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日本語を母語としない子どもたちの学びの個性に寄り添う現場から。

ミーナさん(仮名)はアフリカにルーツを持つ日本人です。アフリカ人の父と日本人の母との間に生まれ、4歳まで日本で育ちましたが、両親の離婚に伴い、以降は父の母国にある実家に預けられました。現地にある小中学校で学び、16歳で日本に帰国しましたが、日本語は忘れておりゼロから学ぶことになりました。

ミーナさんが私たちの運営する日本語を母語としない子どものための専門支援事業YSCグローバル・スクールにやってきたのは2017年の春。日本語の初級クラスから学習をスタートしましたが、他のクラスメートと比べると学びのスピードがゆっくりで、文法も新しく登場した日本語の単語もなかなか覚えることができず、授業内容についていけない時間が徐々に増えていきました。日本語の会話もなかなか上達しない中、なんとか日本語の学習を終え、ミーナさんの目標である高校入試に向けて数学や英語などの教科のクラスがスタートすると、ミーナさんが小学校レベルの内容の理解が難しいことがわかりました。

「なかなか日本語が上達しない子」の背景は多様

ミーナさんのように日本語などの習得速度がほかの子どもと比べてゆっくりだったり、学齢相応の基礎学力が身についていない外国にルーツを持つお子さんの場合、いくつかの理由を考えることができます。1つ目は発達に課題(凸凹)がある可能性で、もう1つは出身国(特に開発途上国)における教育へのアクセスが不十分であった可能性です。

またこの他に、出身国のカリキュラムが日本国内のものとは異なり、同じ年齢でも既習範囲に差があることや、来日(または帰国)直後の場合に、日本での生活に戸惑いや不安がある等の理由から「日本語を(日本語で)学ぶ」ことへ(心理的/身体的な)抵抗感が生じている可能性も考えられます。同様に、親の都合で不本意に来日しなくてはならなかった場合に、その状況に対する怒りと反抗心から、学ぶことに対して前向きになれないなどの理由が挙げられます。

学びの環境を変えて様子を見る

ミーナさんの場合、アフリカで小学校と中学校相当は修了して来日しており、極端に学校教育へのアクセスが断たれた状態ではありませんでした。学習時間中に集中し切れなかったり、理解できないことがあると「わからない!」と言って怒りだしたりと言った様子は見られましたが、行動面で極端な凸凹も見られませんでした。

確かに学ぶペースは遅く、学力も「空白」が目立つものの、何らかの障害に起因するものとは言い切れない状況でした。本来は、彼女のように15歳以上で来日(帰国)し、当該年度中の高校入試受検を目指す子どもたちは、日本語学習カリキュラムが終了した直後から入試対策の学習を行うことになっているのですが、彼女の状況を考慮しその時点で無理に合流させることなく、少人数の学習グループで個別指導の時間を増やしながらていねいに様子を見ることにしました。

ミーナさんが初めてスクールでの学習をスタートさせてから6か月以上が経過した今、彼女の表情は見違えるほど明るくなりました。スクールの中で友人もでき、日本語もよく口にするようになりましたし、わからないことは辞書を使って自分で調べる習慣もつきはじめ、数学は方程式を解けるまでに積みあがってきました。2桁の算数の計算が難しかった数か月前からは想像もできないほど、まるでスポンジのように知識を吸収しはじめていて、その成長ぶりに周囲は驚いています。

今のこの成長ぶりを見ていると、彼女は「学べない」のではなく、彼女の学びの個性に合った学び方や環境にこれまで出会う機会がなかったのだろうなと思います。

その学びの個性を支援者側が「発見」することができたことや、その個性に合わせた学習を提供できたこと、私たちのスクールが、少なくとも今の彼女の成長を支えられていることに安堵しています。

まだまだ高校入試や高校進学後の不安はぬぐえない状況ではありますが、スクールを卒業する日まで、可能な限り彼女の成長を促進できるようなサポートをしていけたらと考えています。

子ども自身に原因を求める前に…

ミーナさんに限らず、日本語を母語としない子どもたちの中には「発達障害の状況と酷似している」ような状態にあるように見える子どもたちは少なくありません。そしてそれが実際に機能的に障害が原因となっているのかどうかは、日本語ができない日本語を母語としない子どもの場合、慎重に考える必要があります。

前述の通り、国によってカリキュラムが異なっていて「遅れている」ように見えるだけだったり、日本の生活に心理的・身体的に慣れていなくて安心して学ぶ準備ができていないだけだったり、あるいは、開発途上国で教育自体へのアクセスが限定されていたりなど、これまでの(そして今の)環境に拠るところも小さくありません。

外国ルーツの子どもたちを支える大人のひとりとして、まずは「環境要因から考える」ということは常に心がけていたいなと思っています。実際に日本語を母語としない子どもたちの直面する課題の多くは、(支援の質や量、教育制度を含めて)彼らを取り巻く環境にその原因が求められるものです。

その環境の変化を、個人レベルにおいても、社会全体においても促していきたい。2018年に向けて、あらためて決意表明を。


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