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フレンチトースト大作戦!とスピカ君によろめき隊!会長との出会い【チョコレートリリー寮の少年たち】

アフタヌーンティーが催された翌日、僕は早朝から洗面をすませ、くるんくるんの髪の毛にみずをつけてあそばせてから、予習のために机に向かっていた。昨日は大勢集まって手作りするティーパーティー、楽しかったなあと思い出してにこにことひとりで微笑んだ。かつて雇っていた家政婦さんなら、旦那様や坊ちゃんが手を汚されるなどとんでもない!!!!と泡を吹いて倒れたろうなあと思う。その家政婦さんは娘さんに子どもができたらしく、私、おばあちゃんになるわ!!と、にこにこ笑いながらおひまをいただきますといって去っていった。お父様や鳳、レシャ、ファルリテもこの家政婦さんには手を焼いていて、いいタイミングで退職してくれて助かったとこぼしたものだ。
邸宅のあのあとが気になった。片付けや洗い物も大変だったろうと思う。勉強なんかより、気遣いや労いの言葉を考えることの方がずっとずっと重大だ。それに、近いうちに僕の誕生日パーティーを開いてくれるとの事で、【ジェミニののろい】をかけられているレシャとファルリテの体調がやや心配だ。
勉強なんてどうでもいいやと羽根ペンを放り出したその時、勉強机の周りがアルミニウムリボンに炎を灯した時のように眩く光り、後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「うわあっ」
「坊ちゃん、おはようございます……!」
「坊ちゃん!!!!嗚呼!!!!」
レシャとファルリテだ。二人ともグレーの瞳に大粒の涙をたたえている。今にも零れおちてしまいそうだ。
「おはよう、お兄様方」
「坊ちゃん、お手紙、拝読させていただきました。なんて愛情のこもった素敵なお手紙なんだろうと……強く胸を打たれました。ありがとうございます。今朝は鳳さんは、ミーティングに来ずに、部屋でずっと泣いておいでです。鳳さんが職務を投げ出し部屋から出てこないなんて、初めてのことです」
「僕達も、涙を禁じえなかった。でも、なんとかミルヒシュトラーセ家の皆を代表してお礼を申し上げたく思い、やってまいりました。そして、お手紙がふわふわだった理由も……わかりました」
レシャがふわりと、レースのハンカチを広げてみせる。
「これだったのですね……」
「うん!少しずつ編んだの。気に入ってくれた?」
「それはそれはもう。感激のあまり僕らは……」
「この僕たちの顔を見ていただければ分かると思います」
こころが愛おしい気持ちでいっぱいになる。二人をおもいきり抱きしめた。
「いつも邸宅のこと、ありがとう」
「エーリク!!!!未来の息子たち!!おはよう!!」
「あ、旦那様!!おはようございます!!」
お父様が二階の階段の手すりを見事におしりで滑走して、ぴょんと飛び上がると、くるりくるりとハンカチを振り回してから、だだだだだだっと駆けよってくる。
「エーリク、とんでもないものを!!!!」
「おはようございます、お父様。落ち着いて。危ないので階段は一段ずつ降りてきてください」
「まあいいじゃん。これエーリクが編んだんでしょ?!すごい、とても綺麗……ありがとう、大切にする。早速今日から、胸ポケットにしまうことにしよう。お礼はエーリクの誕生日パーティーのときにたっぷりと!」
「わあ!うれしい!楽しみにしています」
「あれ、鳳は?」
「泣き伏しているようです。そっとしておいてあげてください」
「まあ確かに泣きたくなる気持ちはわかるよ。レシャもファルリテも、散々泣き腫らした目をしてる。せめて私は、しっかりしなきゃ」
「ミルヒシュトラーセ家の当主たる佇まい、素晴らしいことです……と、鳳さんなら言うでしょうね、僕もそう思います」
「たまには私もほめてもらえるんだなあ」
