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チョコレートリリー寮の少年たち 学院創立記念日④

「そういえば黒蜜たちがバスルームから全然出てこないな……ちょっと見てくるから、みんなはすきなものをたべていてね」
「はーいっ」
とおくから三人でなにやら話していている。
「シュガー、何してるの、おいでよ」
「ごめんごめん、髪がはねちゃって、なかなか髪型が決まらない」
「もう、そんなのどうでもいいよ、ねえ、クレセント」
「よくないの!これからクレセントとワゴン引きながらデートなんだから。真宵はちゃんとしないからモテないんだ」
真宵店長とクレセント店長が、黒蜜店長をぐいぐい引っ張っている。
「もう全部帽子にしまっちゃえ」
「わあ、大人だ!!」
「ほんとうだ、かっこいい!」
すなおにほめると、気恥ずかしかったのか、黒蜜店長がほっぺたに手をあてて、うずくまってしまった。
「恥ずかしい……」
「クールな感じでいいと思う、俺は」
ドーナツ柄のロングTシャツを着たクレセント店長が、黒蜜店長の手を引きながらこちらへやってきた。僕たちはふたりがとなりどうしの席につけるよう、一つずつ席を右に譲った。
「お気遣い、ありがとう」
「いえいえ」
「シュガー、何か食べたら?」
「そうだなあ、とりあえず、テキーラサンライズを。あとはいつもの、かな。真宵、よろしくね」
「了解。体の芯が冷えているかもしれない。スウプでも飲む?」
「うん、たまごのふわふわしたスウプ飲みたい」
「わかったよ、ほかにもスウプのみたい子はいる?」
全員一斉に手を上げたので、笑いの渦が湧き上がった。
「そういえば、はじめましての学院生がいるね」
黒蜜店長がリュリュにほほえみかける。
「あっ、ご挨拶が遅れて失礼しました。僕はリュリュです。お話はかねがね」
「あはは、一体何を聞いたんだろう。ぼくは黒蜜。なかよくしてね!」
「よし、この大鍋でスウプをぐらぐらと作ろう。たまごを割ってかきたま作ってくれる子を大募集中なんだけど……」
「ぼく、やってみたいです。実家が、大所帯なもので、毎朝、その……うんっと……母に頼まれて、たくさん、たくさんたまごを割ってきたん、です。完遂できる、はずです」
「ではロロに任せるよ。ぼくは、黒蜜のいつもの、の支度をしながらまたべつの料理をつくる。カポナータでも拵えようかな」
ロロが厨房に入り、手を石鹸で洗っているその後ろに真宵店長が回り、三角巾を結んでいる。借り物のブルゥのチェックの割烹着を着て、大きなボウルにたまごを割りはじめた。なんと、両手にたまごを持ち、シンクに軽くぶつけ、ばんばん割り落として瞬く間に十個分のたまごのしたくができてしまった。
「……すごい」
呆然としている僕らを気にもとめず、慣れた手つきで、少しボウルを傾けて撹拌している。
「スウプ、作っていいですか?」
「ロロ、凄すぎる!!」
喝采の声が上がる。ロロは驚くべきスピードでにんにくを潰し、しょうがと共に刻み、ごま油を熱して大鍋に投入した。
「鶏がらスープのもとがあるからそれを使ってね。いやはや、それにしても凄い」
「これですか?」
「うん、それ!あと、葱刻む余裕ある?」
「全然余裕です。おまかせ、ください」
良い香りが立ち上ってくる。そこへ水をたっぷりと湛えた。
「可愛いシェフ!」
「やるなあ、ロロ」
「危なっかしさゼロだね」
「さすが……!」
ロロがにこりとわらって、手を振ってくる。
鶏がらスープの素をさらさらいれたかと思えば、渡された葱の繊維の方向へしゅっしゅとナイフを入れて根の方から細かく刻んでいく。
「なるほど、あの切り方ならみじん切りが簡単に出来るんだ。ひとつ賢くなったな」
スウプが沸き立ったので葱とたまごをふんわり流し入れすぐに火を切って蓋をしている。
「たまごだけの予定だったのですが、気分がのったので、最後まで作ってしまいました。あ、ここにある、スープマグに注いで、提供していいですか?」
「素晴らしいね。ロロにはなにかご褒美をあげなくちゃいけない」
「そんな、ご褒美なんて、とんでもないことです。うう……スープマグが結構重くて怖い……」
「あとはやるから任せて!お疲れ様、たすかった」

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