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ギフト④【チョコレートリリー寮の少年たち】

僕たちはめくるめく鮮やかな露店に瞳を奪われながら、はしゃぎつつ行進した。リヒトがブルースハープを高らかに吹き鳴らしている。そしていきなり立ち止まる。ちいさなせなかにぶつかってしまった。ごめんね、とあやまると、気にしないで!と朗らかな笑みを浮かべてくれた。
「わー!!すごい人。クレープ屋さんとフライドポテト屋さん、彼処ですか?」
「そうそう。併設されてるんだ。エメ・ラボっていうお店。レシャさんとファルリテさんは、こういうジャンクフード、食べたことがありますか?」
「ほとんどないです」
「でも、人気があるんですね!」
「甘いものはお好きですか?」
「あ、はい!大好きです!でも、クレープは一度しか食べたことがないです。邸宅から鳳さんの代わりに買い物に出た時に、お店に並んでいた小さなバナナクレープをファルリテと一つずつ、もぐっと。適当に栄養補給として、手軽に済ませたんです。だからこんな立派なクレープ屋さんに来れて、凄く嬉しくて。フライドポテトは旦那様と鳳さんがお好きで、割と頻繁に作るのですが、僕らは火が通ってるか、味見程度で……」
「それならば、期待を裏切らないと思います」
「席の確保はぼくに任せて!自分で言うのもなんですが、そういうところちゃっかりしてるというか、くるくる動ける」
「さすがだね、リヒト。もうひとり……そうだなあ、ロロに任せようかな。何食べたい?そこにメニュー表がある」
「はーい!ほうじ茶パウダーのかかってるのがある、ノエル先輩、これをお願いします!」
「奢るから遠慮なく頼んで」
「えっ!!本当に?!」
「うん、好きな物頼みなよ。ご褒美」
「それなら、とびきり豪勢なものを、おねだりしてしまいましょうか……ふふふふ」
ロロがふわふわなほっぺたをゆるゆるさせながら非情なことを言う。メニュー表をよくよく眺めてから、ぱっと笑顔を浮かべた。
「では、いちごクレープ、の、チョコスプレーがけを。七色のがいいな。頑張って、えっと、席を譲っていただきます!!その、根性で!よろしく、お願いします!」
「なんだ、そのくらいか、おねだり」
「えへへ……ノエル先輩。ありがとうございます……」
「よし、じゃあ俺たちはちょっと戦ってくるから、まってて」
「はーい!」
「お気をつけて!」
「……スピカが鶏小屋からたまごをとるときって、きっとこんな気分なんじゃないかなって、ちょっと思ったよ」
「当たらずとも、遠からずですね」
スピカが、眼鏡を艶然とした仕草でかけ直している。その姿が妙に色っぽく映り、僕は慌てて視線を逸らした。
僕たちは手を高々とあげてはぐれないように合図を送りつつ、カウンターへ辿り着いた。
「ほうじ茶のクレープといちごのクレープ……チョコスプレー、カラフルなのをどっさりお願いします。あとツナとレタス、あんずと生クリーム……それから、ママレードのバターワッフル……サミュエルもスピカも、リュリュも蘭もどんどん注文して。後ろから押されてるからまとめて」
「チョコバナナ、メイプルシロップ追加でお願いします。レシャ、ファルリテ!!」
「はーい!!アールグレイとミルクのアイスと生クリイムの下さい、えっ!バナナ、サービスでいただけるのですか?それなら二切ればかり、嬉しい!!」
「僕はホイップ増量のいちごの……チョコスプレー、選べるならカラフルなので、あ、ありがとうございます」
こんな調子で僕らはたっぷりクレープを手に入れて、パラソルの方向へと向かった。リヒトがこっちこっちと手招きしてまたブルースハープをひと吹きする。
「お疲れ様、席作ってくれてありがとうな。やっぱり、二人は、だれかとものごとを譲り合ったり、優しくお願いしたり、そういうことが上手い。誰にでもできることじゃないよ。おもいやりのかたまりだよね。穏やかで気の利く二人に任せてよかった」
