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Happy Birthday!Samuel!

今日は僕たちグループの縁の下の力持ち、サミュエル先輩の誕生日。109号室がパーティー会場だ。僕と立夏はたくさん風船をふくらませて、壁いっぱいに貼り付けた。先輩の、グリーンの瞳と綺麗なプラチナブロンドをイメージして、緑と白をえらんだ。
「すてき!センスいいね、ふたりとも!おつかれさま!」
リヒトがバズーカみたいなクラッカーを手にして微笑んだ。
「タイミングが難しそうだな、クラッカー」
スピカが危惧している。確かにその通りだ。この物々しいクラッカーは残り一点だった為、一回きりの大勝負。リヒトは任せてよという。僕たちは、よろしくねとリヒトとハグしあった。
僕は今日のためにレシャとファルリテに、お菓子を作ってもらうようお願いしていた。冷蔵庫に、たくさんのお菓子が入っている。一口でつまめるようなケーキや、くまの形のアイスボックスクッキー、僕がリクエストした、キウイと、いちごのムースや、クレープ、プリンタルト、マカロンなどなど……邸宅から総レースのテーブルクロスも借りた。ちらりと時計に目をやると、約束の三十分前になっていた。
「さあ!そろそろみんなで、協力してお菓子を並べたりしよう。あまり時間がないから、ちょっと急ごうね」
「はあい!」
「ぼくプレートにお絵描きします、チョコペンで」
「いいとおもう!それにしてもロロは本当にお絵描きがじょうず。すごいよね」
「こんど、エーリクにも、教えます」
「あはは、あまりにも絵心がなくて、こまらせちゃうと思うよ」
「教えがいが、あります」
「ありがとう、ロロ。だいすき」
「ぼくもエーリクのことがだいすきです」
「あーっ!浮気者!!」
立夏がすっとんできて、僕の手の甲をやわくつねった。
「痛っ!!」
大袈裟に声をあげてみせる。
「エーリクはぼくのダーリンでしょ!」
「友情の大好きと、恋愛の大好きは性質が違うよ」
「言い訳をしない!!」
「はぁい」
ほんとうに鳳じみてきた。僕は素直にごめんねと謝ってさらさらつやつやな髪をそっと撫でた。
「赦そう。だけど君は本当にかわいいから、いろいろ気をつけてね」
クッキーやマカロンを並べながら立夏がそう諭してきた。ロロは立夏の腰の辺りにぎゅっと抱きついた。
「ぼくは満遍なく、みんなの事が、だいすきです。きっとむねをざわざわさせてしまった。ごめんなさい」
「ううん、冗談さ。ごめんね、ロロ。よしよし」
リトルプリンスは立夏に頭を撫でられ、にこっとわらった。そしてふたりなかよくクッキーを並べだす。恋愛とは難しいものだなあと思っていると、スピカが僕を手招きしてきた。横に立つと、ひそひそとみみうちしてくる。
「……手網は適度に弛めておいた方がいい。自然と追ってくるから。そんなものさ、恋愛って」
「ありがとう。色々学ばせてね」
「おれでよければいくらでも」
「クッキーとマカロンのプレート完成!」
ロロによる見事な薔薇が描かれているところに、立夏が天才的センスを炸裂させた。美しくお菓子が配置してある。皆拍手をして二人を称えた。
「おつかれさま!座って休んで」
「まだうごけますよ」
「ぼくも余裕。なんでも申しつけて」
「じゃあキウイといちごのムースとか、ちっちゃいお菓子たちを並べてもらえるかな、フロランタンやプリンタルトも、ここにあるよ。僕、今お湯を沢山沸かしていて、保温ケトルにどんどんついでるんだ。不思議なんだよなあ、レシャとファルリテに借りたポット全く冷めないんだもの……そんなわけで、身動きが取れない。よろしくね、たよりにしてる」
「はーい!ロロ、リュリュ!一緒にやろう」
「おまたせ!あちらで花をいけてきた」
最近花の扱いについてノエル先輩から特訓を受けているリュリュがその秘めたる才能を発揮させた。見事な、真紅の薔薇だ。
