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新・チームいきものがかり-アーティストとマネジメントの新しい関係-<水野良樹×佐藤詳悟>

2020年4月に新体制となった「チームいきものがかり」。
いきものがかりの活動を支えるスタッフたちのインタビューを通じて、新たな船出を切ったメンバーの想いを紐解いていく。
今回は、
リーダー・水野良樹と、いきものがかりの360°プロデュースを手掛けることになった株式会社FIREBUGの代表・佐藤詳悟の対談をお送りする。

-お二人は大学の同級生なんですよね。

佐藤 そうですね。18年前になるのかな?

水野 
うわっ、もうそんな前になるのか!

佐藤 
大学で同じクラスだったんですよ。語学とかで週2、3回は同じ授業を受けていたのかな。だけど、水野は仮面浪人中だったから、同じ学校だったのは1年生のときの1年間だけで。

水野
 佐藤はクラスで懇親会などがあるときに幹事をやって、お店を押さえたり、みんなに連絡をしたりしてくれていて。だから「幹事の人」ぐらいの認識はあったけど、特別仲が良かったわけではないです。会話もほとんどしたことがなかったと思います。

佐藤
 水野が別の大学に行ってからは、共通の友達を通じて草野球をしたことが何回かあったんですけど、とはいえ、ほとんど連絡は取っていなくて。そこから時期が飛んで、2006年、「24時間テレビ」のときに偶然会ったんだよね。僕は吉本興業に新卒で入社し、ダイノジさんや、まちゃまちゃさんを担当していました。で、日産ギャラリーに行ったら、出演者用のTシャツを着ている水野がいて。

水野
 僕が大学を卒業して1年目だったから、佐藤は入社2年目だったのかな。佐藤が芸人さんに配るTシャツの管理をしていたんですけど、僕はそのとき「それは着ちゃダメだよ、出演者用のTシャツなんだから」って責められました(笑)。

佐藤
 そこで会話をするうちに「そういえば水野、音楽やってるって言ってたなあ」と思い出して。その日に吉岡や山下にも初めて会い、多分そこで水野と連絡先を交換したんだと思います。
そこから、水野とは定期的に集まるようになって。同じ業界にいる同世代同士、最近どういう仕事をやっているのか、情報交換をしていました。

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水野 僕は「次のツアーはこの会場でライブするよ」みたいな話をしていたと思う。それで実際、佐藤はライブに来てくれて。

佐藤 2006年以降は、ほぼ全部のツアーを観に行っているんですよ。それはなぜかというと、テンションが上がるから。僕は「24時間テレビ」のときにいきものがかりのことを初めてちゃんと知ったんですけど、それからいきものは、すごい勢いで階段を上っていって。エンタメ業界で働く同世代が近くにいなかったこともあってか、いきものがかりの活躍する姿を見ることが、僕にとって刺激になっていたんですよね。

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水野 刺激を受けていたのは僕の方も同じで。以前佐藤が、千原ジュニアさんの40歳ライブを企画したんですよ。両国国技館に5000人集めて、千原ジュニアさんの40歳を祝うイベントなんですけど、千原ジュニアさんが35歳の時から、つまりイベントの5年前からチケットを売り出すんです。5年前だとすごく安い値段でチケットを買うことができて、だんだん値段が上がっていく、みたいな。
当時佐藤は、千原ジュニアさんをほとんど担当したことがなかったのに、楽屋に行って、「こういう企画です」と伝えて、お願いしてみたら、ジュニアさんが面白がってくれて、「やってみようか」っていう流れになったらしくて。呑みの席でその話を聞いた時は、そして実際に実現させているところを見たときは、うわあ、すごいなあと思いました。



-そこからどういう流れで一緒に仕事をすることに?