「ありがとうございます、褒めてもらっちゃって、ぼく凄く嬉しいです、あとでお膝に乗せてください」
「僕とファルリテ、可愛いって言われてなんだか色々サービスされてしまいました」
「よかったね、そうだよ、きみたちふたりは僕のお兄様だけど、とてもかわいい」
「えっ、どのあたりがですか?」
「坊ちゃんがお店の方に言われるなら納得できるんですが」
「自覚がないみたいだから、ひみつ!」
「きになるよね」
「うん、すごく」
スピカが両手にトレイを持って、パルフェやクレープを山ほど乗せて戻ってきた。物語喫茶レグルスでアルバイトを始めてから、僕たちはこういう振る舞いがとても上手になった。しかし髪は解け、きれいな砂色の髪をさらさらゆらしている。
「またリボン解けちゃいましたが、スペアをいつも手首にまきつけているので、問題ない。わらび餅パルフェ、買っちゃった!」
「スピカは本当に凛々しいね、トレイ、テーブルに置いて髪を結うといいよ」
「そうさせてもらう……そろそろ切らないとだめだなあと思いつつ何となくクリスマスイヴになってしまった」
「まあ、とりあえずみんな座ったね、とおもったけどリュリュが」
「……疲れた、無様だ」
リュリュが黒山の人だかりから離脱してきた。いそいで駆け寄る。
「大丈夫?痛いところとかない?クレープ、ちゃんと買えてえらい!僕が持つね」
「うん、たすかる……モノクルが外れそうだ。せっかく師匠に直してもらったのに、壊れそうだったよ。そして式典用のローブ、引っ掛けてちょっとほつれちゃった」
二の腕のちょっとした糸のほつれだ。僕でも役に立てるかなと思って、ほほえみかけながらリュリュの手をひいてみんなの元へ向かう。
「この位、なんともない。僕が縫うよ。小さいことを逐一ママ・スノウに頼むのは気がひけるだろう」
「エーリク……ありがとう。きみは本当にやさしいね」
「大したことないさ、」
「坊ちゃんが、ほんとうに……うっ……ここまでご学友のみなさんにおこころを寄せることができるように、なるだなんて」
「ガーデンサラダをテーブルやお膝や床にばたばたぼろぼろこぼして、鳳さんにびしばし教育されていたあのころがなつかしい……」
「ミートボールの件といい、やめてよ二人とも。それにそんなにばたばたぼろぼろ落としてないもん」
「落としてましたよ」
レシャとファルリテが顔を見合せて、笑いをこらえている。だからトーションを何枚も持ち歩くのかと、レシャのほっぺたを優しく咎めるようにつまんだ。ぼくにできるささやかなしかえしだ。
「そんなことをしている間に、フライドポテトとフィッシュアンドチップス、オニオンリング買ってきたよ!」
「リヒトくん、すごーい!!!!」
「わーい!!お疲れ様です、リヒトくん」
レシャと、ファルリテが感嘆の声を声を上げて立ち上がり、トレイからお皿をおろしている。邸宅で様々な仕事をしているふたりに褒められるのは、おべっか抜きの本音だ。
「それほどでも!ディップは色々あったから、ちいさいのを全部買ってきた。人気のあるものはまた買いに行けばいいよね」
「おいしそう……」
「レシャ、揚げ物好きだもんね」
「うん!実は大好きなんだ。唐揚げとかもう最高だよ」
「もっとつまみ食いすればいいのに。たくさん作ってさ」
「とんでもない事です」
「そう言う訳にはいかないよね、僕ら、使用人だし」
「そんなこと言わないでよ。僕の大切なお兄様だよ、ふたりは」
「レシャさん、わかります、揚げ物、僕も大好きです!本当に美味しい」
蘭が身を乗り出してにこにこと口元をほころばせた。
「蘭くん、きみとは良いお酒が飲めそう。おとなになったら、是非一緒に」
みんなでバングルをかしゃん!とぶつけあった。これで割り勘できてしまうから、魔法具って本当にすごい。
「じゃあはい、みんな、せーのっ!」
