いきものがかり・アルバム『WHO?』購入者限定配信ライブ「THE“特典”LIVE」挑戦し続ける姿勢を体現した 新たな映像表現の舞台裏に迫る
アルバム『WHO?』の世界に飛び込んだかのような没入感のある演出で、大きな話題を呼んだ「THE“特典”LIVE」。その驚きの映像表現はいかにして生まれたのか?
舞台となった配信スタジオ「BLACKBOX³」総支配人の岡村大輔さん、アルバムアートワークからトータルで演出を担当するHARUさんの言葉を交えて、その舞台裏に迫っていく。
ニューアルバム『WHO?』購入者限定配信ライブとして4月10日に開催された「THE“特典”LIVE」。いきものがかりにとっては、昨年9月のデジタルフェス、今年3月の横浜アリーナ無観客ライブに続く3度目の配信ライブとなったが、これまでと一線を画す斬新な演出に驚きと称賛の声が上がっている。
かつてないライブ体験の舞台となったのは、コミュニティ型ファンクラブ「Fanicon(ファニコン)」を運営するTHECOO株式会社が3月にオープンした配信スタジオ「BLACKBOX³(ブラックボックス)」。スタジオの特長や今回のライブのポイントを、総支配人の岡村大輔さんに伺った。
岡村:BLACKBOX³は、左右後方と床の4面LEDパネルを配置する「BOX STUDIO」、アンティーク調の「BRICK STUDIO」の2つのスタジオを併設しています。照明、カメラ、映像などの設備を完備していてライブ配信やMV撮影など幅広い用途で使っていただけるほか、大型LEDパネルとメディアサーバー「disguise vx2」によってVR(仮想現実)やAR(拡張現実)などのXR映像の演出も可能です。これほどの設備を有する国内スタジオは、現時点ではBLACKBOX³だけです。
これまでに配信や撮影のほか、背面LEDにロゴを映しての記者会見に使っていただくこともありました。人気が高まっているeスポーツとの相性もいいと思っています。この4面LEDを使ってカーレースをしたらすごい迫力ですよ。アイデア次第でいくらでも面白い使い方ができるので、ジャンル問わず多くの方々に使っていただきたいですね。
今回のライブは、アーティストの知名度、スタッフ数、使用する機材の量、いずれにおいてもこれまでで最大の規模となりましたが、スタジオのポテンシャルとしても「しっかりと対応できる」という自信がつかめました。アルバムのアートワークを手掛けたHARUさんの演出だからこそ、視聴者のみなさんにもアルバムとの繋がりをより強く感じてもらえたと思いますし、スタジオとしてもリリース活動の一翼を担えたという感覚があります。
アーティスト写真、『BAKU』MV、アルバム『WHO?』アートワーク、そして今回の「THE"特典"ライブ」までトータルディレクションしたHARUさんは、この4月に新進気鋭のクリエイターが名を連ねる「映像作家100人2021」に選出されたばかりで、さらなる注目を集めている。
HARU:トータルで演出することでコンセプトを表現しやすくなりますし、アーティストのブランディングにも一貫性が出せますよね。こういった機会はなかなかないので、本当にやりがいがあります。ライブの背景映像の演出は、楽曲単体では何度か経験がありましたが、ライブ全体を通して担当するのは今回が初めてです。アルバムのモチーフやカラーリング、曲のイメージに合わせて構成したので、「このモチーフ、見たことある!」とお気づきになった方もいらっしゃるかもしれませんね。アルバムのブックレットを手にしながら観ていただくと、より楽しんでいただけると思います。
いきものがかりオフィシャルYouTubeチャンネルでは、『BAKU』『ブルーバード』『ええじゃないか』が観られる「THE“特典”LIVE」DIGEST MOVIEを公開している。ライブで披露した全6曲の演出についてHARUさんに解説してもらった。
※2021/05/21追記
HARU:全体としてはアルバムとの関連性を持たせながらも、6曲それぞれで異なる世界観を表現しています。
『TSUZUKU』は曲を象徴するように桜のモチーフを使いつつ、「ふんわりとした女性的なイメージ」という吉岡さんのオーダーに合わせて、全体的にパステルカラーで構成しています。女性の横顔はアルバムブックレットの水野さんのページの横に写っている女性の顔のシェイプです。
『アイデンティティ』は幾何学的なモチーフが飛んだり転がったりと、タイトルの通り、個々の動きに自発性を持たせて、“前に進んでいく”力強さが表現できたんじゃないかな、と思います。
『BAKU』はMVの回転する箱のパターンやカラーリングなど、みなさんがイメージする世界観そのものだと思います。『TSUZUKU』『アイデンティティ』の流れから、ここでグッと加速するような感覚で、モーショングラフィックも目まぐるしい展開になっています。
『ブルーバード』は青い鳥が旅していくようなイメージで右から左へスクロールしていきます。くちばしの三角形はアルバムの円錐モチーフと連動しているのでチェックしてください。メンバー3人の背景に登場するシーンがかわいくてお気に入りです。
『ええじゃないか』はズバリ、和ですね。“歌舞いちゃえよ”という歌詞があるように、歌舞伎の垂れ幕(定式幕)のイメージです。“七”も出てくるので探してみてください。実は「祭り」の要素も合うなと考えていて結局は取り入れなかったんですが、いきものがかりさんのアルバムインタビューを読んで「阿波踊りのイメージ」と書いてあって「やっぱり入れればよかった!」って思いました(笑)。
ラストを飾る『からくり』には、アルバムアートワークのシェイプがたくさん登場します。「女性的な透き通ったイメージ」という吉岡さんのリクエストをいただいて、スッとした透明感のある色味で、曲の歌詞や雰囲気からイメージした夜空を、流れるようなやさしいモーションで表現しています。
MCも交えた全6曲で約50分の配信ライブ。「もっと観たい」という気持ちを醸成しつつ、視聴者が疲労を感じることなく快適に観られるという点では、適切なボリュームだったと岡村さんは語る。
岡村:今回のような穏やかなLEDモーション演出でも1時間くらいがちょうどいいですね。これがロックなどのもっとギラギラした演出で2時間となると、観ている側も疲れてしまうのではないかと思っています。PCやスマホなど、さまざまな視聴環境で快適に楽しんでもらえる配信ライブの在り方を考える上で、今回のライブから得たものは非常に大きいですし、なによりも視聴者のみなさんが喜んでくれたことが本当にうれしい。驚きと興奮にあふれたコメントやライブ終了後も止まないアンコールの声が、成功を物語っていると思います。
いきものがかりの挑戦し続ける姿勢を体現した今回のライブは、音楽×映像の新たな可能性を示した画期的な瞬間と言っても過言ではない。今後どのような表現を見せてくれるのか、期待せずにはいられない。
取材日 : 2021年04月
取材/文/編集 : 龍輪剛
企画 : MOAI inc.