絶対に誰も開けたことのない扉

映画「ピストルオペラ」(2001)

21世紀の始まりを迎えすぐに撮影が開始されたというピストルオペラ。
「映画は絵画だ」と語る鈴木清順監督が色彩豊かな映像美の中で、殺し屋の闘い、死の哲学、アクション、理解不能なセリフや表現を散りばめた怪作…
(死の哲学かどうか分からないが)




超面白い。表現方法がめちゃくちゃ好き……
期待大だったが、期待を裏切らずめちゃくちゃ面白かった。
誰も見たことがない映画であることは確かだ。誰が見ても仰天するだろう。

他の方のレビューにも同じようなことが書いてあったが、

究極の変態映画。変態とは性的な意味ではなく。何もかも正統でない。

前半は特に、映画を見ているというよりはうっすらストーリー性のある画集を見ている感じだなあと思ったのだが、後半になるにつれ、ちゃんと映画だなあと思った。

演技も、この映画の中では単にナチュラルで上手いだけではダメなんだろうな…すごいな……と思った。

新人で10歳の韓英恵さんは、オーディションでこの役を勝ち取った。
「アピールしたいことは?」
と聞かれて、「んー……」と首を傾げるところが年齢相応で、変にませたり大人びたりしていないところがよい。
彼女は非常に素直だ。
演技が上手いとか下手とかそういうのを抜きにしての魅力を買われたのだろう。
でも、その子供らしい裸の声。
そしてなんら稽古やテクニックを加えていないのに映画の中から出てきたような存在感と声質。
あと表情がとてもよい。あと勘がいいと思った。
冬の早朝に冷たいシャワーを浴びたときのような、鋭さと美しさ。
何事にも動じないヤンキー精神のようなものも感じてよい。そして顔立ちがとても美しい。
ついつい見入ってしまう役者さんだと思った。

車椅子で疾走し銃を撃つ「生活指導の先生」が非常によかった。海外ウケもよかったとのこと。この役者さんもオーディションで選ばれた方だそう。目の良さが評価されていた。

結局、死を表した作品なのかな…?
大まかな話の流れは分かったが、細かい全てを理解することはできなかった。(大半の人がそうだろう)
基本的に意味が分からない映画と言われているのだから。
ようつべで感想を語っている方がいて、「とあるシーンをきっかけに、これは死を描いた作品なんじゃないか?と思い始めたら、凄い面白くなってきた」みたいなことを言われていて、わたしもそのとあるシーンにたどり着いたとき、なるほど凄く面白いと思った。

監督いはく、セット等に哲学的背景やロジックが表現されているとのこと。
「ピストルオペラは一冊の本になる。だが、それをやる人物は出てこない。良いとか悪いとか言うのは出てくるけど。何もわかっちゃいないよ。」というようなことを仰っていた。

曼荼羅がかけてあったり、風呂の中に入ったらまた別世界で、風呂の水面に写っていた富士山が別世界に入ると逆さ富士の影がひっそりと出ていたり……

色々なものが詰まっていて、本当に傑作……

オーディオコメンタリーにて
「一般の人がこれを理解するには10年かかる。この時点で興味を持つ客は先見のある客。」
「2011年ですね」
というような会話があった。
新しいやり方を定義しているというようなことも仰っていた。
今の映画シーンにこの作品の面影を感じる映画があると言われれば疑問だが……

こんなみずみずしい作品にもかかわらず、製作にあたっての中心メンバーは60〜80歳のおじいちゃん!!!
鈴木清順監督は感性が若いと役者さんも仰っていた。

未だ全く開いたことのない扉を開いたような感覚だった。

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