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犬の鼻腔内腺癌 包括

愛犬が鼻腔内腺癌と診断されたのをきっかけに、
飼い主にとって重要だと思う知識を、自分なりにまとめた。
マニアックだが、役立つと思う。少しでも力になれたらうれしい。

犬の鼻腔内腺癌とは

犬の鼻腔内腫瘍のひとつ。悪性腫瘍。
転移することは少ないが、原発巣が大きくなる性質が強い。
進行すると鼻周囲の骨を溶かし、眼窩や脳にまで浸潤していく。

・症状

鼻水、鼻出血、くしゃみ、逆くしゃみ、鼻づまり、においを感じにくくなった、顔面の変形(左右非対称)、鼻筋を痛がる・腫れる など。
腫瘍が眼窩に浸潤した場合には、目脂や涙が多い、眼をしょぼしょぼさせる、白目が赤い、失明など目に関連した症状が出ることがある。
脳に浸潤した場合には、発作や見当識障害、ふらつき等の神経症状を引き起こす場合がある。
腫瘍の性質や進行具合、もともとのお顔の形などにより、症状には大きく個体差がある。

・診断

腫瘍に特異性が高い症状(鼻出血や対症療法で改善しない膿性鼻汁、顔面の変形など)から、腫瘍の可能性を強く疑うことはできる。確定的な診断を得るためには、麻酔をかけた状態でのCT検査+組織生検が必要。

・治療

第一選択は放射線治療。その他の選択肢としては、分子標的薬(トセラニブ 商品名:パラディア)という内服薬による治療や、抗がん剤治療がある。ここ数年は、放射線治療にトセラニブを併用することで生存期間が延長するといわれているが、その場合、トセラニブが放射線障害を悪化させる可能性については、各医療機関で検討が必要。

・予後

数週間~数年とさまざま。発見したときの進行度や、腫瘍の性質、選択する治療法によって異なる。早期発見で放射線治療を実施した場合には完治する可能性がある。最期は、腫瘍からの出血が止まらなくなったり、発作など脳神経症状を起こしたりして亡くなってしまうことが多い。

飼い主も知っておきたい診断の知識3つ

① 初期症状は他の鼻炎と酷似

鼻腔内腫瘍の初期症状は「鼻炎」であることが多い。「鼻炎」には免疫の異常や異物、腫瘍など様々な原因がある。そのため、鼻水やくしゃみをしているが、その他は問題なく元気なコが、ただのアレルギーなのか、腫瘍が潜んでいるのかは獣医ですら精密検査をしないと診断できない。

② 「片側性の鼻出血」は危険なサイン

鼻炎の症状のなかでも、腫瘍の可能性が一気に高まる危険な症状。なるべく早くかかりつけを受診して、CT検査を含めた精査をしていくのかを相談したほうがいい。

③ 鼻腔内腫瘍の診断は「麻酔下でCT検査+組織生検」一択

犬の鼻腔内腫瘍を疑うべきポイントはいくつかある。先ほど申し上げた片側性の鼻出血の他にも、高齢であること、鼻が長いコ、膿性粘性鼻汁、レントゲン検査での骨融解像や左右の鼻腔の陰影の違いなどだ。
しかし、これらは、あくまでも「疑い」をかける手がかりであり、診断には必ず「麻酔下でのCT検査+組織生検」が必要だ。
(麻酔は、犬はCT検査中に静止するのが難しく、また、組織生検は痛みが伴うため、通常必須である。)

うちのコはこうだった

最初に気が付いた異常

左側の眼球の下、頬っぺた辺りが腫れてきて、触ると痛がって鳴いた。左眼はしょぼつき、白目が赤く、黄緑色の目脂が急にたくさん出た。
すぐにかかりつけ医を受診し、顔面のレントゲン写真を撮影した。左眼の下の腫れとレントゲン所見が、歯根膿瘍の典型的な所見に一致していたことから、歯根膿瘍を第一に疑った。歯根膿瘍の原因は歯周病を疑い、治療としては、麻酔下でスケーリングをして、歯をきれいにする方針になった。
歯根膿瘍の原因が口や鼻の腫瘍である可能性も否定はできないが、症状とレントゲン所見からは腫瘍の可能性を積極的に疑う状況ではないこと、精査には麻酔が必要だが、スケーリングと精査は同時にできないため、歯周病が原因だった場合には、麻酔を二度もかけることになってしまうことを勘案して、腫瘍の精査は見送った。

