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ギフト①【チョコレートリリー寮の少年たち】

ロロとリュリュが眠った夜中、僕は空中にミルヒシュトラーセ家の家紋をフローライトの杖で描いた。23時、ぎりぎり鳳が対応してくれるはずだ。
ふわりふわりとしながら暫く待っていると、優しいバリトンボイスが、やわらかく鼓膜を揺さぶった。
「エーリク坊ちゃん、こんばんは。如何されましたか?」
「鳳、今日も遅くまでお疲れ様。えっとね、大したことじゃないんだけど、僕、チョコレートリリー寮のみんなと物語喫茶レグルスっていう所で、アルバイトをはじめたんだ」
「アルバイトですって?!」
まずい、この反応はこれまでの経験だと、なりませんと叱ってくるはずだ。
「うん……落ち着いて聞いてほしい。仕送りが足りないとか、お腹をすかせているとか、そういうことじゃないの、心配しないで」
「エーリク坊ちゃん……本当に、大人になられましたね……」
鳳が、声を少し震わせながら顔を覆った。意外な反応にきょとんとしてしまった。
「叱らないの?」
「とんでもない事でございます。素晴らしいではないですか、但し、火傷や刃物の取扱には充分お気をつけください。幼少の砌、庭園の白薔薇を摘もうとされて、怪我をなさったことがありました。覚えていらっしゃいますか、あの時のようなうっかりはしないと、鳳と約束をして下さいませ」
「うん!約束!それに、そんなに難しい事をしている訳じゃなくて、えっとね、ようこそ!物語喫茶レグルスへ!ってお客様を迎え入れたり、レモン水をついで回ったり、オーダーをとってごはん運んだりそんな感じの軽作業なんだけど」
「立派なお仕事ではないですか」
「エーリク!!こんばんは!!」
「旦那様!いつの間に。すっかりお休みになったとばかり」
「なんだか空間がねじ曲がる気配がしたから起きてきた。ママはさっきお勤めを果たしに飛んで行ったよ」
「こんばんは、お父様。お母様の声も聞きたかったな。よろしく伝えてください。あの、今鳳に話していたところなんですが、お父様、きいてください。僕アルバイトを始めたんです」
「ええっ?!アルバイト?凄いじゃないか!エーリク、私たちの手を離れてから、すごい勢いで成長しているね。嬉しいし、本当に誇らしい気持ちでいっぱいだよ。寮へ入れると言った時は、鳳が散々反対して、毎日私が車を出すって……説得するの本当に大変だった。結果オーライ」
僕はほっと胸をなでおろした。お父様の肩からずり落ちかけたふわふわなガウンを、鳳が整えている。
お父様は、僕が挑戦したいと思うことはなんでもやってごらん、と言って育ててくださったので、僕はのびのびと、ここまで歳を重ねることができた。そのおかげで誰も伴わず勝手に庭園へ遊びに出て、流血沙汰になったわけだけど。
「しかし、旦那様、エーリク坊ちゃんが怪我でもされたらと、私は少々不安で……」
「本当に鳳はエーリクに対して過保護だなあ。なんの問題もないよ。社会に積極的に貢献してるじゃないか、すごいことだよ」
「うん、それから、レシャとファルリテなんだけど……」
「坊ちゃん!!」
「坊ちゃんー!!!!」
レシャとファルリテがおそろいのナイティを捲りあげながら部屋から出てきた。お父様でも感じるくらい空間をねじまげたから、ふたりが気づかないはずがなかった。話の内容も筒抜けだったんだろう、ぱたぱたと、二階の階段を駆け下りてくる。
「すっ飛んできました!」
「坊ちゃん、すごい!!」
「僕、初めてのお給料で、お父様にアスコットタイと、鳳にクロスタイ、お母様に魔除けのブローチを買って送ったのです。明日までに届きます。本当はサプライズプレゼントにしようかなって思ったのですが、みんな知ってのとおり、僕は隠し事が苦手で。ごめんなさい」
