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読解力ってなに?独創性ってなに?

AI技術が進歩するにつれて、AIにできない能力が大事だと言われるようになりました。例えば「読解力」。ある文章や言葉から、意味とか意図を察する力だと言えると思いますが、読解力が高いためには何が必要なのでしょうか?

文脈から人の感情に共感する、ということも大事でしょう。言葉の意味を知っていて自在に扱えること(常識)も大事でしょう。ここでは、後者について少し考えたいと思います。

私たちが意思疎通できるのはとっても不思議なことです。例えば「痒い」というものがどういうものか、私たちは脳を開いて中の情報を共有したこともないのに、みんな(ほぼ)同じ感覚を「痒い」と示すことができます(本当に同じかは永遠にわからないのですが)。

しかし、ことばについて、自分たちが知っていることを理解してアウトプットすることは、とても難しい。「あなたのやりたいことを教えてください」ときかれて「自分のやっていること」を答えてしまう人も多い。でも「やりたいこと」の意味は知っていますよね。知っているはずなのに、うまく扱うことができない。次に、もう一つの例について考えてみました。

「独創性について教えてください」

私は研究を生業にしていますが、この質問は、研究者をワクワクさせもするし、地獄に貶めることもある、劇薬のような質問です。研究費を取得するときには、計画書を書いて他の人を説得し、金銭的な支援をもらう必要があるのですが、必ずといっていいほどこの質問が含まれています。「あなたの研究は何がおもろいのですか」と聞かれていると言い換えてもいいと思います。

では独創性(面白さ)ってなんだろう?

なんとなく独創性のあるものとそうでないものを区別できるので、おそらく私の頭にはすでに「独創性」は実装されていそうです。なので、その中身を言葉にしてみました。

その一、新しいこと。新しくないことをしているひとを独創的とは言わないのでこれは最低限必要でしょう。坂本龍馬は薩長同盟を成し遂げた。でも(司馬遼太郎先生によれば)それは、勝海舟ら頭の良いひとのアイデアであって龍馬のものではない。なので坂本龍馬は、この業績だけを見ると、独創的な人ではなさそうです。

その二、重要であること。まったく新しい漢字の「はらい」の書き方を開発した!という人がいたとします。そしてその新しさが非常に微々たるものだったとします。この「はらい」を独創的だと言うだろうか?これはこれで興味深くはありますが、あまりにもどうでも良いことのようにも見えて、そういうものを独創的というには抵抗があります。もしかしたら書道家の方々からすると意見が変わるかもしれないですね。

その三、人の個性と関連があること。言い換えると「この人にしか思いつけない」と思わせるようなものであること。実はこの三つ目が、もっとも見過ごされがちなポイントではないかと思います。「尻尾の巻き具合から柴犬ときつねの違いを見分ける簡単な方法を開発する」というプロジェクトがあったとしましょう。おそらくこれは新しいし、見間違いによって狐を育てようとしてしまう社会問題があったとしたら重要でしょう。この2つだけで、ある程度独創的と考える人も多いかもしれません。でも、この企画者が犬を飼ったこともない都会のサラリーマンである場合と、見間違いによって柴犬と狐をそれぞれ100匹飼ったことのあるブリーダーさんである場合で比較すると、どうでしょうか?

「世の中にはしば犬を飼うブリーダーでありながら狐を飼う人がたくさんいます。私は、この2つの動物を区別する全く新しい方法を考案しました」

「私は、これまで多くの間違いを犯し、しば犬を飼うブリーダーでありながら狐を飼ってきました。その経験から、この2つの動物を区別する全く新しい方法に思い至りました」

同じことを言っていても、後者の人がプレゼンをした方が、プロジェクトは何倍も独創的に聞こえるのではないでしょうか?

私には3つ目のポイントが不思議で面白いと思います。研究の面白さは、その内容だけでなく、「誰がするのか」によって左右される(ように見える)。人はやっぱり人に興味があるのかもしれません。

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