佐藤 僕が2015年に吉本を辞めたんですけど、その少し前の時期から「自分の会社を作ろうと思っている」という話を水野にしていたんですよ。その頃には水野も、ソロ活動をやっていこうとしていたのかな。

水野
 楽曲提供の仕事をしたいという気持ちはあるけど、なかなか前に進まず……という状況が続いていた頃だったと思います。自分から事務所に「自分の裁量で個人の活動をやらせてもらえないだろうか」と相談したものの、自分一人でやるならマネージャーもいないわけだし、僕自身はお金の処理とかもしたことがないし……。「いや~、どうしていいか分からないけど頑張ってみるわ!」みたいなことを言っていたら、佐藤が「何か手伝えることがあったら手伝うよ」と声をかけていてくれたんですよね。
それで一緒にやるようになりました。佐藤の方から「それなら事務所にも挨拶をしにいかなきゃね」と言ってくれて、事務所へ一緒に説明しに行ったりもして。

佐藤 水野にはまず、「いきものがかりはめちゃくちゃ知名度が高いけど、水野が一人で世の中に出ていくことはこれまで多くなかった」、「だから、水野という存在を知ってもらうところから始めた方がいいと思うんだ」という話をして。

水野 それで「ちょっと考えてくるわ」って言った1週間後くらいに、2ヶ年計画を用意して来てくれたんですよ。僕はそういう年間スケジュールみたいなものをちゃんと見たことがなかったから、それをバンと出されたときに結構衝撃的だったというか。「うおお」ってなって(笑)。それに「いきものがかりの活動の邪魔にならないように」というのも含めて考えてくれていたんですよね。実際、そのとき計画していたことはほとんど叶いました。

集牧後は、いきものがかりの活動も水野個人の活動も両方ある状態だったので、事務所とレーベルと佐藤とで密に連絡を取り合う機会が増えてきて。元々、吉岡と山下には雑談のなかで佐藤のことを話していたから、そこからわりと自然な流れで「いきものがかりの活動を佐藤に手伝ってもらうことはありえるんだろうか」という話が出てきたんだと思います。

佐藤
 流れとしては、メンバーがキューブさんに「佐藤にいきものがかりも手伝ってもらえないだろうか」という話をし、それを受けてキューブさんが僕に依頼してくださったという感じです。それからは、キューブさんとソニーさんと僕とで上手く役割分担をしながら、「いきものがかりを盛り上がるためにはどうしたらいいだろうか」ということを考えていきました。
そのあと、いきものがかりは2019年の12月に独立を発表しましたけど、実は僕、発表直前までそれ(独立)を知らなかったんですよ。

水野 そうなんだよね。だから「独立するなら(サポートは)やらないよ」と佐藤に断られる可能性もあったわけだけど(笑)。

佐藤 そうして去年の11月ぐらいから急速に動いていって今に至る、という感じですね。
FIREBUGとしては、MOAI(いきものがかりの新会社)にできない部分は全部サポートさせていただきたいと思っています。そもそもメンバー3人のやりたいことが揃っていなければ僕らに手伝えることってほとんどないんですけど、いきものがかりの場合、そこは3人で一致していたし、グループとしての「こういうことをやりたい」というビジョンが明確だったので。ゴールに向かうために、スケジュールを組んだり、チームを作ったり……という面でお手伝いさせていただいている感じです。

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-いきものがかりはキューブから独立し、FIREBUGとプロデュース(エージェント)契約を締結しました。事務所に所属することによって、「事務所はアーティストの活動をサポートする」「アーティストは事務所のために活動を行う」という契約を結ぶのがマネジメント契約。アーティストが、自分たちの代わりに営業をしてくれる代理人を雇うのがエージェント契約。マネジメント契約の場合、窓口となる事務所に一旦収益が入り、そこからアーティストに還元されていく流れですが、エージェント契約の場合は、アーティストが代理人に報酬を支払います。

佐藤 この時代って、もはやアーティストのことを守りきれなくなってきていると思うんですよ。一部のメディアを統制すれば全部が統制できるわけでもない。だから結局は、アーティスト自身が考えなければならないことも多いんですよね。
だからこそ、アーティスト自身が権利と責任を持ったほうがいいし、アーティストとプロデューサーの関係性としてはこれが一番健全なんじゃないか、これが今の時代に合ったやり方なんじゃないか、と思います。……その辺ってアーティスト側からするとどうなの?