「感無量でございます……!」
鳳がことばにつまりながら、ありがとうございますと腰を折り、涙で霞む声を絞り出した。
「人生で初めて自分の力で労働していただいたお給料は、ミルヒシュトラーセ家のみんなに何か、プレゼントをしようと決めてたんだ。みんな、僕が小さい頃から沢山世話を焼いてくださった。大切にしてもらってる、今も、もちろん変わらず。お礼には到底及ばないけれど、感謝の気持ちです。受け取ってください」
「信じられない、我が息子が……本当にありがとう」
「涙が堪え、きれません、エーリク坊ちゃん……ありがとうございます……」
「ふふ、成長しちゃいました!」
そこで、と、言葉を選ぶ。なんて言ったら、一番気の利いた言い回しになるだろうか。でも、くよくよ考えるより、直球でいこうと思って口を開いた。
「レシャとファルリテを、邸宅から一日お借りできませんか?」
「えーっ?!」
「どういう事ですか、坊ちゃん!!」
「ふふ、僕たちが住んでるチョコレートリリー寮のそばに、素敵なお店が沢山あって。連れていきたいんだ。夜は、ムーンライトフェスタっていうお祭りが波止場で催される。いつものみんなと一緒に行かない?流星シトロンとか、ベーグルとか、ご馳走するよ。二人は兄弟同然だから、僕の大切な場所、紹介したいんだ」
「うれしい!!!!すごくすごく、うれしいけれど」
「いいのかな、旦那様……外出許可、くださいますか」
「勿論さ!」
お父様が破顔した。レシャとファルリテが肩を組んで、やった!!と喝采をあげている。
「行っておいで。えっと、車で送迎、と思ったけれど、鳳がいなかったら私がお腹ぺこぺこになっちゃう」
「僕たちは魔法でひとっ飛びなので大丈夫です。何か、お土産を買ってきますね」
「楽しみにしているよ!思う存分、暴れておいで」
「レシャ、ファルリテ、一緒に遊ぼうね!」
「嬉しい……坊ちゃん、たのしみにしてます!」
「僕もどきどきしながら待っています」
「明日デイルームでみんなに話してみるね。その時にまた連絡する。とりあえず、おやすみなさい。みんな起こしちゃって、ごめんね」
「いえいえ、お気になさらず!」
「おやすみ、エーリク」
「坊ちゃん、おやすみなさい!!」
「あたたかくして、風邪などひかれませんように……ちゃんとナイティのボタンはかけられていますか。毛布と上掛け布団にしっかりとくるまってお休み下さい」
「鳳!本当に過保護すぎ!!赤ちゃんじゃないんだから」
「私にとってはいつまでも、大切で愛おしい存在なのですよ、エーリク坊ちゃんは」
「あはは、いくつになっても世話を焼いてくれてありがとうね、それじゃ、おやすみ」
ぷつんと交信が途絶えた。僕はベッドに横たわり、明日どんなふうにみんなに声をかけようか、思案しているうちに眠ってしまった。

その翌日、全ての授業を終え、僕たちはデイルームに、いつもと変わらず集っていた。
ロイヤルミルクティーを飲みながら、いつ切り出そうかな、と思っていたら、蘭が僕に視線をなげかけてきた。
「エーリク、もしかしてなにか悩んでること、ある?」
「ううん、悩んでは……いない。でもちょっと、提案があって……えっと……」
「どうしたのですか」
「先日アルバイトのお給料が出たでしょ?実家のみんなに、プレゼントを贈ったの」
「すごい!孝行してる」
「うん、それで……実家のレシャとファルリテなんだけど、二人に宛てる良いプレゼントが思いつかなくて。それで、よかったら二人を引き連れて、みんなで色んなところに遊びに行けたら素敵だなあっておもったんだ」
「良い案だね、俺はのるよ」
「もちろん僕も」
「めちゃくちゃたのしそう!」
「ぼくもなかまにいれて!」
みんながぱちぱちと手を叩く。
「エーリクの発想にすごく愛をかんじ、ます。とっても、すてきです!」
