見出し画像

雰囲気で読む官報【法律が公布されるまで】

【注意】
この記事は、2023年12月13日公布の「官報の発行に関する法律」が施行前に書かれた記事です。ご了承の上お読みください。

官報をご存じだろうか。1883年から休日を除いて毎日発行している政府の機関紙のことで、法令や政府機関の活動を広く国民に伝える役目を追っている。法令公布のときなどに官報を耳にする機会も多いのではないか。

けれど、官報を読む機会といわれるとあまりない。今や簡単にネットで見れる時代だ。しかも近い将来、ネット版が正本となることが決まっている。官報の入手難易度は驚くほど低いので本来であればドシドシ読まれるべきなのである。

しかし、掲載内容は膨大かつ難解で広く国民に伝えることを標榜してはいるが官報で情報を発信するのは困難だ。そのため官報をソースとしてマスメディアやネット、書籍などで平易なものに再編集されてから拡散されている。

だけど原典に当たってみたいものだ。
筆者自身、法に携わる立場や法学部生ではないけれど、面白そうなトピックがあればとりあえず読んでみたりする。何か新たな発見があるかもしれない。

そんなわけで本記事では、著者が官報を読みながら知った内容の備忘録としつつ、下記の2つを書き残そうと思う。

①官報を読む上で役に立つ情報
②官報に関連する法律公布の過程

だから、雰囲気で読もう官報!

①-A.官報にアクセスするには

2023年12月現在、官報にアクセスしようとすると紙面、インターネット版、データベースの3タイプがあります。それに過去の官報を読む方法として他2つの手段も解説したい。

1.紙面

紙面で読む方法としては、この3つが考えられます。

・国立印刷局の掲示板
・官報を購読
・図書館などで読む

ただ毎日購読するとなると費用面や紙面の量から考えても、あまり現実的とは言えず勧めることはできない。

2.インターネット版官報

インターネット版官報は国立印刷局がインターネットで公開している官報のことで、現在は正本ではないものの内容の同一性を確保しており、将来的にはこちらが正本になることも決定しています。今回は、このインターネット版官報をメインに取り上げます。

デメリットもあって、インターネット版官報は直近90日までしか確認できずバックナンバーを読みたいとなると不便を感じるかもしれないです。そのような場合は下記の3、4、5の手段で代替する必要があります。

ちなみに、1999年から国立印刷局でインターネット版官報として公開されるようになりましたが、それ以前にも官報を公開している官庁があったようで、首相官邸のホームページだと1995年から官報の目次だけではあるが閲覧することができました。

国立国会図書館WARPより「首相官邸ホームページ(2004年11月19日)

3.データベース(有料サービス)

国立印刷局が管理している官報情報検索サービスという官報のデータベースがあり、有料ではあるものの過去分も閲覧することが可能です。図書館などではこのサービスを契約しているところもありるので、活用してみてはいかがでしょうか。

4.1952年以前ならNDLデジタルアーカイブ

また、1952年以前の官報であれば国立国会図書館デジタルアーカイブで確認することができます。

5.「官報検索!」というサイトもあるけれど……

官報検索というサイトもあって、こちらは官報情報検索サービスとは異なり無料で過去の官報を読むことができます。
但し、国立印刷局が提供の「官報」とは全く関係ないこと、プライバシーに関するものは掲載されていないためそれらを認識した上でご利用ください。

官報検索!

①-B.官報の種類について

実際にインターネット版官報を開き、本日の官報の列に目を移すと、第○○○号と書かれた複数のリンクがあって部数ごとに分けられていることが分かります。
これを大別すると本紙と号外、政府調達版(政府調達広告版)に加え特別号外の四種類があることが確認できると思います。

国立印刷局HP「インターネット官報(2023/12/1)」より

・号外は本紙に掲載できなかったもの

本紙はともかく、号外と特別号外の違いってなんだよと思われた方も多いかもしれない。号外なのだから臨時に発行されたものであるだろうと。号外が発行されない日もあるが、基本的には毎日発行されている。

では何が号外なのかといえば、本紙に掲載しきれなかった項目を別紙として発行したもの、それを「号外」と呼んでいる。ちなみに本紙は32ページまでと決まっているらしく、それ以上の場合に号外が発行されるようだ。

・特別号外は"いつでも"発行

内閣府の指示に基づき、休日・勤務時間外であっても必要なときに発行されている官報、これが特別号外です。

通常の号外との違いは緊急性でしょうか。号外だと本紙と同じく休日を除く午前8時30分に発行されているけれど、特別号外の場合は災害時等で臨時に発行しなければいけない場合などに発行される点が大きな違いです。そのため、特別号外は24時間365日発行できる体制としているようです。

