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エーリクの実家の秘密とアストロフィライト寮の蘭

今日も全ての授業を終えて、僕たちはいつものメンバーで、デイルームに集っていた。秋は、ぐいぐいと毎日ごとに冬の気配を連れてくる。そして今日、無事、リュリュをノエル先輩に紹介することが出来て、本当に、本当に良かった。
「ようやくだね、こうして仲間になるのは。たっぷり時間をとって歓迎会、やろうな!リュリュ、乾杯!」
ノエル先輩はなみなみと注がれたメロン曹達をかちん、と、リュリュのフラペチーノに重ねた。
「これからいよいよ寮生っていう事で、仲間だ。仲良くしてやってね」
「こちらこそ、お話は色々伺っております。よろしくお願い致します」
「おいおい、一体誰が何を話したんだ」
「お菓子作りがお上手だとか、とっても頼りになるとか……」
「頼ってもらえるのは心地いいね、俺に出来ることがあったらなんでも言ってくれよな」
仲睦まじく会話をしているみんなの話を聞きながら、ちょっぴりはちみつを多めに作ってもらったあたたかいティー・ラテをゆっくり飲みくだす。ぼーっとしていたら、ノエル先輩におでこをつっつかれた。
「エーリクは何か悩んでる様子だね」
僕は顔に現れるタイプなのだろうか。ばれてしまったか、と、ちょっと照れながら、懐中から羊皮紙を取りだした。
「実家から電報がきたんです。越冬させたい草花が幾つかあるって……プランターとかハーブとか、良い土が貰えるから、それが報酬になっちゃうんですけど、僕のうちに来て一時間ほど土いじりをお願いできないかなって……もちろん断ってくれて構わないお願いです」
数日前、チョコレートリリー寮109号室にママ・スノウが持ってきてくださったお父様からの電報。今年の年末年始は帰ってこないのかい、という内容だった。お父様は僕がチョコレートリリー寮のみんなと仲良くやっているということを知っていて、無理に帰省はしなくていいという旨、そして追伸として、でもそれならば、友達を誘って半日くらい、家に遊びにこないか、と結ばれていた。
「エーリクのお家?!わあ、ぼく行ってみたい!!」
リヒトが僕の手を取ってぎゅっと握る。ぽかぽかと暖かな小さな手のひらだ。僕は頷くと、デイルームを見渡した。
「協力してくれるひと、ほかにいる?」
「勿論だよ、むしろ光栄だな、お声がけいただけるなんて」
「わあ、ちょっと……と、いうか、あの、かなり緊張しますが、楽しみ!」
「リュリュも僕のうち、くる?」
「うん、いいのかな、ちょっと緊張しちゃってる」
「大丈夫だよ。ぜひ、一緒に来て欲しいな。リュリュがいないとどうにもならないよ」
リュリュはダークグレーの瞳を細めた。
「僕を必要としてくれてありがとう。誰かのために力になれるって、素敵な事だね。ついて行かせてくれるかい?」
「当然!!」
「おれもこの眼鏡で害虫を隈無く見つけて駆逐する」
「スピカ、心強いよ!!」
「きまりだね!」
「本当にありがとう、みんな」
「時間や日にちとか、特に決まっていないのかい」
僕はノエル先輩にむかって頷いて、フローライトの杖で父と交信し始めた、直ぐに繋がる。電報なんて打たなくても、こうしていつでも交信できるようになった。杖を頂いたことと、日々それなりに勉強に励んでいる結果が現れてきている。お父様は、正直に言うと魔法が下手だ。だから、こちら側が時の狭間を歪めるしかない。
「エーリクです。お父様、お久しぶりです。電報をありがとうございました。お母様も、お元気でしょうか。魔女を屠って回るお仕事について、魔導図書館で少しだけ、読みました。恐ろしくてとじてしまったのですが、きっと大変だろうと心配していました」
雑音がすごくてどうしようかとおもっていたら、ノエル先輩が僕の肩に手を置いて、ふわりと杖をふった。
「あ、声、とてもよく聞こえるようになった……エーリク、元気そうで何よりだよ。ママも毎晩元気よくほうきに乗って戦いに赴いているよ。えっと、きみが三年生のノエルくんだよね。お話はかねがね。いつも息子がお世話になっております」
「はじめまして。とんでもない事でございます。こちらこそエーリクくんには、いつも楽しいことのおすそ分けをたっぷりと頂いております」