「ここにいるメンバー、みんな来てくれるってことでいい?」
「勿論さ」
「もう楽しみで仕方ない!」
「みんな、ありがとう!!明日と明後日ならば、レグルスの定休日だし、アルバイトもお休み。のんびり遊べるね。ムーンライトフェスタにも行こう!」
「素敵な計画だね。レシャさんとファルリテさんはお酒が飲める歳だから、僕たちより少しだけお兄さんだけど、そんなに歳離れてないもんね、幼少のころのエーリクにまつわる話とか、聞きたいな」
サミュエル先輩がにやにやと笑っている。
「一緒に泥だんごを作ってぴかぴかに磨いて遊んだりしてたエピソードくらいしかないですよ、面白いのは」
「充分興味深い」
「そうですか?」
「もう想像するだけで可愛くて仕方がないじゃないか」
「えへへ。では、今から実家に話を繋げます」
さっとフローライトの杖を取り出し、空中にミルヒシュトラーセ家の家紋を描く。すると、レシャが交信に気づいてくれた。二人とも花瓶を拭いていたクロスを放り出し駆け寄ってきた。
「坊ちゃん!こんにちは!」
「こんにちは!」
「こんにちは、二人ともお疲れ様!遊ぶの、明日か明後日、どうだろうか。みんなの姿、みえる?」
「こんにちはー!!」
ロロとリュリュと蘭が身を乗り出した。
「あっ、チョコレートリリー寮の天使たちだ。こんにちは!先日は邸宅に来てくださって、ありがとうございました!ばっちり、お姿見えます」
「みんなで遊びましょう!」
「明日がいいな、早くおふたりにお会いしたい」
リヒトがローブの袖から、星屑をぱらぱらと零しながら言う。遊ぶことに積極的になるリヒトは無邪気で愛らしい。
「行きたいお店とかありますか?」
「ゆめみたい。えっと、僕たちがマグノリアを卒業してからたくさん新しいお店ができたようですね……だから、おまかせしようと思います」
「ずっと邸宅にいるから、最近のマグノリア近辺のこと、何も知らなくて」
「それならばまかせて。全力で楽しませてあげる。ちゃんと計画たてるよ」
「坊ちゃん、ありがとうございます」
「せっかくの機会だから、ぱーっとはしゃいじゃお!ね!レシャ」
そこへ、スーツに身を包んだ鳳が奥の部屋からやってきて、深々と腰を折る。
「エーリク坊ちゃん、そしてご学友の皆様、こんにちは。この度はレシャとファルリテがお世話になります。どうぞよろしくお願い致します」
「荷物届いた?鳳、お疲れ様。邸宅は鳳がいるから問題ないよね。お父様は?」
「荷物は夜の船便で届くそうです。楽しみでたまりません……旦那様は執務中でございます。今日はレシャとファルリテ特製のモンブランタルトのおかげで、真面目に働いていらっしゃ……」
「エーリク!!!!みんなー!!!!こんにちはー!!!!!!」
鳳の言葉を遮るように扉を音高くあけながらお父様が姿を現した。元気いっぱいな様子に僕は笑ってしまった。
「旦那様!!なりません!!」
鳳が雷を落とした。レシャとファルリテはまあいつもの事だよね、と目配せしあっている。
「もう終わったもん。怒らないでよ。今日中にサインをって言われた書類、ぜんぶやっつけたし、手紙だってすごくたくさん書いた……みんな、遠足楽しんできてねー!!あっ、ついでに紅茶のおかわりを頼むよ、鳳」
「かしこまりました」
「じゃあみんな、お土産話たのしみにしてるね!」
「はい!じゃあ、レシャとファルリテは明日、チョコレートリリー寮に九時待ち合わせで。朝ごはん抜いてきて。いっぱい美味しいもの、ご馳走するから!」
「了解です!」
「はーい!」
「じゃあまた明日。頑張りすぎないようにね」
ぷつりと交信が途切れた。僕は疲れ果ててしまい、ソファにぐったりもたれかかった。
「お疲れ様、エーリク。すごいね、どんどん魔法が上手くなってきている……」
リュリュがティーコジーを持ち上げ、僕の空になったカップにロイヤルミルクティーを注いで労ってくれた。
