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エドゥアルド・ヴェルキン『サハリン島』

『サハリン島』を読んだ。大変おもしろかった。
内容はまったくカオスで、実現されるべき未来の存続のために未来が過去(作中の現在)に侵入してきて、望ましくないものは排除されるっぽい。それで、今ってサハリン(樺太)がヤバいことになってるからこのままじゃヤバいかもしれない。だからとりあえずどんな感じになってるのか見に行く。という話だ。

サハリンがヤバいことになっているのは、これより前に核戦争が起きて欧米が死んで、生き残った工業国が日本だけだから。あとユーラシア大陸のほうで謎のゾンビウイルスが発生して、大量の中国人とコリアンがサハリン伝いに避難しようとしてきてるから。

突飛な話だが、ものすごくエネルギーのある作品で、汚言症で不敬罪に問われた囚人が首吊ろうとして、滑って歯折って結果めでたしめでたしみたいなエピソードが出てくる。ちなみにこいつはその悪口のエネルギーを買われて反体制派の集会とかに呼ばれ、アジテーションでメシにありつく。実は入れ歯を作ったので、アジる時は入れ歯をはめて、「天皇の精神や賢明な政策を熱く讃えるべき時」には入れ歯を外せばいいから、万事ハッピーみたいな。

アメリカがまだあった頃、四つん這いこそが人間のあるべき姿勢であって、二足歩行は自然を冒涜してるっていう新興宗教が大流行りして、パレードにたくさんの人間がカサカサ這って行ったみたいな話もある。サハリンでも生き残っていて、わずかな寄付のために膝の皮をグチャグチャにするキモいやつらみたいな扱いを受けている。

この手のエピソードはまだまだあって、

・ニグロぶちのめし(一種のガス抜き行事で、檻に入れられた人間へ殺さない程度に石を投げてみんなでアガる。ちなみにアフリカ系ではなくアメリカ人が雑に全員ニグロと呼ばれている。)
・詩を読んでるつもりがいつの間にか大量殺人を扇動してた詩人
・有島武郎の本を食べて腸炎で二日かけて自殺した軍人
・マジで絶対に気が狂う部屋
・犬に執着しまくるおじさん
・水がこわいので海に近寄れないゾンビ
・多すぎて運べないのでその場で燃やされてギュッギュッて圧縮されて消毒される死体
・死体を燃やすことで作られた電気(「死体を燃料にすることは得策な上、自然に優しい。」)
・死体を原料に作られた石鹸(「死体は脂っ気が少なくて質が悪いから作れるのは一体あたりおよそ二個だ」)

やってることはグロすぎるが、描写が簡潔なのでふつうに読める。重大で感動的な破局を迎えるシーンの、重要な人物の背後で、大量の中国人が押し寄せて、先頭の人間が鉄条網に押し付けられてドンドン肉片になってくみたいな話もある。ひどすぎるよ。

だが、このようなサハリン島の状況でも主人公は明るくて、未来は良くなるはずだ!みたいな感じになる。どこからそう思えたのかわからないが、「アンタがそうならそうなんじゃないの…」と思わせる勢いで作品が迫ってくる。

ちなみに、著者はけっこうな日本フリークらしく、本作品を『風の谷のナウシカ』に連なる作品と言っているが、ナウシカにこんなおもしろ人殺しのシーンはありません!

人が大量にちょっとおもしろく死んでいく自称ナウシカ2.0、いかがだろうか。

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