「おれはスピカと言います。本当にエーリクからは、どきどきすることをたくさんおしえてもらってるよね!リヒト」
「うん!!ぼくがリヒトです、はじめまして!」
「ぼ、ぼくは、あの、あ、えっと、その」
「がんばれ!」
「ロ、ロロです!!」
「僕はリュリュと申します、この度、チョコレートリリー寮に入寮した、エーリクとロロの同室のものです」
「みんな、元気いっぱい!!早速だけど、来週の日曜日の昼過ぎに、うちに遊びに来ないかい?エーリクったら、ちっともうちに帰ってこない。きっと、こんなにいろとりどりの素敵な仲間たちに囲まれて、楽しくて仕方がないんだろう。これでわかった。完全に君たちの仕業だね?」
お父様が朗らかに笑った。
「はい、お父様。いまここにいるのは全員僕の大切な親友です!」
「お父様だって」
「どうしよう、緊張するね」
「あはは、土いじりは呼び出す口実だ。良かったらアフタヌーンティーを、鳳!」
「はい、旦那様」
「アフタヌーンティーの支度を。来週の日曜日、午後四時までに机上を整えてくれ。チョコレートリリー寮の皆様がいらっしゃるよ。大切なお客様だ。私の分?ああ、よろしく頼むよ。聞きたい話が沢山あるんだ。あ、キューカンバーのサンドイッチも、エーリクの分だけは、勘弁してやってくれないか、久々の実家だからね。代わりにたまごでも挟んでやって」
「かしこまりました。ご主人様。エーリク坊ちゃん、お久しぶりでございます。何事もなくすごされておりますか、私、鳳は、心配で心配で……相変わらずキューカンバーはお嫌いでございますか」
「鳳!久しぶり。僕はこのとおり元気いっぱい。逢えるのを楽しみにしているね。キューカンバーは大嫌い。レシャとファルリテも元気?」
「はい!元気にお勤めを果たしております。すぐそこにおりますよ」
「わああ!坊ちゃんだ!!」
「ご機嫌麗しゅう」
大きな赤のリボンタイを結んだ、ふたりがぱたぱたはしってやってきた。僕は思わず歓声を上げた。
「レシャ!ファルリテ!!元気?お仕事楽しい?」
「はい!!それはそれは……毎日楽しくやっていますよ。ね、レシャ」
「うん!!坊ちゃんがご学友の皆さんと一緒にお顔を見せに来て下さると聞いて……本当に嬉しいです」
ふたりで手を繋いでぴょんぴょん跳ねている。
「はやく君たちふたりにも紹介したいな」
「わぁ、嬉しい!!僕たち、頑張ってお給仕いたしますね」
「ふたりも僕らと一緒にお茶を飲もうよ。鳳も」
「お言葉だけで充分でございます」
「鳳、だらけていいと思うよ、たまには」
「まあまあ、エーリク。鳳は、適度に仕事がないとかえって困っちゃうんだと思うよ……レシャとファルリテの席は用意するね。話したいこと、沢山あると思うし。鳳、そんな感じでよろしく頼むよ」
「来週の日曜日を楽しみにしております!」
「坊ちゃんも皆様もどうぞお気をつけて」
「すごくたのしみだよ!!どきどきしてる。沢山お話したいな……名残惜しいけど、すぐに会えるね、ふふ。ばいばい!」
ぷつんと通信が途切れて、光のつぷがぱらぱらと散った。
「えっ、えーっ……」
「どこから感想を述べたらいい?」
「びっくりした」
「エーリク、王子様なの?」
「いや、いや……そんなことはぜんぜんなくて、えっと、少しだけ大仰な家というか、来るの嫌になったらそれでもいいよ」
「そんなことない!素敵な世界に触れられそう」
リヒトが立ち上がって、くるりくるりと回転する。
「どんな格好で行ったらいいかな。このローブじゃだめだよね」
「いや、むしろ飛行訓練の時のスウェットできてくれてかまわないくらいだよ。ラフでいい!」
「ぼく、どうしよう。ブラウスと、ハーフパンツくらいしかもってない」
「わかった!!じゃあみんな学院生らしく制服で行こう。そして、おうちでスウェットに着替えさせてもらおうか。ローブでのアフタヌーンティー、素敵なんじゃないかな」
ノエル先輩が話をまとめてくださった。
「それでいきましょう!お父様……いえ、父は僕の知る限り小難しいことを言ったりしたことはないし、とにかくのびのびと僕を育ててくれたから、大丈夫です!」
「エーリクを見ていればわかるな、なんか、その感じ」