「さっそくハンカチを使わせて頂きます」
レシャが涙を拭いながら言う。
「ティッシュがあるよ」
「恐れ入ります。三枚ばかり、失礼します」
「ふぇ、おはようございます、あれ、レシャさん、ファルリテさん。邸宅のみなさまだ。あれれれ……鳳さんは……?ぼく寝ぼけてないですよね」
「天使が目覚めた!かわいいなあ」
「ロロくん!!おはようございます!」
「ロロくんもみてください。この見事なレースのハンカチ」
「た、大したものじゃないから早くポケットにしまって」
「すてき、エーリクはとても器用。手先を使う細かい作業が本当に上手なんですよね」
「ロロにも編むよ。それとも、教えるから一緒に編んでお互い交換しようか。きっと、たからものになるよ。きみもすごく手先が器用。あやとりだってあんなに上手にできるもの」
「えっ、いいのですか?」
「うん!勿論さ。ロロはそうだなあ、ちょっと変わった、まあるい図案があるのだけど、まあ、色々考えておくからちょっとまってて。魔導図書館から編み図を借りてくるか……」
「ごめんなさい、朝でばたばたしてるところにお邪魔してしまって。そんなわけで旦那様、僕らは今日ちょっと、ぼんやりしてしまうかもしれないんですけど、ごめんなさい」
僕の髪をひとなでして、ゲートの向こうへとレシャとファルリテが帰っていく。
「構わないよ、来客の予定もないし。ゆっくり花瓶拭いたり、私のチェスの相手して。あと、カルボナーラたべたい」
「ところでミルヒシュトラーセ家のあさごはんはなあに?」
レシャとファルリテが揃って首を傾げた。
「どうしようかなあ、鳳さんを部屋から出すために、なにか喜びそうなものを用意してさしあげたいな」
「……それなら、フレンチトーストがいいと思う」
「どうしてですか?」
「密かな鳳の大好物なの。本当は卵液に一晩つけておいたものが好みなんだけど、急拵えでもよろこぶはず。バケットがあるならそれを薄めに斜めに切って……」
「坊ちゃん、僕らの知らない鳳さん情報を色々知っている」
「生まれた時から世話をしてもらっているから、僕と鳳の距離、君たちが思ってるより近いよ。そうだなあ……」
鳳がとても喜ぶメニューをいくつか知っているのだけど、あまり沢山教えるのは、彼と僕の間で結ばれた秘密を暴くようで憚られた。ほんの少しだけならいいだろうと思って、僕は言葉を選んだ。
「フレンチトーストにバニラアイスを乗せて、ホイップクリイムを添えてあげて。そうしたらたちまち部屋から出てくるはずさ。肝心要の、メイプルシロップも忘れずかけてね」
「坊ちゃん、助かります!」
「そして叶うなら昼御飯はピーマンの肉詰めと炊きたての白いごはんとほうれん草のおひたしを。たまごがあるなら、だし巻きたまごあたりを支度できそう?その辺で鳳もいつもの調子を取り戻すはず。夜はお父様ときみたちとお酒でもくみ交わせばすっかり元気いっぱいだと思うよ」
「鳳さん、大丈夫でしょうか」
ロロが僕の袖をぎゅっと握ってくる。
「大丈夫、嬉し泣きだと思うから」
「エーリク、ロロ、おはよう。あ、ミルヒシュトラーセ家の皆さんだ。おはようございます」
「リュリュくん、おはよう。よく眠れた?」
「ミルヒシュトラーセ家のアフタヌーンティーの夢を見ました」
「あはは、楽しかったかい」
「とっても!僕らが皆さんに給仕をする夢だったんですよ……眠る前、レグルスで働いたことをおもいだしたせいかもしれない。鳳さん、そういえばお姿がみえない」
「鳳さんは泣いちゃってて。でも、元気が出るメニューを教わったからそれを食べてもらいます!ねえ、見て見て!リュリュくん、この総レースのハンカチ。坊ちゃんが編んでくれたんだ」
「すごい!これは……こまかいな、一体どうなってるんだ」
モノクルをかけたり外したりしながらじっとハンカチを眺めている。
「焦点があわないな……水色と白の細い糸で編まれているのは辛うじてわかるんだけど」
「リュリュにも編み方教えようか」