なおらない、、、

思い返してみれば、数カ月前から、透明な鼻水が多めに出るようになっていた。「それも歯の炎症が鼻に波及したせいだったのか?」ということで、「スケーリングをしたら治るかも」と期待していた。スケーリング後、頬の腫れや痛みは治ったが、鼻水は治らず。歯の処置をしてもらった病院(かかりつけ医の紹介で受診)では、「透明でさらさらな鼻水だし、生理的なものかも?」といわれ、なんとなく「そうなのかなあ」と思えた。それが、約2カ月後に鼻水の性質が急に変わった。最初の数日はネバっとした白色の鼻水になり、その後は色がピンク色に変わり、粘性が強くなって、次第に量が増えていった。ピンク色の正体は血液だったので、これはいわゆる「鼻出血」の症状だ。
スケーリングをして顔の腫れはなくなったけど、「今度は鼻水がすごく出るんだけど、、、鼻の病気?もしかして、歯根膿瘍も歯の病期から発生していたの?」

専門病院へ。検査は4週間先

鼻出血について、すぐにかかりつけ医に相談しにいった。「鼻出血が認められたのならば、鼻の腫瘍の可能性を今までよりも積極的に考えるべき」と伝えられた。抗生剤を試しに飲んでみたがあまりよくならなかった。
2カ月前に麻酔をかけたばかりなので、まず思ったのが、「こんなに短期間でまた麻酔をするなんてかわいそう、、、」だ。高齢で持病もあるし、前回麻酔したあと体調を崩した。ただ、腫瘍であれば数週間~数カ月以内に生命にかかわる状態になってしまうかもしれない。リスクとベネフィットを天秤にかけ、最終的には精査に進むことを決意した。かかりつけ医にはCT検査装置がないので、精査のために専門病院を受診することになった。2週間後に予約が取れて、受診したところ、かかりつけと同じ検査(レントゲン検査)をとって、「腫瘍のような所見(鼻腔内に充満物がある、周囲の骨が解けている等)はないので、強く疑う状態ではないが、結局はCT検査をしないとわからないので、やはりCTとりましょう」といわれた。CTの予約は混んでいて2週間後になるとのこと。「CTとるつもりで来たのに、さらに2週間も待つのか、、でも、やはり腫瘍っぽくはないのなら、急がなくてもいいか。」と思った。

診断は「鼻腔内腺癌」ステージ4

CT検査+組織生検当日。結果は、CT検査上は「腫瘍の可能性が極めて高い」と告げられた。腫瘍は鼻腔周囲の骨を溶かして、眼窩と脳まで入り込んでおり、4段階のステージ分類では、最も進行した状態のステージ4だった。組織生検の検査結果は後日出て、腫瘍であることは間違いなく、腫瘍の種類は「鼻腔内腺癌」であるとの結果だった。

スケーリングをした他にも、抗生物質を飲んでみたり、腫瘍ではない可能性を追求してたくさん回り道をしたが、結局は腫瘍だった。とりあえずはこの数カ月間の症状の原因がはっきり腫瘍だとわかってよかったのだけれど、、、進行した状態で見つかったので、放射線治療を選択しても完治はできない。長期生存の可能性も、早期発見に比べれば低い。

眼の下が腫れたときから腫瘍の可能性はずっと頭の片隅にあって、だから診断まで遠回りしたことを間違いだったとは思わない。ただ、「できることならもっと早く見つけてあげたかった」とは思う。

愛犬のサインを早期治療へつなげたい

愛犬の鼻腔内腫瘍の診断の手がかりとなるサインはたくさんあるが、CT検査+組織生検をしない限りは、獣医師にすら鼻腔内腫瘍かどうかを判断するのは難しい。精密検査は動物の麻酔や費用、手間もかかるため、飼い主様もやりたいという方の方が少ないのではないかと思う。

ただ、今あなたの愛犬に鼻炎の症状が続いていて、最善の治療を望むのなら、もしくは、腫瘍を見逃したくないと思うのなら、一度腫瘍の精査を検討してみてほしい。”善は急げ”が良くあてはまる。

かかりつけ医に「ただの鼻炎」といわれても、あなたが気になるのなら、「腫瘍の可能性はない?」「腫瘍の検査、麻酔が必要みたいだけど、うちのコはできるかな?」と、一歩踏み込んで尋ねてみてはいかがだろうか。あなたの愛犬なのだから、お金も払っているんだから、遠慮せず聞いてみよう。
誠実な獣医師であれば、きっと相談に乗ってくれるはずだ。


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