・政府調達広告

政府調達広告版は政府機関や独立行政法人などの一般競争契約や調達情報を掲載しています。要は政府がどのような物品を購入又はリースをしているかがここを見れば分かるらしい。筆者はあまり読まないページなのでそれ以上のことは分からないです。

あと月に1回、10日前後には、1ヶ月分の掲載された法令の目録が別の冊子として発行されています。

①-C.官報への掲載順

官報の掲載順について見ていきたい。
掲載事項の順番が決まっていて、おおよそは法体系のピラミッド順、それらの掲載が終わってから他の事項となっています。

1 憲法改正、2 詔書、3 法律、4 政令、5 条約、6 最高裁規則、7 内閣官房令・内閣府令・デジタル庁令・省令8 規則、9 庁令、10 訓令、11 告示、12 国会事項、13 人事異動、14 叙位・叙勲、15 褒賞、16 皇室事項、17 官庁報告、18 資料、19 地方自治事項、20 公告

紙面の冒頭には目次が掲載されているけれど、インターネット版官報だとリンク付きの目次を見ることになるのでここを読む機会はあまりなさそうです。

一方、目次に続いて「本号で公布された法律のあらまし」という、公布された法律や政令、条約の理解の助けとなるよう概略のようなものが掲載されています。長ったらしい本文を読む前に、ここを参照しておきたいところです。

インターネット版官報 令和5年11月29日(号外 第250号)」より

②法律の公布について

官報を読む上で知っておくと便利なトピックを述べてきたが、ここからは発行される前段階について解説したい。

様々な事項が掲載されるが、その中でも官報における法律の公布について焦点を当ててみたい。

・官報による法律公布の歴史

まずは法律の公布の歴史について。

官報自体は1883年から発行されており、発行当初は各省からばらばらに出されていた達や告示(当時の法令)を、国が発行する機関紙にまとめてて掲載することで、国の法令や政策を明確に広報することを目的に始まります。

この官報発行を建議したのはかの山縣有朋で、国民の「公共心」を育成しながら行政に協力するに必要な「智識経験」を国民に得させようとする彼の思想に合致するものであったことが伺えます。

1885年には内閣制度の創設とともに内閣の布達も掲載されるようになり、名実ともに法令の公式機関紙となっています。

翌年には公文式が公布され、法律や勅令、閣令、省令などの区分や法令の形式が整えらています。またこのときに、法律と命令は官報で布告する旨が定められています。

後に公文令は廃止、発展させる形で1907年には公式令が公布されます。このとき法令はすべて官報をもって公布することとなり、法令の公布制度が確立しています。

けれど、日本国憲法の施行時に公式令が廃止され、官報による法令の公布や法令の形式に関する法的根拠が失われてしまいました。その後も法律が定められず慣例として続けられていました。

なお、官報による公布に関しては官報で公布することを明記した法律が成立したので、晴れて法的根拠が発生する予定です。

・公布時の形式

次に官報に掲載される法律を見ていこう。

その一例として、国立国会図書館法が公布された際の官報を分析しつつ、そのフォーマットを確認したい。

大蔵省印刷局 [編]『官報』1948年02月09日より
大蔵省印刷局 [編]『官報』1948年02月09日より

法律のフォーマットは、公布文(○○をここに公布する。御名御璽、公布年月日、署名)、法令番号、題名、条文(本則・附則、場合によって前文)に続き、最後にもう一度、主任の国務大臣と内閣総理大臣の署名が付されます。

官報における表記ですが法令なので今も変わらず縦書きのようです。法令データを提供しているe-Gov法令検索は横書き表示となっていますが、官報は相変わらず縦書きです。

縦書きの理由は分かりませんが、そもそもの公布手続き時の文書が縦書きなのでそれに則っているからなのでしょうか。
古い資料にも法令は例外的に縦書きとすると記されているので、そういう慣習なんだなぐらいの認識です。

件名:文書の左横書き実施に関する要綱について
1960年、内閣官房の事務効率化のため文書の左書きを実施するための要領だが、法令はその例外とされている。

・公布手続き

ここからは官報に関わる公布の手続きについて見ていきたい。
具体的には国会で法律が成立してから公布されるまでの過程、それを官報や公文書から読み解きつつ考察したいと思います。なお、国会で法律が成立する前の話は割愛します。

1.法律成立
法案は国会で審議され衆議院と参議院の双方で可決、法律として成立します。

2.奏上(国会→内閣)
可決した後議院の議長が、内閣を経由して天皇に奏上されます。

大蔵省印刷局 [編]『官報』1948年02月21日より
国立国会図書館法が、国会から上奏したときのもの
件名:住居表示に関する法律
衆議院から出された奏上書類と考えられる

