見出し画像

『DUNE/デューン 砂の惑星』をみた

あんまりおもしろくなかった。超巨大建築や超広大空間と小さな人々を引きで撮るヴィールヌーヴのお得意のやつはあいかわらず見応えがあるが、それだけという感じ。

シェイクスピア史劇のようなもってまわった言い回しや意味深な警句が、作品全体のテンポと噛み合っていないように思う。キャラクターへ親しみも感じさせないうちにみんな退場させるが、そのかわりに勢いがあるかというとそれもなく、腰が落ち着かない。飛び立つ船団を遠目で見守る(おまえも乗るんだろ)シャラメのシーンとか本当にいらないし、夢を見るシャラメのショットも多すぎて重要度が下がってしまうし、裏切り者にサラッと自白させてサラッと消えさせるのは稚拙だ。必要性が低く密度も低いシークエンスにハンス・ジマーの音楽を詰め込むものだから緩急がつかず、ただ疲れる。

すぐれた作品には必ずテーマがある。たしかにDUNEは3部作?2部作?だが、たとえばハリーポッターは1作目でハリーの出生の秘密という今後続く大テーマを提示し、作品内で消化されるべき小目標の提示にも成功していた。ブレードランナー2049にだってライアン・ゴズリングの生まれという同様のテーマがあった。ひるがえってDUNEのテーマは、これは原作を読んでいないのでまったく的外れなことを言っていたら恥ずかしいのだが、ひとまずは主人公の少年の成長といえるだろう。少年は王位継承者で、謎の力も受け継いでおり、来るべき時のために武芸やその謎の力の鍛錬を積んでいる。けれども運命は彼の修行時代の完成を待たずに少年を戦争へ放り込んでしまう。準備不足のまま実戦へ投入される少年の、失敗と成長がこの作品のテーマのひとつではないだろうか。この大切な柱をもとにもっとシェイプアップしてくれれば、この映画もずいぶんと観やすくなったはずだと思う。ラスト、主人公の初めての殺人のシーンは、それまでの間延びしたテンポの結果として無残な倦怠感とともに描かれてしまったが、本来は彼がパスした本作品内最大のイニシエーションとして大きく盛り上げられるべきだったはずだ。このようなピンボケの演出が本作品ではたくさん見受けられ、それはこのきれいな絵を持つ巨大な映画だけにとても残念なことだ。

いっぽう背景芸術と衣装や小道具はほんとうによくて、アクションシーンがダラダラと続かないのもよかった。砂をかぶった甲冑の騎士たちと黒衣の修道女とか、そういうのは無条件でテンションが上がる。あと悪役のスキンヘッド男爵たちもよくて、「砂漠に置いてくればオレたちが手を下したことにはなりませんからなぁゲッヘッヘッ」とケチなことを言ったり、唐突に「この女に乱暴しちゃおうかな〜チラッチラッ」みたいなことを言い出す。ぜんぜんそんな感じじゃなかったのに。スキンヘッドの親玉の背中にはなんかソケットみたいなものがあり、恐らくそれでアームのようなものと接続して巨体を浮き上がらせるのだが、それで…何…?という感じも良かった。というか、ああいう古き良きアメコミのヴィランに似たキャラクターを描くなら、やはり主人公の造形と噛み合っていない。結局どうもこうなにか座りが悪いのだよなぁ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?