「……僕には無理だと思う。目だってこんなに悪いし」
「それなら僕、二枚編むよ、そしてリュリュにプレゼントする」
「ありがとう!目の悪い僕でもできるような手芸があったら教えて欲しいな」
「編み物なら、指あみという方法もあるよ、んー、でもハンカチにはならないなあ、ナイロンたわしみたいになる」
「そうしたら、レシャさんとファルリテさんに、僕が編んだナイロンたわしをプレゼントしたいです。いつもおうちにおまねきいただいてるので、ささやかなお礼です」
「いいの?!洗い物する度に嬉しくなっちゃう」
「よろしくお願いします!!」
「はい、あまり上手には出来ないかもしれないんですけれど、期待せず待っていてください」
「やったー!!」
「それじゃ、僕達は何とか鳳さんを部屋から出したいと思います、フレンチトースト大作戦です」
「いい香りを漂わせておびき出すのがいいと思うよ。人間、空腹には勝てないさ。ゴッドスピード、レシャ、ファルリテ。鳳によろしく伝えてね。お母様にはお疲れ様とおやすみなさいを。お父様は邪魔をしちゃだめですよ」
「じゃあそうならないように二度寝しよう。適当に起こしてくれ……眠い眠い。エーリク、本当にありがとう」
「ありがとうございました!」
「お互い適度に適当に、一日頑張りましょう」
「うん、またね、坊ちゃん!」
「ばいばい!」
僕は杖をひと振りして机に伏せった。
「朝から疲れた。僕は今日は具合悪いってことにして、休もうかな」
「サボるの?」
「うん、だって疲れるもん。四限に呪わしい飛行術の授業もあるし」
「だめですよ、エーリク。一緒に行きましょう」
「ロロまでそんなことを言うのかい」
「一応学級委員長のスピカに任命された風紀委員長ですから」
「やだ、やだやだやだ!!」
「リュリュ、スピカを呼んできてください」
「うん、ちょっとまってて」
「おーい!誰か絆創膏を持っていないか、蘭が……あ、リュリュ」
「今呼びに行こうと思ってたんだ。エーリクが駄々こねてる」
「おはよう。絆創膏はこちら」
僕は突っ伏しながらひらりと指で挟んだ絆創膏を振って見せた。
「おはよう!たすかる。蘭が軽く怪我してさ。運悪く、とげが……エーリク、どうした。まあちょっと後で話聞くから待ってて。ちょっとスツール借りるね。蘭、座って」
「入るよ」
「大丈夫?」
後からリヒトが顔をのぞかせている。
「リヒトも、入ってください。エーリクを説得してほしいのです」
「結構ぐっさりいったなあ。でも小さいとげよりはましだね、あれはなかなか大変だ。これはするっと抜けると思う。エーリク、ピンセット持ってる?」
僕はゆらりと立ち上がって、ベットに備え付けられている戸棚から薬箱を取りだした。
「蘭、大丈夫かい。痛い思いしたね、でも、もう安心していいよ、スピカが治してくれる。この中にピンセットがあるから」
「ん、それでは拝借」
「ガーゼとかも色々入ってるから、必要なら使って。その消毒液、セルジュ先輩お手製。こっそり貰ったんだ」
「それなら少しだけつけておこうか。痛かったら言えよ」
「怖いよう」
「大丈夫です、深呼吸して」
「ゆーっくり」
天使たちが手を取って、ぷるぷる震えている蘭を励ましている。紫色の消毒液を染み込ませたガーゼで患部をなでると、ぽろんと涙を一粒こぼした。
「いたーい!!!!えーん、えーん」
「ごめんごめん!もう抜けたから大丈夫だよ!!よしよし。あとはエーリクの絆創膏をもらおう」
「どうぞ。早く治りますように」
「ぺたり」
「がんばったね、えらかった」
「すごい!蘭、強い強い」
「怖かった……でも、スピカ、ありがとう。もう痛くない!エーリクの薬箱、すごいね、助かったよ」
「その絆創膏、お母様がいつも持ち歩いてるすぐ傷がなおる絆創膏だから、あっというまによくなるよ。大切な仲間が痛い思いをした時につかいなさいっていわれていたものなんだ」