3.奏上(内閣)

議長から内閣に送られた法律は、奏上されてから30日以内に公布されなければならないので、直近の閣議にかけられてから公布が決定されます。

閣議は内閣の意思決定を行う非公開の会議で、定例では火・金曜日の午前10時から行われます。公布日もこのときに決まります。

件名:住居表示に関する法律
法律公布を決定したときの閣議書。
各大臣が花押で署名をしている。
件名:住居表示に関する法律
閣議書に添えられている公布文。
閣議で公布文が付されていることが分かる。

閣議決定された案件は、下記の首相官邸ホームページで確認することができます。

またこのとき、後に御署名原本となる文書、その法律条文の最後に主任の大臣と内閣総理大臣が署名するものと考えられます。

簿冊:住居表示に関する法律・御署名原本・昭和三十七年・第五巻・法律第一一九号
法律条文の最後に主任大臣と内閣総理大臣の署名が記されている

4.裁可(内閣→天皇)

奏上された法律は、内閣の助言と承認により天皇の国事行為として公布されます。

具体的には、まず閣議決定された文書が奏上箱に入れられた後、内閣官房の職員によって皇居に送られます。閣議が火・金曜日なので同日の午後から行われる執務の場で御名と御璽が付されています。

宮内庁HP 「天皇皇后両陛下のご日程」より
閣議のある火・金曜日の午後には「ご執務」として国事行為が行われている。

このときに使われる文書が御署名原本と呼ばれるものです。法律や条約、政令の公布は天皇の国事行為なので御署名原本が作成されます。

簿冊:住居表示に関する法律・御署名原本・昭和三十七年・第五巻・法律第一一九号
御署名原本は先に閣議決定した資料を基に作成されていると考えられる

御名は天皇のご署名、御璽は「天皇御璽」と書かれた合金製の印のことで、1枚1枚書類を閲覧してから公布文に御名をお印になってから侍従が御璽を押している。いわば儀礼的な権威付けがなされています。

この国事行為、外国旅行やご静養で執務代行となるとき以外は休むことができないので、仮に国内旅行で皇居を出られていた場合などは閣議後に宮内庁職員が書類を届けられご執務されるそうです。また当然ながら署名拒否は憲法上許されていません。

実際の執務の様子は、下記のYoutube動画で公開されています。先々代の昭和天皇のご執務の様子ですが、現在でも同じことが行われているものと思われます。

御璽御名を得た後に、内閣総理大臣が副署します。

5.公布
署名後はいよいよ法律が公布されます。
内閣官房から国立印刷局に対して御署名原本の通り正式な原稿が送られ、それを基に官報の製版、印刷が行われます。そして公布日の午前8時半に国立印刷局前で官報が掲示されて法律の公布となります。

ちなみに、法律公布後の御署名原本の保管はどうなるのだろうか?
確認してみたところe-gov文書管理によれば、内閣官房の内閣総務官室本室内閣参事官が管理していることが伺えます。そして、公文書の保存期間が20年を過ぎた場合は、国立公文書館に移管、保存が継続されるものとみられます。

なお、保存期間の過ぎた御署名原本は国立公文書館デジタルアーカイブでスキャンデータの閲覧が可能です。原本の閲覧は原則できないようですが、著名な法令などは国立公文書館で展示される機会もあるので、国立公文書館からのプレスリリースを待ちたい。

国立公文書館で特別展示された日本国憲法の公布原本(本物)
常設展示ではその複製が展示されている。

【終わりに】
この記事は、「イウしキー Advent Calendar 2023」24日目の参加記事です。ためになるユニークな記事が見れますので、興味のある方は是非ご覧ください。

【参考文献】
国立印刷局
https://www.npb.go.jp/
内閣府「官報について」
https://www.cao.go.jp/others/soumu/kanpo/index.html
眞田 芳憲, 矢沢 久純『法令用語ア・ラ・カルト』中央経済グループパブリッシング(2023)
岡義武『山県有朋 明治日本の象徵』岩波書店(2019)
山本 雅人『天皇陛下の全仕事』講談社(2009)
内閣制度百年史編纂委員会 編『内閣制度百年史』上巻,内閣官房,1985.12. https://dl.ndl.go.jp/pid/12288310
憲法に規定する天皇の国事行為に関する文章等の形式例について
https://www.digital.archives.go.jp/img/3156378
官報の編集と発行 | 株式会社兵庫県官報販売所「官報の編集と発行」
https://kanpo-ad.com/kan-hensyu.html



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?