そんな感じでみんなばたばた動きまわりながら、それぞれの仕事をこなした。おどろいたのは、スピカと蘭がふたりだけで、どっさりと生春巻きを作ったことだ。僕、お茶入れるだけでいいのかなあとおもっていたら、にわかに109号室の扉のあたりが騒がしくなった。先輩方だ。リヒトがバズーカクラッカーを、膝を着いて構える。
「なに?ねえ、目隠しの魔法本当にこわいんだけど、」
「俺の腕に掴まってればへいきだって」
「ふふ、なんだろうね!」
セルジュ先輩が、入るよ、と声をかけてきた。
「どうぞお入りください!!」
「なに?なになになに?!」
「サミュエル先輩、お誕生日おめでとうございます!!」
完璧なタイミングでリヒトがクラッカーを発射した。ぱん!!と小気味よい音がひびき、銀テープが吹き出した。きらきらと星屑が散る。皆、わあわあとサミュエル先輩を迎えた。
「びっくりした……!これ、僕には秘密で支度してくれていたの……?」
「そうだよ。誕生日おめでとう、サミュエル」
「おめでとうございます!!」
「サミュエル先輩!生まれてきて、出会ってくれてありがとうございます!!」
サミュエル先輩が、うっすらと瞳に涙をたたえてお辞儀をした。
「みんな……ありがとう……」
「ちびっこたちとレシャさんとファルリテさんがすごく頑張ってくれたよな」
「良かったじゃん、サミュエル」
「あああスピカ君今日は髪の毛をお団子に結い上げていて可愛すぎる、倒れてもいいですか」
「おいおい、これからパーティーなんだぞ、ほら、しっかりしろ」
悠璃先輩が目を白黒させている。
「悠璃がまずいことになってるから、ちょっとエーリクの勉強机、借してくれ」
「倒れる前に一枚写真を頂きたいのですが」
ど根性だ。萌えの力ってすごい。
「大丈夫ですか?気分が良くなったら、ぜひ合流してください。写真、おれでよければいいですよ!」
スピカがくすくす笑いながら言う。
「スピカ君じゃないとだめなんです!アップで見てもたまご肌!!麗しい!!チーズ!サンドイッチ!ああっ」
くたりとしてしまった悠璃先輩を椅子に座らせてノエル先輩がため息をついた。
「悠璃、スピカが関わるとちょっとおかしくなってしまうんだよなあ。まあ、すぐ復活するさ」
「可愛い先輩!それではパーティーを始めましょう!僭越ながら僕がパーティー開幕の音頭をとらせていただきます。サミュエル先輩、お誕生日おめでとうございます!」
僕が杖をひと振りすると、ぱっと明るいスパアクが沸き起こった。ハッピーバースデーのメロディーが流れ、ロロたち天使が歌い、舞い踊る。これも今日のために練習してきたものだ。カスタネットを鳴らし歌うその愛くるしい姿を見て、皆声を失っている。
「かわいいにもほどがある」
「サミュエル先輩、こちらにおすわりください」
「ありがとう、エーリク。天使たち、お見事でした!ありがとう!」
三人がぎゅっとサミュエル先輩を抱きしめる。
「何を食べますか?」
「どれもすごく美味しそうだ」
「お皿はこちらに」
「ありがとう!ちっちゃいケーキ、かわいい」
「これはファルリテが作ったものです」
「なるほど、こちらのフロランタンは」
「それは多分レシャです。さあ、たくさん召し上がってください!」
きらきらと新緑のような瞳を煌めかせながら、色んなものをプレートに乗せている。
「エーリク、このいちごのケーキ、とっても美味しいよ。半分こしない?」
立夏が隣へやってきた。今日も髪の毛をくるりと巻いていて、とても可愛い。でも、先程から褒めるタイミングを失い続けている。
「うん、そうしようか、他にも食べたいもの沢山あるもんね」
「えへへ、実は二ツ目。ケーキは飲み物」
「ええっ?!」
「大丈夫だよ、このくらいたいしたことないさ。サミュエル先輩にもこの翠色のプレートに乗せて運んで差し上げよう。サミュエル先輩のイメージカラーだね」
僕と立夏はふたりでサミュエル先輩の元へ向かった。
「サミュエル先輩、お誕生日おめでとうございます。いちごのケーキはいかがですか?」
「わあ、とってもおいしそう……わざわざ、もってきてくれたんだね、嬉しい!ありがとう」
「いえいえ、よろしければ。ここに置いておきますね。また何かありましたらなんなりと」
