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チョコレートリリー寮の少年たち 学院創立記念日②



店番の木蓮にお水や諸々のお礼を伝え、セレスティアル舎を後にした。また周回バスに乗ろうという話になって、フリーパスがあるのに乗らない手はないよねと、てくてく歩いてすぐそばにある 停留所でバスを待った。行儀よくしずかにしていると、学院生、こんにちは、寒くてたまらないねえと、押し車をゆっくり押しているおばあちゃんに声をかけられた。僕はおばあちゃんを列の先頭に導いた。たすかります、と、とても感謝されて、僕らは黄金糖を三つずつ頂いてしまった。
先日も学院生!こんにちは!って言われたりしたし、マグノリアはやっぱり有名な学校だったんだ。頭がいい人が沢山いる、とかそういうことではなく、ブルーライトルームから通える距離の学校が少ないからなのだろう。
杖で空中に傘の絵を描いて、かかとを軽やかに二回、たたんと鳴らした。部屋に置いてある蝙蝠傘を召喚したのだ。しっかりキャッチする。
「ロロ、リュリュ、これをつかって。あまりきみたち二人を空の元にさらしたくない」
「わぁ、ありがとう……遠慮なく、使わせてもらいますね、えへへ」
「すごい!エーリク。杖、貰ったばかりなのに……ありがとう!」
「ほら!やっぱりぼくがいったとおりじゃないか、エーリクはセンスが抜群にいいよ」
「照れちゃうな……元気はつらつなリヒトとスピカには我慢してもらう形になっちゃったよ、ごめんね」
「そんなこと、気にしてないよ。きみ、空間を制御する能力に長けてるのかな」
「デッキブラシ卒業の日も近いかもしれない!もう、ほうきを折りまくるのはかっこ悪いよ」
「でも、エーリク、意外とデッキブラシが似合うんだよね」
「いじわる!!」
スピカが懐中時計を取り出して、時刻表と照らし合わせている。
「あと五分でくるよ」
「早く来ないかなあ、ここの周回バス、時間通りに来たためしがないよ。レグルスでいっぱいなにか飲もう」
「なにがあるんだい、その、レグルスってお店」
リュリュが手をぎゅっと握って問いかけてくる。
「物語の主人公になれるお店。なんでもおいしいよ、ドリンクもご飯も。宝探しも愉快だ」
「素敵だね、なんだかどきどきしてきた……」
するとスピカの言った通り、煙を上げてバスがやってきた。傘をたたむのを手伝って、バスに乗り込む。
「わー、スピカの懐中時計は寸分の狂いなく動いててすごい!」
「まあ、毎朝日課としてネジを巻いてるからね。メンテナンスは必要だけど、良いアイテムさ」
「レグルスに行くの、ぼくの、松ぼっくりのかたちの目覚まし時計をなおしていただいた時以来かも。真宵店長、げんきかなあ」
「うん、あのお店空調が完璧だし、栄養満点のごはんも食べられるから……元気に過ごしているはずさ」
雑談をしたり、鉱物図鑑を眺めたり、ロロと一緒にリュリュにもあやとりを教えたりしていたら、すぐにレグルス前についてしまった。急いでベルを鳴らし、ありがとうございましたと運転手さんに元気に挨拶しながら、パスを見せておりた。
「ロロ、このドア開けるの好きなんだよね」
「あっ、はい!でも今日は、リュリュに、譲りたいと思います」
かおをみあわせてにやにやとわらった。リュリュがドアノブに手をかけた。
「何が起こるんだろう……わくわくする。じゃあ、開けるよ」
「どうぞ!」
がらんがらんと、それはそれは立派なベルの音が鳴り響いた。
「わああ!!び、びっくりした」
「おれたちも最初は驚いたよ」
カウンター席に見慣れた人物がいる。〈AZUR〉のクレセント店長だ。真宵店長がぱっと笑顔を咲かせたと思うとぴょんっと階段をジャンプしてこちらへやってきた。その後に続くように、クレセント店長が椅子から降りてきた。
「ひさしぶり!いらっしゃい!!マグノリアのみんな、元気そうだね!あ!リヒト!!編み込みツインテール、すごく可愛い。ロロも、薔薇みたいにくるくる髪の毛巻いてるんだ。スピカにやってもらったんだよね、二人ともとてもよく似合ってる。素敵だよ……いいものを見せてもらっちゃったから、リボンとヘアゴム代は、おまけ」
「お久しぶりです、うわあ、うれしい!!それなら、リボンとヘアゴム、宝物にすることにします」
「こんにちは、真宵店長も、クレセント店長も、お元気そうでよかったです」
「やあやあ、チョコレートリリー寮のみんな、こんにちは!!あははは!ふふふふふ……愉快愉快、」
「クレセント、呑みすぎ!!……初めましての子がいるね。エーリクがたくさん友達を連れてきてくれて、うれしいな……」
「アッシュグレーのモノクルの子、リュリュだよ」
髪の色で客のことを覚える真宵店長が、リュリュくん、いらっしゃい、と、あたたかい笑みを浮かべて歓迎してくれた。
「よろしくお願いします、リュリュ・リュラです。多分モノクルをかけているマグノリア学院生、ほとんど、というか、たぶんいないので……覚えていただけたら嬉しいです。後、よろしければみんなと同じように、よびすてにして頂けたら、嬉しいなって。わがままかな……」
「ぼくは真宵。初めまして。ようこそ、物語喫茶レグルスへ。わかったよ、リュリュ。可愛いおねだりじゃないか。こちらこそよろしくね、仲良くしてやってくれ」
握手を交わしているのを眺めて、ふと、クレセント店長に声をかけた。
「〈AZUR〉は今日、おやすみなのですか?」
「うん、ここで黒蜜と落ち合う約束をしてるんだ」
「のみすぎだよね、後で黒蜜にしっかり叱ってもらわなきゃ……さぁさぁ君たちも席に着いて。スツールや、ソファ席もあるけど、カウンターだと料理の提供がしやすくなるから有難い」
「それなら、僕はちょっと背伸びしてカウンター席に座らせてもらいます」
リュリュが、よいしょ、と一声あげてカウンターについた。
「僕たちも座ろうか、ロロ、おいで」
「うわぁああああ、エーリク!!」
あしをばたばたさせるロロを問答無用で抱き上げて、椅子にしっかり座らせた。リヒトとスピカは全くなんの苦労もせず席に着いた。ふたりとも、動作がしなやかというか、いつだってかっこいい。僕は、やや一生懸命頑張って椅子に座った。

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