水野
 フェアだと思います。事務所に所属すると、その事務所と一蓮托生ということになるわけだけど、エージェント契約だと、ある種の緊張感が生まれるんですよね。仮にトラブルが起きれば、他のエージェントに変えようというふうになるし、エージェント側も「このアーティストには可能性がない」と判断したら契約を切ることができる。
つまり「この人とはプロとして向き合うことができる」という信頼によって成り立っている関係性なんですよ。それによって「この人にプロと思ってもらえるように、俺ももっと頑張ろう」みたいな気持ちになれるというか。それがお互いにとっての相乗効果になるような気がしますね。


-自立を求められるシビアな関係とも言えそうです。対して、マネジメント契約における事務所とアーティストって、親子関係に近いじゃないでですか。義理を果たさなければならない場面もあるけど、その分、いざというときに守ってもらえるというか。

水野 そうですね。そういう疑似親子関係によって上手く行っていたことももちろんあります。だけどそれって、アーティストが本来自分で背負わなければならないリスクを事務所に背負ってもらっていた、アーティストは社会人としてある種子どものままだった、ということでもあると思うんですよね。それって非常にリスキーなことで。
今までの芸能システムの場合、建前上は「アーティスト本人が考えてやっています」ということになっているけど、権利の面でも運用の面でも、最終的な決裁権を持っているのがアーティスト本人でないことが結構あります。
じゃあ決裁権を持つためにはどうしたらいいかというと、アーティスト自身が会社を立ち上げて、リスクを背負ってでもやっていくスタイルを取らざるを得ない。だけど、アーティストの多くは、外の会社との付き合い方や、自分という商品を世の中に伝えるためのノウハウ――もっと言うと一般的な社会スキルを持っていないことが多いんですよ。なぜなら、今まで事務所に任せきりだったから。
そうなると、事務所を辞めるなら他の事務所に入る選択肢しかない、という話になるわけで。


-事務所が変わっても親が変わるだけだから、結局決裁権は自分のところに来ない。そういう意味でエージェント契約は新たな選択肢になりえると。

水野
 はい。エージェント契約は、決裁権を僕ら(=アーティスト)の下に置いたまま、自分たちに足りない部分、手伝ってほしい部分を補ってもらうという考え方なので。

佐藤 一番大事なのは、アーティスト本人の「こういう活動をしたい」という意思がはっきりしていることですよね。それさえあれば、迷わずにジャッジできるし、どんどん動ける。逆に言うと、そこがはっきりしていないと、戦略が描けないし、僕らもサポートしようがないんですよ。
プロデューサーの役割って、アスリートにとってのコーチのようなものだと思っていて。例えば「オリンピックで金メダルを取りたい」というアスリートがいたとしたら、そこに対して「僕らはこういうお手伝いができますよ」と提案することはできる。だけど、目標自体を決めるのも、それに向かってトレーニングをするのも、アスリート自身にしかできないんですよね。


-今後こういう形って増えると思いますか?

水野
 どうでしょうね?多分、成功も失敗も含めて、この事例がたくさんの先例を作っていくことになると思うんですよ。それが波及していくといいですよね。
僕らを見て「同じような形でやってみようか」と考える人たちが出てきたりとか、佐藤やFIREBUGのみなさんが、いきものがかりと一緒に仕事したことによって得たノウハウで別のアーティストと繋がったりとか。そういうことがどんどん起きると、より(業界が)活性化していくんじゃないかと思います。


-4月から新たにスタートを切ったものの、思いがけず大変な状況になってしまいましたが。最初の3ヶ月を終えてみて、率直にどう感じていますか?

佐藤 まず、ライブができなかったのはすごく寂しかったし、とっても残念でした。

水野 そうですね。「ようやくファンのみなさんの前に立てる……!」というタイミングだったし、やっと安心してもらえるとも思っていたので、僕らとしても残念でした。

佐藤 だけど、何かが起きたときに、その時間を上手く利用してポジティブにやっていかないと、あまり意味がないですよね。
僕は、この期間でチームのメンバーが頭の中を整理できたのがよかったと思っています。さっきも言ったように、このプロジェクトは去年の11月ぐらいから急ピッチで動き出したので、仮に予定通りツアーが始まっていたら、ちゃんと腰を据えて「今後いきものがかりは何をやりたいんだっけ」というのをあまり話し合えないまま、2020年を終えることになっていたかもしれないなあと。

