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ॱ॰*❅HAPPY NEW YEAR❅*॰ॱ①【チョコレートリリー寮の少年たち】改稿



「……わあ、それにしてもすごい雪。まっしろで、きみの髪みたいだ」
「リュリュ、きみもやわくやさしくふりつもる雪の精霊のようですよ……」
さわさわとささやく声がきこえてきて、僕は緩やかに覚醒した。
「ん……ロロ、リュリュ、おはよう」
「あっ、エーリクが、起きましたよ」
「おはよう、エーリク」
「……眠い」
二度寝を決め込もうと毛布にくるまる。するとふたりが僕のベッドに乗ってきた。背中を、ぺたぺたと小さな手でたたいてくる。
「エーリク、今日は新しいとしのはじまりですよ。先輩方とぼくたちの約束、わすれちゃったりしてない、ですよね」
その言葉を聞いて僕ははね起きた。そうだ、みんなで連れ立って、カウス・アウストラリスという新区画にできた大きなホテルの、新春ビュッフェに行く約束をしていた。
「エーリク、急いで支度して」
「式典用ローブに、きれいの魔法、かけておきますから、」
「ありがとう、ロロ、リュリュ」
ビュッフェには一体何が並ぶんだろうとふわふわ考えながら洗面を済ませて、これまたふわふわなフェイスタオルで顔をふいていると、だん、だんと力強く扉をノックする音が聞こえる。間違えようがない、リヒトだ。
「室長、あけてもよいですか?」
「どうぞ、まねきいれてあげて」
「はーい!」
ロロが扉を開けると、リヒトがくるくる回りながら部屋に入ってきた。珍しい事に、スピカと蘭の姿がない。
「ハッピーニューイヤー!」
金糸雀が囀るようなボーイソプラノで、舞い踊りながら言う。リヒトは僕たちの中で、だれよりも元旦を楽しみにしていた。クリスマスがすぎてからそわそわ気忙しく、机の端に置いてあったペンケースを床にぶちまけ、拾うのを手伝ったりした。
「おはよう、スピカと蘭はどこ?」
「スピカが取ってきたうみたてたまごでつくったオムレツとトーストをたべてる」
僕は仰天してひとみを見開いた。
「ビュッフェだけではビュッフェ荒らしになるから少しお腹に入れていこう、ということらしいよ。ちなみに、ノエル先輩とサミュエル先輩、一緒に召し上がってる。遅れて立夏もちゃっかりやってきて、トースト、二枚食べてたよ。チーズを蕩けさせながら」
「すごいね、みんな……」
「ぼくもたべたかったです」
「はいはーい!僕も」
「明日作ってもらおうか。そういえば悠璃先輩のお姿が見えないね」
「悠璃先輩は寝坊なさって、今すぐこちらへ向かっているとのこと、ノエル先輩が先程連絡をとっているようだった」
「リヒトも食べたの?」
「ううん、ぼくは限界までお腹を空かせていこうと思って」
不可思議すぎる。みんな、なんであんなに食べられるんだろう。
「今年はレーヴ先輩とセルジュ先輩とアルエットが実家に帰ってしまったから、寂しいなあ」
リヒトがそう呟くと目を伏せて、手を組んだ。  無事実家にたどりつけるように、祈っているのだろう。僕もそれに倣って、都合のいい時にだけ信じるかみさまに祈りを捧げた。
その時、立夏が109号室に顔をのぞかせた。元気いっぱいに大きく手を振っている。
「みんな!おはよう!!ハッピーニューイヤー!」
「あ、立夏!おはよう!あけましておめでとう!きみ、チーズトーストを二枚とオムレツを平らげたって本当?ああ、どうぞ、入って!僕のベッドに座っていいよ」
「うん、おなかがすいてたから」
「これからビュッフェに行くんだよ?そんなに食べて大丈夫?」
心配になって尋ねた。立夏が胸を張ってみせる。
「うん、全然なんともないよ」
「すごいなあ」
感嘆のため息をもらすとノエル先輩とサミュエル先輩と悠璃先輩が、入るよ、と手を高々とあげて109号室にやってきた。
「先輩方、あけましておめでとうございます!スピカと蘭は」
「とりあえず洗うの面倒だって理由でシンクに食器をつけてる、すぐくるよ」
「遅くなってごめんね、お待たせしました」
蘭が瞬間移動の魔法を発動させて僕の肩にぽんっと乗ってきた。羽根のように軽い。続いて、スピカがゆったりとした足取りでやってきた。髪をパウダースノーのように真っ白なシュシュで結い上げている。
「あ、わぁ、ひえ、うあ、や、スピカ君、麗しい、その、あの、抱きしめ、させてください……」
「あはは、悠璃先輩、闇討ちされない程度で」
「ぎゅ、ぎゅ!」
スピカが腕を大きく広げると悠璃先輩が飛び込んでいく。
「おれ、こんなに愛されていて幸せ者だな。皆さん、いよいよニューイヤービュッフェですね。会場は、こんなイベント事にしか入れないような、立派なホテルらしいと聞いてときめいています」
「よし、さっそくだけど街に出かけようか。カウス・アウストラリスという新区画が出来たそうだな。ホテルもそこにあるよ」
「それなら良いスケジュールを組んでみたんですが、聞いていただけますか?」
「お、スピカ!それは嬉しいぞ」
「いえいえ、それほどでも……カウス・アウストラリスについての情報収集、楽しかったですよ。まず、この時間ならワッフルが美味しいお店が出ています。メープルシロップを練り込んだワッフルに薄く捏ねたソーセージがはさんであるって、甘いとしょっぱいが絶妙なバランスだとこのフライヤーに」
懐中をがさごそとあさり、星型に畳んであったフライヤーを取り出す。ばさばさと広げて、僕の勉強机に広げた。
「こういうことはスピカに任せるのが一番だな。行ってみようか、美味そうだ」
「ぼく、故郷でパンケーキにソーセージを挟んで食べていました。量産できるのでせっせと、焼いたものです。そんな、かんじなのかな」
「いいね!ジャンクで美味しそう!!」
「じゃあ、まずそこへ、そのつぎは?」
スピカが困ったように眉尻を下げた。
「実はそれ以外は全く分からず……星屑駄菓子本舗とか〈AZUE〉は出店していないのかな。字が小さいし、このフライヤーは読み手に優しくない」
じっとフライヤーを眺めていた立夏がああ!と声を上げた。ぱちっと、星屑が指先に弾ける。
「焼きたてのおせんべい屋さんがあるみたい!」
「おせんべい?どんなもの?」
「東の国のお菓子です。お醤油を塗って、炙って、いただくんです。美味しいですよ」
蘭がにこりと瞳を三日月のように細めて言う。
「スプリングロール屋があったら立ち寄りたいところだな、みんな、大好物だろう?」
ノエル先輩がきらきらひかる指先で地図をなぞっている。
「いきたいよね」
「うん。僕ものすごく沢山食べるかもしれないよ」
そういうと、みんながいっせいに僕の顔を見た。
「エーリク、スプリングロール、そんなにすきなんだ」
「大好きだよ!邸宅でパーティが催された時に出た時も、あと、この前街に出た時も、みんなで作った時も、いっぱい食べた。揚げてあるのも、生のも、満遍なくだいすき」
「きっと、おかわりをするレアなエーリクが見られるぞ、あ、あったあった。印をつけておこう」
「ぼく、あまいものもたべたいな。ねえ、ノエル先輩」
ノエル先輩が甘えて寄りかかるリヒトの肩を抱いた。 するするとひかる指を止めずに呟く。

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