「ありがとう、リュリュ」
「ところで、レシャさんとファルリテさんは何歳なの?」
「二人とも二十三歳になったばかりだよ。あのふたりにはすごいドラマがあって、小さい頃からミルヒシュトラーセ家で育ったの。邸宅で働いているのは、恩返しなんだって言ってる。関係としては僕の兄みたいなかんじ。その辺色々複雑だから、ふたりが話す気になるまで待ってやってほしい」
「そうなんだ……いろんな事情があるよね、僕もエーリクには以前にすこしだけ話したけど、早くに両親を亡くして身よりもいなくて……孤児院で育った。師匠が養子にと迎え入れてくれて育ててくださったんだ。本当に感謝してる」
「リュリュ、生まれてきてくれてありがとう。そして、出会ってくれてありがとう。だいすき!!」
リヒトがリュリュをぎゅうぎゅう抱きしめている。
「ありがとう……僕もみんなに出会えてよかった。ふふ、リヒト、僕も君のことが大好きだよ」
「この仲間たちならなんでも乗り越えられる気がするよな、無敵だ!!」
「僕もそう思う!」
「ぼくたちに、いい風がふいてきていますよ。やさしい風です。こころが、さらさらと凪いでいます」
「きみはいつも素敵な言い回しをするよね、詩人みたいだ」
蘭がロロのほっぺたにそっと触れながら、にこりとわらった。
「ありがとうございます……蘭のおてて、あたたかくてきもちいいです」
「ロロが可愛すぎる」
「ほんとうに」
「きみたちふたりもだよ!!」
「自覚しようね」
「天使ではないけど、ぼくのこともかわいいってほめてよ!」
「リヒトはとても可愛いよ、おいで」
ノエル先輩が腕を差しのべて、リヒトをそっと膝に乗せた。
「やった、特等席!」
「ノエルは本当にリヒトに甘いよなあ」
「妬くなよ、サミュエル」
「妬くもんか」
「みんな、お膝に乗るのが好きで可愛い」
ロイヤルミルクティーをのみながら、静かに笑った。
「さて……レシャとファルリテ連れてどこへ行こうか、どこか、とっておきの場所などの情報がほしいです。プランを練りましょう。夜のムーンライトフェスタは水上花火が見事なので、連れていきたいなあって思ってて。ベーグルも美味しいし」
「レグルスは定休日だっていってたからだめか……フォーマルハウトプラザ界隈なら俺とサミュエルで案内出来るけど」
「いいですね!じゃあフォーマルハウトプラザを中心に回りますか……僕らはほぼ未踏の地ですが、スピカだけは少しだけわかるそうです」
「……そういえば、セレスティアル舎。夏の間に売っていた氷菓子は冷たいからあれだけれど、みんな、見て」
スピカが折りたたんだフライヤーをチケットケースから取り出した。
「おでん、はじめました……?おでんってなに?」
「おれも知らないんだ。先輩方はご存知ですか?」
「名前を聞いたことはあるけど、食べたことはないな」
「東の国の煮物です、僕の大好物!!実家では、冬になるとぐらぐら大鍋で煮て、家族で食べていた……」
蘭が懐かしそうに目を細めて語る。
「おいしいの?おでん、気になるな」
「とっても美味しいよ、たまごとか大根とか、もう最高だ。すごくあついからやけどに注意なんだけどね」
「セレスティアル舎はアル・スハイル・アル・ワズンの隣だから、寄れるよ。リュリュもリアムさんに顔をみせられるね。おでんをさしいれてあげたら、きっとよろこぶんじゃないかな」
「ありがとう、エーリクは本当に優しいね」
「照れちゃう」
「タピオカミルクティーとか飲みながらぶらぶらするのも楽しそうだな、確か売ってるって話を聞いたことがあるよ」
「売ってます!すごく美味しいですよ!」
「じゃあみんなでおでんを食べに行って、ついでに買おう」
「いいですね!二人とも喜ぶと思います」
「蘭、ちくわぶって何ですか?」
熱心にフライヤーを眺めていたロロがきらきらひかる指先で指し示しながら問う。
