないけど乗り込むことはできるニセモノの馬車みたいな感じのアレ。あれはなんだったんだろうか。同時に、ラスト9人の生贄が焼死することになる「神殿」の黄色も異様に浮いており、意図がわからんという感じだった。あとふつうに神殿が燃えるところもっとゆっくり見せてほしかったな…

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