「エーリクのお母様とはなかなか時間が合わなくて、結局まだ直接お話できてないな」
「実は……まあそれも、いずれ話す時が来るから待っていてくれる?」
「なにか事情がありそうだ。深くは詮索しないよ。さて……それでエーリクはどうしたの」
「いや、なんて言うか、学級委員長には言い出しづらいな」
「それ以前に親友だろ」
「うん……でも、やっぱり頑張ることにするよ。さ、ぱぱっと顔洗ったりしておいで、ロロ、リュリュ」
ふたりが身支度洗面台であれこれして姿を整える。お互いローブのしわを伸ばしあって、大丈夫です!と元気よく告げた。
「行こう、みんな。朝ごはん、なんだろう」
「蘭のすごい情報網によると、デザートにわらび餅が出るらしいよ」
「美味しいよね、わらび餅……配膳台のあたり、また混雑しそう……」
「メインは鯖の竜田揚げのねぎソース、五穀米……春雨とたまごのスウプ。和食によってるみたい、です。とげは痛かったし災難でした。けれど、ごはん、蘭の好きそうなものが、たくさん並ぶから、よかったです!」
ロロが眩しく笑う。この子は、本当に愛らしく笑う。花のつぼみがふわりとほころぶような微笑みだ。
「やあ、おはよう、僕よりほんのちょっとだけちびっこたち」
「セルジュ先輩!おはようございます!」
階段付近で声をかけられた。たん、たんと軽やかにおりてくるセルジュ先輩を囲んだ。
「はぁ、寝坊しかけて久々にどたばたした。僕には起こしてくれる人がいないからなあ。ぼく、そういう自分一人のために使う魔法がすごく苦手なんだ。つかれたな。誰か、ちょっと手をとってくれると助かる」
「じゃあ、おれが」
「左手はぼくが、」
「スピカ、リヒト、ありがとう」
「ヴィス水飲みますか?」
「うん、ひと口欲しい」
「ピーコックブルーのリボンが、台無し。結び直しますね」
「僕の面倒を見てくれたから、わらび餅とかどっさり持ってくるし、まかせてよ。争いたくないだろう」
「こわい」
「お願いします、体の小さな僕たちじゃ、せり負けてしまう」
「歌いながら、かかとを踏み鳴らすの、あれかっこいいですよね。ぼくでもできるようになるかな」
「あんなの、簡単だよ。たたんたとったたたん、たんたんた、たたんたたたんったった、で、わらび餅喚べるよ。杖を出すのが面倒だったり、両手がふさがってる時に便利な小技」
天才の言うことはよく分からない。
「うーん、いいにおい。朝から鯖の竜田揚げなんて最高じゃん」
「いっぱい喚んでください」
「僕、素揚げの根菜類が楽しみで」
「エーリク、渋いなあ」
「そ、そうですか?」
「どんどんもってくるね。席取りをおねがい」
「おーい、ちびっこたち、おはよう!」
「おはよう!!」
ノエル先輩のよく通るバリトンボイスと、サミュエル先輩の澄んだボーイソプラノが響き渡る。
「ここら辺一帯キープしておくからあとはセルジュ、任せた。天使たちにレモン水をおねがいしようかな、エーリク、座って」
「おはようございます。いるだけで役目、はたせますか」
「うん、この辺はだめかーって去っていくからね」
「みんな、トーションは忘れず持ってきてる?」
「ばっちりです。ほら、ポケットの中に」
「うん、エーリク、優秀!」
「僕も持ってきてるよ!」
「サミュエルも、えらい!」
「混雑してるね、今朝も。朝はとくにお腹がすいているからみんな必死なんだ。それではみなさんご清聴」
セルジュ先輩が歌いながら踵を鳴らす。聞いたことの無い言語の、不思議な歌だ。それとはまた別のリズムでかかとで床を軽く蹴る。すると、お皿がとんできてはテーブルに着地する。
「なんだなんだ、あの二年生」
「避けろよー!危ないから!!」
そんなことを言いながらびゅんびゅんすごいスピードで魔法を繰り出す。
「レモン水持ってきました……わー、今日もセルジュ先輩はすごいなあ」
「天使たち、お疲れ様。座りなよ」