ロロとリュリュと蘭がお皿に生春巻きを載せて、トングで配り始めた。アルバイトでの経験が、役に立っている。可愛い!とサミュエル先輩が頬を緩ませた。
「天使だなあ」
「畏れおおいです」
そういってロロが生春巻きを三本、サミュエル先輩のプレートに乗せている。
「スイートチリソースはこちら」
「美味しくできたと思います」
蘭が愛らしく笑ってお辞儀をする。リュリュとロロも並んで腰をおった。
「お誕生日、誠におめでとうございます!」
「可愛いし礼儀正しいし、この三人は本当に碧空から降りてきた天使だね、ありがとう」
「いちごのケーキ、本当においしい。はい、あーん」
「んっんっ」
「あはは!愛らしいカップル!」
「おいしい」
「ほんとうにかわいい、いとおしいひと!!」
そろそろかな、と思ったので、みんなをぐるりと見渡す。微笑みが、さざ波のようにひろがった。
「サミュエル先輩。プレゼントを各々持ち寄りました。僕からは、薔薇の香りの練り香水と、同じブランドのヘアオイル、あとは薔薇の刺繍が施されたバスタオルです。受け取ってください。お誕生日おめでとうございます。これからも僕らを教え、導いてください。よろしくお願い致します」
杖で軽く空間をかき混ぜると、大きな箱が現れた。
それをそっと渡す。
「エーリク!ありがとう!!僕が薔薇が好きなこと、どうして知っているの?たしかに、真紅の薔薇がいけてあるし……」
「薔薇はリュリュがいけたんですよ。上手ですよね」
「照れちゃうからよしてよ」
「嗚呼……気遣いに心の底から感謝するよ。箱、あけてみてもいい?」
「どうぞ!」
「かわいい!みて、この練り香水、ローブのポケットに入れておけるね、ヘアオイルも、とってもうれしいよ。バスタオルも愛用させてもらうね。ノエル、使うなよ」
「はいはい」
「ぼくは、なにがいいかとてもなやみました、そして、これだ!と思うものを、えっと、レグルスから喚びました。きっとお似合いになると思うんです。受け取ってください」
「なんだろう。あっ!!綺麗な緑色のストール!!グラデーションがかかっていて、とても美しい……ビジューがきらきらしてるね。これは、夏場でも使える品だ。僕の瞳の色に、あわせてくれたのかな。たくさん僕のことを思ってくれて、うれしい。ロロくん、ありがとう!」
僕とロロに続き、どんどんプレゼント贈呈がおこなわれている。僕はお茶をついでまわった。サミュエル先輩は泣き出してしまいそうな表情で、ありがとう、ありがとうとお礼を言って握手している。
「みんな、お茶もぜひ飲んでね。サミュエル先輩、喜んでくださるといいな。いちごのティーハニーをてにいれてきました」
「エーリク!なんで僕のこと、そんなに知ってるの?大好物なんだ」
「どうしてでしょうね、そのあたりは内緒ということで」
「このお茶!!美味しすぎる!!」
リヒトが高らかに囀った。セルジュ先輩も静かに目を伏せて、ゆっくりお茶を嚥下している。
「底からよくかき混ぜてね。やけどしないように気をつけて。ティーハニー、丁度いちごの時期で、新作だそうだよ」
「本当に美味しい。おかわりをもらってもいい?」
リュリュがあっという間に飲み終えて、モノクルを外した。儚げな銀色の瞳を瞬かせ、照れたように笑んだ。
「モノクル、曇っちゃうから」
リュリュも相当な美少年だ。薄くティントをひいているのか、口元が淡いピンク色でかわいい。
「おれも眼鏡を外そう」
丸眼鏡をかたん、と音をたてて、机上に置いた。視線がさっと、スピカに向けられる。
「もうなんというか、美しいよな」
「本当に。芸術的と言っても過言ではない」
「悠璃!推しの凄いところ見なくていいのかよ」
「直視したら完全に気を失う」
「そんなそんな、大袈裟です。それにおれ、実は目が悪いのがコンプレックスなんですよ。眼鏡だって、本当はかけたくないと思っていて」
「ぼくもモノクル、目立つからかけたくない」
みんなきらりと光るものの裏に、そういう闇の部分を抱えているのだなあと思った。悩みは人それぞれだ。僕は平凡な砂糖菓子だから、大変なことに巻き込まれる心配はない。本当に、この身をありがたく思わねばならない……