「いただきます!!!!」
僕たちはクレープを貪りつつ、フライドポテトとフィッシュアンドチップスとオニオンリングをたべた。皮がついているフライドポテトがほくほくしていて美味しいなあと思いながら、マスタードソースをたっぷり絡ませて口へ運ぶ。フィッシュアンドチップスはタルタルソースがおいしくて、お父様が好きな味だろうなあと思った。オニオンリングも、さくさくしていてとてもあまい。絶品だ。
「レシャ、これはどうやって作るものなの?」
「フライドポテトですか?」
「うん!こんなに美味しいもの、滅多に食べられないから、寮でも作って食べたいな」
「僕たちの作り方では、そうだなあ、じゃがいもをよくよく洗って、八等分くらいに適当な大きさに切って、水に晒してあくを抜いて……」
「水気をよくよく切って、」
「じーっくり、極低温から根気よく、黄金色になるまで揚げます。これ、鳳さんも好きなんですよ。フィッシュアンドチップスのお魚は旬のものを捌いて作るのではないでしょうか、オニオンリングはとてもおいしくておどろいています。まだ一度もつくったことがありません」
「鳳、揚げ物食べるんだ」
「最近色んな揚げ物をおつまみとして作っていたら、はまってしまったようです。他にもコロッケとか、カレーとか、シチューとか食べたいですねと頼まれますよ、そこそこ頻繁に」
「ふふ、可愛い」
「坊ちゃんが、そう言っていたと伝えておきますね」
「だめ!!ぜったいにだめだよ!!」
僕はテーブルに思い切り手を着いて抗議した。
「何があった!エーリク」
「どうしたの?」
「……みんな、驚かせてごめん」
「なぜだめなのでしょう」
「とにかくだめ!!鳳に対して、可愛いとかいう僕はだめなんだよ!」
「よくわかりませんが、それが坊ちゃんの矜恃ならば、なにもいいません」
「うん、サングリアで酔ってもいいません。約束です!最近旦那様に、お酒にお誘いいただけることが増えました。鳳さんは、東の国のお酒についてすごく詳しくて」
「先日旦那様と呑み比べをして、あっさり勝っていました。ものすごく強いんですよ、鳳さん。邸宅ではそんなこともありました」
「本当に、気をつけて。秘密だからね」
切実な表情をしていたのだろう、二人はフライドポテトを食べながら、うんうんと一生懸命首を縦に振った。
「ブラックペッパーとソルト、充填してもらいにいってきます。なんでもこのピンクのソルトは遠い異国のものらしいです」
リヒトが軽やかに屋台の方へスキップしていく。
「リヒトくん、なんとも愛らしい方ですね」
「やっぱり、分かってくれる?ほんとうにいいこでしょう。でも、リヒトだけじゃなく、ここにいるみんなは、僕の大切な親友さ」
「勿論。かけがえのない親友です!」
「僕たちみんな、優しいエーリクのことが大好きなんです」
「エーリクは頑張り屋さんで、えらいです!飛行術も本当に上手になってきていて……それに、ぼくの嫌いなほうれん草も食べてくれます」
「やめてやめて。みんな。僕なにもしてないよ」
「この姿勢、なんだよなあ」
「うん、本当に」
「凪いだ海のよう」
「褒めすぎ!!」
ほっぺたがぽかぽかしてきた。その時いいタイミングでリヒトが戻ってきてくれた。僕は立ち上がり、大慌てでディップを受け取る。
「ほら!みんなの好きなブラックペッパーとソルトが来たよ。この辺全体にかけてもよい?」
「半分くらいこちらの器にうつそう」
「うん、じゃあこうして、どさっと」
その時、聞き覚えのあるベルが五回、鳴った。続いて、どすんとなにか重たいものが沈む音。お腹に響く。
「黒蜜店長!」
「はぁい!チョコレートリリー寮のみんな。こんにちは!!あれ、今日はお兄ちゃんが二人いる。初めまして、ぼくは星屑駄菓子本舗の店主、黒蜜。仲良くしてやってね」
「ミルヒシュトラーセ家の使用人レシャと、」
「ファルリテです、はじめまして」
「僕のお兄様です、」