「セルジュ、ありがとうな。オーダー取る子とお皿をはこんでくる子の手間が省けていいよね、でもスピードには気をつけて。サミュエルと同じものを感じる。暴走させないようにね。あ、あとひとりみんなに紹介したいやつがいるんだ。いまここに喚んでもいい?」
「はい!いいよね、みんな!」
「勿論!!」
「うん!三年生ですか?」
「そうだよ。スピカにゆかりのある人物なんだけど、まあ、話した方が早いだろう、おいで、悠璃」
ぽん、と流星シトロンの栓を抜いた時のような音がして、背の高い、ブルネットの青年が現れた。
「びっくりしたじゃないか!!なにごとだよノエル!……ああ!!!!あああああああ!!!!!!」
悠璃という名の三年生が、スピカの姿を見るなり蹲る。ふるふるとかぶりをふり、呻いている。
「ど、どうなさいましたか?」
「尊い......本物のスピカ君だ……ああ、あの、先日は御手紙をありがとうございました……われわれ、【スピカ君によろめき隊!】の活動を公式に認めていただいて、嬉しかったです。ぼくが会長の悠璃です、あの、握手していただいてもよろしいですか」
「あ、はい……どうぞ、とりあえず席につきませんか」
「お優しい……嗚呼……」
「よろしければおれのむかいの席にどうぞ。大丈夫ですよ、そんな大した者ではないので……」
悠璃先輩が涙を流している。よほど嬉しかったのだなあと思いながら眺めていると、ぼろぼろと、とまらない涙をローブの袖で拭っている。
「とんでもないことでございます!!こうして共にお食事がとれるなんて、信じられない」
「ハンカチをどうぞ」
「麗しい……!!ありがとうございます……」
もうスピカの所作一つ一つが煌めいて見えるようだ。ふらふらと席に着く。
「ほらー、こうなっちゃうからスピカにひきあわせるの、やめようって言ったよね、僕は」
「いいじゃないか、憧れの子にあえてこんなに喜んで」
「レモン水をどうぞ」
「ありがとうございます!かわいい!」
「ロロといいます、よろしくお願いします」
「天使みたいだろ、はい!みんなご飯食べながら自己紹介」
皆挨拶を交わし合った。悠璃先輩はとても穏やかで優しい方で、話していくうちに緊張も解れてきたようだ。
「スピカ君、本当に綺麗にご飯を召し上がりますね。ぼく、ずっとずっとスピカ君とお話したかったんです。遠くから眺めるだけの、果てしなく遠い憧れの存在でした。積み上げた会報を落としたのを偶然ノエルに見られて、友達だからよかったら会わせてやろうかって、そんなわけで……スピカ君、物腰の柔らかい本当に素敵な方です、ぼくは本当に感激していて……」
「悠璃先輩も優しくて、素敵な方ですよ。お手紙書いてよかったです」
スピカがにこにこしながら悠璃先輩を褒めた、すると、悠璃先輩はまたぼろぼろと泣きだした。
「本当に……ありがとうございます……つやつやの砂色の髪、こうして近くで見るとますます素敵です。今日のこと、会報に書いてもいいですか?」
「と、いうか……せっかく出会えたんだし、友達になればいいよ。友達目線なら、もっともっとすてきなところ、たくさんみつけられるよ」
「ええっ、そんな、畏れ多い……」
「友達になりましょう、おれからのおねがいです」
「スピカ君……!!」
スピカが差し出した手を、悠璃先輩がぎゅっと握った。
「うれしい。幸せです」
「仲良くしてやってください」
「こちらこそ、よろしくお願い致します!」
「ここにいるメンバーはみんなとてもいいこだよ。わかるだろ?」
「悠璃もデイルームに来たらいいよ、みんなでお茶飲もう!美味しいものがたっぷりある。運が良ければオールドミスのいちごのショートケーキとか、タルトタタンとか食べられるよ」
「仲間にいれてくれるの?」
「もちろんですよ、いっぱいお話しましょう」
「なんて、お優しい……」
「そういえば悠璃先輩ももしかして東の国にルーツがあるのですか?お名前が気になっていました」
「あ、はい!蘭くんも、東の国の方……」
「そうなんです。今日の朝ごはん、すっごく美味しい。僕のうちのごはんがこんなかんじで」