「ありがとうございます、ノエル先輩。僕はずっと父と土弄りをして育ちました。そのおかげで、空はなかなか飛べないけど、座学だけは最近何とかなりつつあります」
「よかったね、才能が花開いてきたってわけだ。元々俺はエーリクのこと、ものすごく伸びしろのある子だなあって思ってたよ」
「本当ですか……?」
「うん、嘘ついてどうなるのさ」
「ありがとう、ございます……」
瞳がうるんできた、もっと勉強、頑張らなきゃ。実技がダメな分、ほかのことでとりもどさないといけない。
「……あ、もうすぐ夕ご飯だな、たまには歩いて食堂へ向かおうか」
僕たちは行儀よく左側の通路を歩いた。きょうは、カレーだ!!香りでわかる。
「やったー!!!!やったやったやったー!!!!」
リヒトが大はしゃぎだ。ロロとリュリュは、えい、えい、おー!と小さな拳を天に向けた。
「ピクルスはスピカにまかせる。あれだけはどうにもならない……」
「あっ、ノエル先輩!そんな約束もしていましたね!任せてください!!カレー、楽しみだなあ」
今日はちらちらと、おそらく別の寮からカレーを狙いにやってきた寮生がいる。視界の端に、どうしたらいいのかおろおろしていた少年がいたので声をかけた。
「やあ、ここにくるのは、はじめてかい?」
「あっ!!はじめまして!そ、そうなんです、カレーのよいかおりにふわっふわと鼻を擽らせながらやってきました。僕はチョコレートリリー寮の隣のアストロフィライト寮にすんでいる、蘭といいます。どうぞ、宜しくお願いします」
「そんなに固くなることないよ、赤い天鵞絨のリボンタイ、僕らとお揃いだから一年生だよね」
みんな、ひとしきりにこにこと自己紹介を終えると、リヒトが早速、蘭の腕を取る。
「出会いに感謝!声掛けて、よかった。一緒に美味しいカレー食べよう」
「う、うん!!僕も、思い切って来てよかった。やさしいね、きみは……」
「リヒトでいいよ。宜しくね」
リヒトは人懐っこいというか、人の心を開くのがとても上手だ。席についてレモン水をついでいたら、蘭がびっくりしたように呟いた。
「アストロフィライト寮の食堂の机上には、レモン水が置いていないんです。そのかわり、ドリンクバーがあるんですよ」
「わぁ!!すてき!!僕らもこんど、アストロフィライト寮の学食、食べに行ってもいい?」
「もちろん!案内するからいつでも声をかけて!」
僕たちは胸元から杖を取り出して、とんとんと軽くぶつけ合い、連絡先を交換した。便利な世の中になったものだ。
「俺オレンジジュースとメロン曹達ばっかり沢山飲んでしまうかも」
そのノエル先輩の軽やかな言葉で、いっきに緊張がゆるんで、僕たちはやや静かな声で笑いを交わしあった。
「わぁ、今日はキーマカレーらしいですね!」
「ほんとうだ、おいしそうだな!!サフランライスが盛られている!!」
「蘭、ここで待っていたら給食当番の子達がオーダー……多めとか、少なめとか、嫌いな野菜とかそういうのを尋ねに回ってきて、配膳もしてくれるから、俺たちはここでぼんやりしててもいいって訳」
「成程、すごいなあ、チョコレートリリー寮……僕たちは、めいめい、自分でよそいに行かないとだめなんです。先輩たちが沢山めしあがるので、僕は満足に給食を食べられたことがないんです」
「じゃあ、おなかいっぱい食べなよ。本当に美味しいよ」
「そうします!楽しみだなあ」
その時、ものすごく背の高い、淡いブルーの髪の上級生がそっと跪いてメモ帳を取りだした。タイの色は鮮やかなピーコックブルー。二年生だ。
「お話しているところ、おじゃましてごめんなさい。オーダーを取りにまいりました」
「ありがとう。じゃあ遠慮なく注文しよう。俺は特盛で」
「ぼくも、特盛で、えっと、よろしくおねがいします!」
「ぼくもー!!」
「僕も特盛でお願いできますか」
「蘭、やるなあ」
ノエル先輩が目をぱちぱちと瞳を輝かせた。
「僕は普通でお願いします、あまり多いと残してしまうので」
「おかわりに行くのが面倒なのでおれは大盛りで……リュリュはどうする?」
どうしようと迷っている様子のリュリュに、スピカが優しく語り掛けている。
「僕、こういう食堂に来たことがなくて。では……とりあえずサフランライスは少なめで、ルウ多めでお願いできますか」
「はーい!それではお待ちください。直ぐにお持ちします」