「なるほど、契りは交してあるんだね。すてき。エーリクはとても穏やかで優しい子だよね……器用だし。座学がすごい学院生がいるってきみの名前をきいてるよ……そういえば、エーリクのお父様がうちのべっこう飴をお買い上げいただいたようで、エーリク宛に送ったってエピソードがあって」
「あれ、すごく綺麗です。アルゴ座のホログラムが浮き上がって……ああ、そうだ。黒蜜店長、聞香杯のパーティに、僕ら、誘っていただいているのです。チケットももう手元にあって。エトワールさんが、黒蜜店長やクレセント店長たちもいらっしゃるって」
「わあ、本当かい?そこで会えるのも楽しみにしているね。あときみたち、きっと今晩のムーンライトフェスタに来るでしょ?今日はクリスマスイヴ。はしゃぐつもりだよね?ぼく、今日はクレセントの手伝いで売り子やるから、おいで。ミケシュもいるよ」
「長兄には体が小さいことをからかわれるから、ぼく、遠くにいます」
「ミケシュにそんな意地悪しないように伝えておくから、安心して……」
「よけいいじめられるきがします」
ロロはないてしまいそうな表情をしている。ぎゅっと、抱きしめた。
「絶対そんな扱いさせないから、ロロ、安心して」
「はい、それなら、みんなと行きます」
「きみたち、美味しそうなものを食べてるね。ぼくにひとくちちょうだい」
「どうぞ」
僕はフライドポテトにバーベキューソースをたっぷりつけて黒蜜店長に食べさせた。うさぎみたいだなとおもいつつ、マスタードソースもつけて差し出してみた。もぐもぐとうれしそうにたべている。
「うん!おいしい。ありがとう!また夜あおうね」
黒蜜店長は大きく手を振ると、ワゴンのギアを入れて、去っていった。
「さあ、フォーマルハウトプラザのおすすめスポットはだいたいまわってしまったのだけど、どこらへんに行きたいとか、希望ある?」
僕はクレープの最後の一欠片をよくたべてのみこんでから、挙手した。
「僕、一足先に波止場に行きたいです、夕日が沈んでいくところを、みんなとみたいです」
「グッドアイディア」
「きっと素敵だと思う。マジックアワーの海」
「だんだんとあかりが点っていく露店も美しいですよね」
「とりあえずここに居るおいもを何とかしないことには」
主にノエル先輩が頑張って、フライドポテトを食べ終えた。リヒトとスピカもかなり、完食に貢献していた。
「ああ、美味しかった。冷めてもさくさくなのがすごいよな……さあ、波止場まで、少し歩いていこう」
「それがいいですね」
「坊ちゃん、お腹の調子はどうですか」
「うん!大丈夫!元気いっぱい」
「結構召し上がられましたね、安心しました。このことは鳳さんに伝えてもよろしいですか」
「いいよ、僕いつも、こういう美味しいもの沢山食べてるから、だから心配しないでねって伝えてね」
「確かに、美味しかったです。僕らがマグノリアに通っていた頃はこの界隈、閑散としていて、なんにもなかったんですよね」
「また食べようね、一緒に」
「約束です」
「約束!」
僕たちはまた色んな出店に目を奪われ、ふらふらしつつ、波止場をめざした。
「本当に色んなものが売ってるなあ、ノエル先輩はサミュエル先輩と、よくこの辺りで遊ぶのですか?」
「俺たちもごくたまにだよ。今日はクリスマスイヴだし、特別」
「鳳さん、旦那様と奥様になにかご馳走を作っているかなあ」
「たぶんね。でも、今だけは一瞬仕事のことは忘れよう、あ!麦酒の露店がある。ヴィトゥスっていう麦酒、売ってたら買ってきます。とても美味しいんです。ファルリテ、付き合って」
「はいはい、行ってきます!」
「僕らはジュースでも飲もうか。わあ、彼処に、子どものシャンパンって書いてあるお店があるね、」
「そういえばレシャさんとファルリテさんは、おとなでした!子どものシャンパン、飲みに行きましょうか」
「わーい!メリークリスマスイヴ!!」