「うーん、形容しがたいな、あれは。小麦粉でできた、もちもちした何か……ボリュームがあって、僕はだいすき」
「がんもどきってなあに?」
「ちくわぶとちくわはちがうもの?」
みんな聞いたことも見た事もない未知の食べ物について興味津々だ。蘭は一気に質問されて唸り出した。
「まあ、百聞は一見にしかずです、とにかく出向いて食べるのがいちばん早いと思う」
「うーん、たのしみ……」
「じゃあ、フォーマルハウトプラザ、アル・スハイル・アル・ワズン近辺を中心にまわって、夜はムーンライトフェスタって感じにしようか」
「そうしましょう!」
「嬉しい!!早く明日にならないかなあ」
「ちなみに……あの二人、華奢な体つきをしているけど、ものすごく食べるから、きっとみんなも驚くだろうなあ……邸宅では滅多に出ないジャンクなものとか、たくさん食べさせてあげたいんです。ノエル先輩、サミュエル先輩、詳しいようなのでどうぞよろしくお願いします」
ノエル先輩が手帳を取りだし、早速タイムスケジュールを組み始めた。
「成程。朝食抜いてきてって、エーリクが言っていたよね。それならおなかもぺこぺこだろう……フォーマルハウトプラザからかな……回るルートとしてはそれが一番良さそう。彼処は俺の庭だから、任せて」
「おでんが楽しみすぎてどうしよう。エーリクは何を狙っていますか。ぼくは、ごぼう天が気になります」
ロロがほっぺたをももいろにそめて、僕の手をきゅっと握った。
「僕はちくわぶかなあ、不可思議な食べ物だね」
「でも蘭が美味しいというのであれば、きっと絶品なんでしょう。大根も美味しそう」
「覚悟して。大根は本当に美味しい。感動すると思うよ」
「スピカはたまごでしょ」
「うん、おれたまご大好き。鶏には常々感謝している」
「おでんは、一つ一つの種がちいさいから、一つだけじゃ全然足りないよ。寒いのも相まって、いくつも食べたくなる」
「ますます想像のつかない食べ物だね、おでん……」
「大食らいが沢山いるからルーヴィスや柘榴と木蓮が嬉しい悲鳴をあげるんだろうな」
ルーヴィス先輩は、ノエル先輩の弟さんで、マグノリアの二年生。セレスティアル舎の、アルバイト長というか、実質店長だ。
「ルーヴィス先輩たちにお会いするのもひさしぶりです。うれしいな」
「俺達みんなで爆食いして、セレスティアル舎、即店じまいさせようぜ」
真顔でノエル先輩がそんなことをいうので、僕は吹き出してしまった。
「ところで、フォーマルハウトプラザにはお店がたくさんありますが、何処へつれていってくださるのですか?」
リヒトがノエル先輩の膝の上でにこにこしながら尋ねる。
「それは秘密。明日のお楽しみ」
「例の店だろ、みんな喜ぶだろうなあ」
「うん、あのすっごい店」
「気になる!でも、楽しみはのちのちに取っておきたい。堪えます!!」
「なんだろう。朝ごはん、僕も食べないことにしようっと」
「エーリクは全然食べないから、そのくらいでちょうどいいと思うよ」
「うん!早々におなかいっぱいになったら悲しいもんね。僕、ムーンライトフェスタの、とびきり美味しいベーグル屋さんに行きたい。看板が出てないから、未だに店名がわからない……」
「生ハムとクリームチーズとレタスサンドがおいしいところでしょ。生地がほんのり甘いんだよね」
「そうです!サミュエル先輩、よくご存知ですね。店主の言うことには、メープルシロップを練り込んでいるらしいですよ」
そんな会話をしながら過ごした。愛おしい人達とこうして出かけることができるなんて、僕は本当に幸せものだ。明日が本当に楽しみだなあと思いながら、リヒトがくれたウイスキーボンボンを噛み潰した。

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