「和食最高ですよね、勿論、洋食も美味しいけれど、実家のことを思い出してしみじみするというか」
「わかります、ほっとしますよね」
「いいね、友情!ってかんじで。さて、わらび餅を喚ぶよー」
「わーい!!!!」
ぷるりぷるりと、大皿に異常な量のわらび餅が現れた。
「すごい、セルジュくん」
「天才だからな」
「任せてよ」
「スピカ君、普段はちょっと猫背気味なのに、ご飯を食べる時、ぴんと真っ直ぐに姿勢を正すの、かっこいいですよね、ギャップがあるというか、本当に美しい」
「こんなに褒められちゃっていいのかなあ」
「いいのです、スピカ君ははてしなく瑰麗です。スピカ君によろめき隊!で、スピカ君のどこがいちばん素敵だと思うかというアンケートを取ったんです。そうしたら、食事を取っている時、が、見事一位に輝きました。ちなみに二位は、にわとりのせわをしているときです」
「なんだか照れちゃうな……でも、今日からは友達ですので、あまり崇め奉らないで、自然体で接していただけると嬉しいです。仲良くしましょう」
スピカが大きくて忌まわしいママスプーンで、小皿にわらび餅を盛り付けると、悠璃先輩に渡した。
「どうぞ、召し上がってください」
「あっ、わぁ、ひゃあ、ふわぁ、えっ、」
「大丈夫だよ、悠璃。リラックス、リラックス」
「ありがとうございます……」
「だんだん仲良くなりましょう。今日授業を終えたら、皆でデイルームに集いませんか。悠璃先輩、勿論いらっしゃいますよね」
スピカが悪戯っぽく笑って両腕を悠璃先輩に向かって差し伸べた。
「手を繋ぎましょう」
「わ、え、う、ひぇ」
ぎゅっとスピカが悠璃先輩の手を捉えた。
「先輩に対して失礼かもしれないのですが、とても可愛らしい方ですね、悠璃先輩」
「そんな、スピカ君こそ、優しくて、かっこよくて、凛々しくて」
「楽しみだな、今日の放課後」
ノエル先輩が大量にわらび餅をよそいながら、にやりと笑っている。
「苦手な飛行術の授業があるけど、僕頑張る」
「悠璃先輩、紅茶飲めますか?おれと、アナスタシアっていう紅茶を飲みませんか」
「あっ、その情報も、実は掴んでいたんです。ぼくは、アールグレイが大好きなので、間違いなく美味しいと思います。楽しみにしています」
「敬語、使わなくていいですよ」
「えっ、そんな、とんでもない」
「まあ、憧れの人にようやく逢えたんだもの、あがっちゃうよね」
サミュエル先輩が悠璃先輩の顔をのぞきこんで微笑んだ。ブルネットの髪をくるくると弄んでいる。
「ふふ、悠璃、かわいい」
「からかうなよ、サミュエル」
「さーて、空いたお皿さげちゃおうかな!」
セルジュ先輩の魔法が炸裂する。ものすごい勢いで積み上がったお皿を返却口に飛ばしている。
「手加減しろよ」
「わかってるって!これでも一応気をつけてるの!暴走するの、これどうにかならないかなあ」
「わかる、僕もすごいスピード出ちゃう」
「サミュエル先輩もかー、これ由々しき悩みだよね」
「ぼくは、ふわふわしちゃいます。ふわふわゆらゆらしちゃうんです」
「かわいいなあ。まだ杖もらって一年目だもんね」
そんなかんじではなしをしていたら、食堂が閉まるメロディーが流れた。気づくと食堂はがらがらで、ノエル先輩が慌てて立ち上がった。
「遅刻する!とりあえずここで解散しよう。お昼、一緒に食べたいね」
「ぜひ!先輩方、また後ほど」
「一年生の教室に飛ばしてやる。みんな、手を繋いで!」
ノエル先輩が杖を取りだし、僕の肩をとんとんたたいた。体が浮かぶ。チョコレートボンボンを噛み潰すほどの一瞬で、もうそれぞれ、机にすわっていた。
「あー、こんなに星屑撒き散らしちゃった。掃除が大変だなあ」
真後ろの席のリヒトが呑気に呟いた。右斜め後ろの蘭がちいさくわらうのが、きこえた。

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