水野 僕は、確かに未曾有の困難ではあるけど、このチームでこの時期を迎えられたのはよかったと思っていますね。独立までの過程では「これからどうしようか」と3人だけで話し合っていた時期が結構長いことあって。あのときは本当に3人だけだったから、その状態で困難を迎えていたとしたら、もしかしたら心が折れていたかもしれない。今のように、毎週みんなと顔を突き合わせて、「あの件どうなってる?」と言い合いながら、一つひとつの問題に対処していく日々は非常に心強いです。
マネージャーともよく言っているんですよ。「始まっていきなりこんな危機が訪れるなんて、これを乗り越えられたとしたら相当強いチームになれるよね」って。そう考えたらもう、この先何でもできると思いますよ。前向きな時間にできています。

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-最後に、今後の展開について、話せる範囲で教えていただけますか。

佐藤 今って、テレビ番組に出演すれば、多くの人に観ていただけるような時代ではなくなってきているじゃないですか。みんながそれぞれの趣味趣向で、アクセスするチャネルを選んでいるので、それぞれのチャネルにふさわしいいきものがかりの形を考えていかなきゃいけないと思っていますね。一個一個丁寧に、観てくださる方々に届けていきたいなぁと。


-YouTubeでは吉岡さんの新プロジェクト「吉岡聖恵の毎日がどうよう日〜家族で歌おう!〜」がスタートし、Instagramでは山下さんの新ユニット「梅の花咲く頃」による作品投稿が始まり、そしてこのnoteも開設されました。特にデジタル領域において新たな取り組みがたくさん発表されていますよね。

佐藤 そうですね。コアなファンの方は「何かいろいろやり始めたなあ」と思ってくださっていると思います。
そういうふうに、ちょっと驚きも含めて、いろいろな形のいきものがかりをファンの方々/まだファンではない方々に届けられたら、とチームで話しているところです。今はそのための場がある程度揃ってきたところなので、これをきちんと運用していく感じになると思います。

水野 そういうふうに展開が増えてくると、逆説的に、僕ら作る側の人間は「作るもの(=音楽)をよりちゃんとしたものにしなければ」というプレッシャーに追われていくんですよ。今までの僕は「出口には誰がいるだろうか」みたいなことを器用ぶって考えながら作っていたんですけど、今後は「作るもの自体は純粋なものであろう」という気持ちがより強くなっているのかもしれない。
そうやって作るものが明確になっていくと、今度は届ける側も「この作品はこう届けるのがベストだよね」というポイントがより見えやすくなるんですよ。だからすごくいい循環にいると思います。そして僕は、より面倒くさいクリエイターになっていくんでしょうね(笑)。

【PROFILE】
株式会社FIREBUG 代表取締役 プロデューサー
佐藤詳悟

1983年生まれ。東京都出身。大学卒業後の2005年、吉本興業に入社。
ナインティナインやロンドンブーツ1号2号、COWCOW、ロバートなどのマネージャーを歴任。ロバート秋山の『クリエーターズ・ファイル』、COWCOWの『あたりまえ体操』などのコンテンツ開発にも携わる。2015年に独立。経営者や文化人など多様な背景を持つ人材のエージェント会社・QREATOR AGENTを立ち上げ、落合陽一や前田裕二などのメディア露出支援を行う。2016年には主にコンテンツプロデュースを行うFIREBUGを立ち上げ。メルカリやBASEなどのスタートアップ企業のマーケティング支援の他、AbemaTVやLINE LIVEなどにおける番組のコンテンツ制作、水嶋ヒロやよゐこをはじめとするタレントのYouTubeチャンネルの開発・運用、いきものがかりなどのアーティストの360°プロデュース事業を展開している。
取材日  : 20207月
取材/文 : 蜂須賀ちなみ (@_8suka)
ありがとうございます♡
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いきものがかりのこと。仕事のこと。音楽のこと。 メンバー3人やスタッフの言葉を通してお届けいたします。
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