「気をつけるんだよ、だんだん人が増えてきてるから、ぶつからないように。俺はホットワインでも飲もうかな」
こうして気心の知れたみんなと、うろうろとするの、すごく楽しいなあと思いながら、色々と買い求め、つまんだ。
「揚げまんじゅう……?」
僕は不可思議な露店を発見した。蘭が身を寄せてくる。
「それも東の国のお菓子。おいしいよ」
「蘭、半分こしない?」
「うん!僕、久しぶりに食べたいなあって思ってながめてたんだ。行こう」
蘭にさっと腕を差し出した。小さく笑い声を立てて、ぎゅっと掴まってくる。すみません、と、失礼しますを十回ほど言っただろうか、なんとか露店へ辿り着いた。
「ひとつ下さい、懐紙を二枚いただけるとありがたいのですが」
蘭はとても聡い。僕はなんだかぼんやりしていて良くないなあと思った。いつもみんなに助けられてばかりだ。
「ほかほかだよ、ご馳走してあげる。食べよう」
「わ、ありがとう!今度なにか奢るね」
「うん、でもあまり気にしないで。はい!どうぞ!!おいしいとおもうよ!」
「いただきます」
さくっとした衣の中に、あつあつなあんこが入っている。優しい甘さで、あずきが香りだかい。
「……おいしい!びっくりした」
「ね、これは母が、元旦によく作ってくれていたんだ。僕の大好物。エーリクと食べられて嬉しいな」
まさに天使のような微笑みを浮かべ、蘭が夢中で揚げまんじゅうを平らげている。
「これ、本当に美味しいよ。素晴らしいね……発案者は、天才なんじゃないかなあ」
「僕もそうおもう。よくおまんじゅうに衣をつけて揚げようと思ったよね。すごい発想だよ」
「今度お腹を空かせてここに来よう、三つくらい食べたい。二人だけの秘密にしないか、みんなを驚かせたい」
「いいね、そうしよう!そんなに喜んでもらえるとは思わなかった。よかった!」
「みんな!集まって!」
ノエル先輩が手を挙げて散らばった僕らを呼んでいる。
「行こうか」
僕は蘭としっかり手を繋ぎ、みんなが集合し始めた地点に歩み寄った。
「ヴィトゥス、久しぶりに飲んだけどやっぱり美味しい」
「甘口なんだけどアルコール度数が結構高くてあぶないよね」
「ホットワインも美味しい、スパイスがきいていて……」
「子どものシャンパン、大人のシャンパンがどういう味なのか分からないけど、炭酸がぱちぱち弾けて、とても刺激的です」
「さあ、じゃあまた歩くよ」
ノエル先輩は本当に頼りになる。所々でクラッカーが鳴り響き、銀テープが足にまとわりついてくる。それを手ではらいながら歩を進める。
「すごい騒ぎだな、やっぱりクリスマスって、大人も子どもも関係なく浮き足立つものなんだなあ」
「なんだか歩いたせいか、ぼくまたおなかがすいてきちゃいました」
「ロロ!嘘でしょ?!」
「いや、実はおれも結構空腹」
「なんてことなの……リュリュ、きみはおなかすいてないよね?」
「うーん、結構食べられる腹減り具合」
「みんなのお腹、異次元につながっているのかい」
「坊ちゃん、ご無理はなさらず」
「そうです。坊ちゃんは坊ちゃんのペースでいいのです」
「〈AZUR〉の露天で、もし売っていたら、ゆめみるプチタルトを食べようかなあって、ぼく、思ってて」
「あれ、美味しいよな」
「はい!とても。クレームダマンドが滑らかで、フルウツがきらきらしていて……クリスマスに相応しいお菓子です」
「黒蜜店長たちにあえるのもたのしみ」
「だんだん空がオレンジ色に染まってきたね。日が沈む瞬間にまにあうかな」
「少しだけ急ごう。あとは、遠足のしおりに書いたけど、はぐれたら波止場の真ん中にあるツリー集合にしよう。この人出だと、ばらばらになる可能性が高い」
「ロロ、僕と手をつなごう」
僕はロロの小さな手をやさしくにぎった。
「ありがとう、エーリク。エーリクが一緒なら怖いこと、何もないです」

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