「ねえダーリン、なんでぼーっとしてるの?」
「あっ、なんでもないよ。みんながお茶を喜んで飲んでくれて、嬉しいなと思っていただけさ」
「確かにこのティーハニー、とっても美味しい。でも、こんな素晴らしいお茶を淹れてくれたきみは、もっともっとすごい!」
立夏は、素直で何もかもをきらきらした物事に変えてしまう。そういうところが本当に魅力的で、僕が立夏に惹かれる理由でもあったりする。そして、今後僕がなにか道を違えることがあったら、しっかり叱ってもくれるだろう。次期ミルヒシュトラーセ家の執事にふさわしい。
「ありがとう……今夜も午前零時に、天文台で待ってる」
「わかった」
芍薬がやわらかくほころぶように一言、小さく言って微笑んだ。
天使たちが面白がってせっせとサミュエル先輩のプレートにスイーツを乗せていく。
「……ストップ。静粛に。天使は全員、おれの周りにおいで」
「はあい」
「わかりました」
「スピカも何か食べますか?」
「それじゃあ、生春巻きを五本ほどいただこうかな。よそってくれる子!」
「はーい!!」
「はいはい!!」
「みんなでやりましょう」
トングをかちかち言わせながら、ロロがまとめた。
スイートチリソースを持ってくるねと蘭が素早く立ち上がる。リュリュは綺麗な真っ白なお皿を手にした。この三人も、自分の役割みたいなものがあるんだろうなあと思いつつ、立夏のお皿にスコーンを乗せた。
「エーリクも、おひとつどうぞ」
「うん、小さめのをお願い」
「クロテッドクリームも塗ろう」
「それはきっと美味しいだろうね」
「エーリクのスコーンにも塗っちゃえ」
「すこしでいいよ」
そこでノエル先輩が、大きく二回手を打った。
「サミュエルが、みんなにいいたいことがあるらしい」
サミュエル先輩が立ち上がり一礼して、口元に優しい笑みを浮かべた。
「今日はみなさん、僕のためにこんなに盛大なパーティーをひらいてくださって、ありがとう。バズーカには大いに驚いたけど……いま僕、ゆめをみているみたい。みんなだいすき。大切な親友だよ。本当に、本当に……ありがとう……」
「泣くな!頑張れ!」
ノエル先輩が背中をばしばし叩く。
「ちょっと!乱暴なことしないでよ!感激の涙が引っ込んじゃったじゃないか。ノエルには後で制裁をくわえる!ごめんね、みんな」
ひと呼吸おいて、さらに言葉を紡いだ。
「みんながこんなに愛おしいパーティーをひらいてくれたこと、僕一生忘れない。重ね重ねになるけれど、本当にありがとう。そしてティーハニーを作ってくださった星屑駄菓子本舗の黒蜜店長にも、何らかの形でお礼がしたい」
拍手が沸き起こった。
「まあ、なんか締めるような言い回しだけど、まだまだパーティーはおわらないだろ?」
「もちろん!!」
「今日はサミュエル先輩に、そしてここへ集った仲間に、いっぱいいっぱい楽しんで頂きます!プチクレープを補充しなきゃ、冷蔵庫にまだまだいっぱい入ってるんです。そして、鳳生誕祭の時と同じように、スペシャルムービーがあります。観ていただけますか?」
「もちろん!嬉しいなあ……」
「では、はじめますよー」
魔法で投影されたプロジェクターに、3.2.1とカウントダウンがうつしだされる。
まずロロ、リュリュ、蘭がリコーダーを持ってあらわれた。にこにこと元気よくバトンのように振り回す。そして、ホルンを持ったセルジュ先輩、悠璃先輩が一段高くなった台に上がる。最前列にサックスを持ったノエル先輩、その後に続いてリヒトと立夏とぼくがブルースハープをもって登場し、最後にスピカが現れ、タクトを持って一礼した。僕らも頭を下げる。
そこからは怒涛の展開だった。きらきら星変奏曲から始まり、先日の合唱コンクールで歌った銀曜日のおとぎ話を三人の天使がボーイソプラノをいっぱいに響かせる。リヒトと立夏と僕は、その伴奏をつとめた。最後にHallelujahを、ノエル先輩が色っぽいアレンジを効かせて吹いた。天使たちがカスタネットを打ち鳴らし、全員揃って手を繋いで頭を下げて、ムービーは終了した。