そう言いながら飲み干してしまった洋盃に、レモン水を注いでくださった。彼が去った後、ノエル先輩が声を潜めて呟いた。
「あの二年生、有名人だぜ。君たちはまだ知らないかもしれないけれど。飛び級で大学院生になるらしい」
「柔らかい物腰の方ですね」
「瞳がきらきらしてた」
「この学院優秀な方が多すぎる」
「はーい!おまたせしました」
トレイを両手に持って二年生がやってきた。すごいバランス感覚だ。
「ごめんね、両手がふさがってるから各々受け取って欲しい」
「ああっ、ごめんなさい!」
ロロがぺこりと頭を下げた。小さな手で大きなお皿を受け取る。
「ノエル先輩、どうぞ」
「お、ありがとう。ロロはやさしいなあ」
「ぼく、配ります。このくらいのことは、できます!」
ロロが、随分しっかりした手つきで四皿分しっかりと配膳した。
「あと二皿、少しお待ちください」
ひらりと一礼して、軽やかな足取りで配膳台にもどった二年生に僕らは呆然としてしまった。あの様子なら、高級レストランで給仕が出来そうだ。
「おまたせしてごめんなさい。ピクルスもジャーによそってきたので、この小さいトングで取り分けてお召し上がりください」
別の寮生がテーブルにピクルスを配って回っている。
「やった!好き勝手にピクルスがたべられるだなんて、なんて幸せなことだろう。ノエル先輩、地獄を回避出来ましたね……」
「本当に助かったよ」
「はい、お待たせ致しました。これ、きみが食べるんですか?!」
「ふぁ、うぅう、そ、そうなんです、ぼく、とてもおなかがすいていて……」
また意外がられているロロをみつめて、とんとん背中を叩いた
「あはは、おかわりもありますので遠慮なさらず沢山召し上がれ。それでは僕はここで失礼します」
「ありがとうございます……!!」
ロロがぺこりと頭を下げた。僕らもそれに倣って頭を下げる。
「さあ、いただきます、しましょう!」
「いただきます!!」
キーマカレーを銀匙ですくって一生懸命たべはじめる。ロロが早い。キーマカレーは飲み物なのか……
「ぜんぜん、余裕です。おかわりをいただいてきます」
配膳台へ向かうロロを見て、リヒトも席を立った。
「僕もおかわりもらってくるね」
「二人とも、溌剌としていて素敵だね!」
ノエル先輩がそう言って空中に円を沢山描き出した。するときらきらと光の粒子を引き連れて、カレー皿とスプーンを持ったサミュエル先輩が現われる。僕らは椅子を譲り合い、席を作った。
「こんにちは!ありがとう、ちびっこたち。ノエル、いきなり召喚するから驚いたじゃないか。皿を落としかけた」
「あはは、ごめん。今日はみんなで給食、どうかなって思ってさ」
「あ、初めましての子がいる」
「蘭ともうします。アストロフィライト寮から、良い香りに誘われてやってきました。改めまして、皆さんはじめまして」
にこっと笑う。なんとなく、ロロと近いものを感じる。上手く言い表せないけれど、なんだか、笑顔で許されちゃう感じというか、天性のものなのだろうか……
「いいこだなあ。僕はサミュエル。よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします!これからも、度々ここへ出現すると思いますので、顔を覚えてくださると嬉しいです」
「忘れられないよなあ、この笑顔……」
スピカがレモン水を継ぎ足して回りながら言う。全く、同感だ。
「わーい!たくさんよそってきちゃった!」
「ぼくもです……みてください!」
リヒトとロロのお皿には、溢れんばかりのキーマカレーが乗っかっていた。僕はぎょっとして、席に着いた二人に尋ねる。
「だ、大丈夫なの?この量」
「はい!たくさんたべて、すくすくそだつのです。目指すは長兄のミケシュ!」
「おいしいんだもん。あ、蘭、おかわりする?」
「はい!チョコレートリリー寮のご飯、本当に、美味しい。そうしようかな……」
「遠慮することないからね、いっぱい食べよう」
サミュエル先輩が席に着いたまま、不思議なリズムで踵を鳴らした。すると、新しいお皿がふわりとやってきて、蘭の目の前に降り立った。
「わ!!すごい!!」
「びっくりするよね、先輩たちさすがだなあって思う瞬間」
「蘭ははじめましてだから特別!」