「すごい!!すごい!!」
「がんばって練習しました!」
「みんな偶然にも、吹奏楽器を扱えるんですよね。ふしぎ」
「ノエル、かっこよかった」
「特技なんだけど秘密にしていたんだ。お前のために演奏したんだからな、」
「うれしい。ノエル、ありがとう、」
しずかにノエル先輩の肩に体を預けたその姿を見て僕らは拍手と悲鳴をあげた。
「さて、このムービーはサミュエル先輩にお渡ししましょう」
「……せめて……そのくらいは……僕にやらせてもらえませんか……」
勉強机に突っ伏していた悠璃先輩が頭をもたげ声を上げた。
スピカが手を伸べて悠璃先輩の手を取る。
「あばばばば」
「では、贈呈をお願いします。ご馳走もありますよ。一緒に食べませんか?」
「は、はい!!」
つやつやした布にくるまれた音源を受けとり、サミュエル先輩に渡す。
「ありがとう、みんな!!僕、これを何度でも観るよ。本当に本当に、宝物だ」
「よかったな、サミュエル」
「僕、今とてもどきどきしているよ」
「ばれたのならしかたがない。また時々吹いてやるよ」
「お願い」
スピカが悠璃先輩の手を取り、テーブルをぐるりと回る。大分しっかりした足取りだ。ほっと胸を撫で下ろした。
「ダーリン、ぼーっとしてないで、生春巻きをどうぞ。こっちのは、キューカンバー入ってないんだって」
「ほんと?!スピカ!蘭!ありがとう!」
「いえいえ」
「どういたしまして」
「二本でいいよ、足りなかったらまた言うね」
「スイートチリソースをどうぞ、かけてもいい?」
「うん!あっ、ストップ」
「わー!すごいね、サニーレタスがたっぷり。エーリクは葉物野菜も海老もだいすきだったよね。このエリアの生春巻きはエーリクが責任もって食べなきゃいけない」
「みんな手伝って!」
悲鳴をあげ出した。ノエル先輩が、任せとけと笑う。
「うーん、おいしい。このちょっとぴりっとくるのがいいんだよなあ、スイートチリソースを考案した人は、かみさまだ」
「ふふ、エーリクが嬉しそうだと、ぼくも嬉しいな。他にも甘いもの何か、食べたくない?」
「そうだなあ、じゃあファルリテにお願いしてたキウイと、いちごのムースを、ふたつずもってきてくれる?一緒に食べよう」
「ん、了解。そんなにすこしでいいの?」
「色々食べてるから大丈夫、ありがとう。それに、ファルリテのフルウツのムースは本当に美味しいから、みんなにたくさん食べてほしいんだ」
そう言って満開の笑顔をむけた。立夏はふた呼吸ほどじっと僕のことを見て、ちょっと切なげに目を伏せた。
「本当にきみはやさしい。自分のことよりも、純粋に素直に、ひたむきに仲間を大切にできる、やさしいひと。今後きみのことを利用しようとする悪しきものたちが現れるかもしれない。その時ぼくはきみを全力で守る盾となることを誓おう」
僕の左手を取ると薬指の指輪にキスを落とし、ぱたぱたテーブルの周りへ駆けていく。
すごい宣言をされちゃったなあとおもいつつ、僕もテーブルの側へゆっくりあるいていって、途中で立夏と合流した。壁のそばで待っててくれてよかったのに、と笑う。僕は首を横に振って、僕もしっかりしなきゃ、と言った。
ムースを小さなお皿に乗せて、目を細めてたべる。三層になっていて、甘酸っぱくて美味しい。邸宅でよくおねだりして作ってもらっていたことをなつかしく思い出した。
「僕も半分に切ったキウイの実を銀匙でくるんってとりだしたり、お手伝いをしたんだよ」
「エーリクが可愛すぎて困る」
「そうかなあ?」
「心配しちゃう」
「かわいいよね!エーリク!!」
サミュエル先輩が肩を抱いてきた。天使たちも群れ集い、僕はおしくらまんじゅう状態だ。
「待って、僕にムースを食べる時間を……」
そう言うとみんな一斉に黙り、僕のことを見つめた。
「た、食べ辛い。そんなに見ないで」
そういいつつ、いちごのムースに取りかかった。
「かわいい!」
「写真を何枚か貰ってもいい?みんな寄って、サミュエル先輩とエーリクがセンターで後ろにみんな集まって」
スピカがトイカメラを取りだし何枚かフラッシュをたいた。
「はい、ありがとうございます」
「立夏、あっちで食べよう」
三人がけのソファに座って、ふう、と息をついた。
「賑やかなのもいいけど、やっぱり立夏の隣は安心するなあ」
「光栄だ……あ!みて!リュリュが薔薇をブーケにしているよ!ノエル先輩に教わりながら……リュリュも、最近なんだか大人びてきた気がする」
みんな成長する時節をむかえたのだなあと、いちごのムースを食べながらふんわり思った。僕はまだまだ半人前で、みんなのサポートがないとなにもできないけど、頑張らなきゃ……
「……エーリク、ねえ、エーリクったら!またぽわぽわしてるよ、しっかりして」
「あっ、ああ、ごめんね」
「ぼく、エスカレーター式で就職先きまってるでしょ?ミルヒシュトラーセ家に。しっかりお務め、果たせるかなあ」
「ぼくもエスカレーター式で当主だ。どうぞ宜しくね。レシャとファルリテともうまくやっていけるよ、立夏は」
「そうだといいな。おふたりとも気さくだし、そんなに心配は、していないなあ、いまのところ」
「お二人さん!邪魔して悪いけど、そろそろパーティー、おしまいだ!こちらに集まって」
「あっ、ごめんなさい!」
「いこう、エーリク」
「リュリュの作ったブーケもサミュエルへ」
「ありがとう、ドライフラワーにするね。いつでも、今日を思い出せるように」
拍手の渦がわき起こる。
「いいかおり」
うっとりとサミュエル先輩が呟いて、一礼した。
「今日は本当に、本当にありがとうございました。たのしかった!」
「このプレゼントの山、すごいね……持って帰れる量じゃないから、サミュエルとノエルは僕がプレゼント共々魔法で転送してあげる」
セルジュ先輩が指をくるくるまわした。すると、ぱっとふたりの姿とプレゼントが無くなった。
「すごい!」
「片付けもしちゃうよ。あと悠璃も寝かしつける。報酬として、いちごのムースとプリンタルトと生春巻きをもらってもいいかな」
「どうぞどうぞ」
「よし!じゃあまた明日。お疲れ様!」
勢いよく杖を振り下ろした。すると、部屋はすっかり整頓され、セルジュ先輩と悠璃先輩とお菓子と生春巻きが根こそぎ消えうせた。
「ふう、みんな、たのしかったね。お部屋に帰ろうか、」
スピカとリヒトと蘭が背伸びをして、まだ食べ足りないなあなどと言うのでびっくりしてしまった。
「まあ、一応先輩たちの前だからな。遠慮はするさ」
「そうだよね。じゃあ、またあした」
「立夏はどうする?」
「すこしここの部屋に残るよ、迷惑でなければ」
「僕も!」
蘭も元気よく手を挙げた。
「迷惑だなんて!とんでもない、です!」
ロロがぎゅっと立夏に抱きついて首をふるふると振った。
「もうすこしおはなししようよ」
「あはは、じゃあ、109号室のみんな、またあした」
「おやすみなさい。蘭、静かに戻ってきてね」
そういってぱたんとちいさなおとをたてて、スピカとリヒトが部屋から出ていった。
「さあ、じゃあお茶でも飲もうか。ティーパーティー、僕らだけ延長!立夏、冷蔵庫の中にお菓子がまだ入ってる。出してもらってもいい?」
「ぼくも、てつだいます」
「僕も!!」
「わあぁ、すごい、まだまだいっぱい」
僕はパーティーが上手くいったことに安堵し、ベッドサイドの椅子に腰かけ一息ついた。立夏がぱたぱたとこちらへやってくる。
「お疲れ様。誰よりも何よりも仲間を大切にするきみのやさしさ、すごくつたわってきたよ。頑張ったね」
「いい意味で疲れた、でも、とっても楽しかったよ。サミュエル先輩もみんなも喜んでくれたし、本当によかった」
「よしよし、ダーリン、みんなをリードしててかっこよかった。惚れ直したよ。続きは天文台で」
「ありがとう、立夏、きみが労ってくれたから、もう何ともないよ、さあ、お茶を淹れよう」
僕が立ち上がると、立夏が、ぼくにもお茶の淹れ方教えて欲しい、執事の任についたときのためになるもんねと微笑む。
こうして暖かい温度の中で、僕らは愛し愛され、生きていく。

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