「やった!!ありがとうございます!」
リヒトとロロは猛然とキーマカレーを食べている。僕はなんだか、見ているだけでお腹がいっぱいになってしまった。スピカは今日も背筋を真っ直ぐに伸ばし、ひらりひらりとシルバーを扱っている。
リュリュはもうカレーを食べ終えて、ピクルスを食べだした。
「リュリュ、僕にもピクルスちょうだい」
「うん!どれがいい?」
「にんじんと、カリフラワーがいいな」
「はーい!」
小さなトングでいくつか小皿に乗せてくれた。
「美味しそうだね。ありがとう。みんなにも配ってあげなよ。ノエル先輩はピクルスが嫌いだそうだから、その分リュリュのご褒美にしちゃえ」
テーブルの隅に積み上げてあった小皿を取り、均等にピクルスを並べ始める。
「皆さん、どうぞ」
「わあ、美味しそう!!」
蘭がありがとうと言ってお皿を受け取る。
「こんなに美味しいものを毎日三食食べられるなんて、チョコレートリリー寮はいいところだなあ」
「毎食来ちゃえば?ここ、チョコレートリリー寮生以外の人達たくさん出入りしているの、見かけるし」
「ええっ、いいの?」
「いいんじゃないかな、アストロフィライト寮で蘭が食べる分も、食欲旺盛な先輩たちが食べちゃうと思うもん。お腹空かせるの嫌でしょ?……というか、蘭は一年生だから、授業中もきっとどこかですれ違っていたよね。宜しくね、仲良くなりたいな」
「ぜひ!えっと……きみは」
「エーリク」
「わかった。エーリク。僕、毎日給食を食べにここへ来るよ」
「お!!また新しい仲間が増えたな!」
「本当に。よかったね」
先輩方がまぶしくわらう。ノエル先輩とサミュエル先輩は、素敵な関係だなぁとにんまりしていると、黙々とキーマカレーを食べていたスピカがシルバーをお皿にかたん、と置いた。手を合わせている。
「ごちそうさまでした」
「スピカは優雅だね、一つ一つの所作が」
蘭がうっとりとした声色でいう。本当にその通りだ。
「やっぱりそう思う?かっこいいよね」
「初めて一緒に食事をとったけど、すごく華があるというか」
「照れるからやめてくれ、大したことないさ」
「ほんとうに、すばらしいことです。ぼくは、上手にご飯が食べられないので、スピカに憧れています……」
「その、綺麗に食事ができるって、大人になってから絶対役立つと思う。これからもスピカの動きに見とれたいものだよ」
「ノエル先輩!ぼくはどうですか?」
「リヒトはもう少し頑張ろうか。和食を上手く食べられるようになったら……ご褒美をあげようかな、考えておく」
「やった!!それならがんばって、上手にお魚の骨とか皮を取れるように練習します!」
「蘭、ノエル先輩はお料理がとてもお上手なんだよ。お菓子なんか、もう絶品」
僕が耳打ちすると、テーブルの下で優しく手を握ってきた。
「すごい!お菓子なんて……僕が作ろうとしたら、事故を起こすと思う」
「なにをこそこそはなしてるの?!」
リヒトがいきなり脇腹をくすぐってきたので、僕は悲鳴をあげて身じろぎした。蘭にそっと体重を預ける。笑い声を上げて、小さなてのひらで、僕の手を強く握ってくれた。
「さてと、みんな食事を済ませたようだから、片付けてしまうね」
サミュエル先輩が腕を一振りすると、瞬く間にお皿が重なり、返却口へすっ飛んでいった。
「つい先日ノエル先輩も、こうして片付けてくださいましたよね!ありがとうございます!」
「ふう、誰にもぶつからなくてよかった」
「本当にそれだよ、サミュエルの魔法、スピードがすごいから、きをつけて」
「なぜか暴走するんだよね、なんでだと思う?」
「潜在能力がすごいとか……今度個人面談があるから聞いてみたら?」
そんな話をしていたら、食堂を閉めることを報せるチャイムがなった。
「さあ、それじゃ、デイルームにでも移動する?蘭もおいでよ」
「良いのですか?」
「もちろん!門限に間に合えば大丈夫だよね」
「サミュエルも今日は勉強とかいってないでつきあえよ」
「はいはい。みんなでお話するのも素敵な事だよね」
益々増える、素敵な仲間たち。これからどんどん寒くなるけれど、心はぽかぽかだなあとそっと胸に手を当てた。

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