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プール注水の止め忘れ (第3回) その水道代、だれが払うべき?

毎年起こるプール注水の止め忘れ(以下、プール溢水といいます)。流出した水の水道代をだれが払うべきでしょうか。体育教師または用務員、個人の責任なのでしょうか。組織として学校、自治体の責任なのでしょうか。その両方なのでしょうか。

 「プール溢水に起因する水道代については、国家賠償法(*1)により国、自治体が原則負担するが、職員への求償権を有する」との論調が多くありますが、これは誤りです(*2)。国家賠償法の対象は「違法に他人に損害を加えたとき」だからです。プール溢水による水道代は自治体に与えた損害です。これを自治体が負担するか、教職員に求償するか、という問題です。

 プール溢水に起因する水道代を教職員に求償する対応は様々です。

 本シリーズの第1回で紹介した江戸川区のケースでは、2回の事故で70㎥+690㎥=760㎥の水が流出しました。水道代は公表されていませんが、江戸川区HPには「今回の損失額については、各学校の校長から自主的に負担する申し出がされている」と掲載されています。(*3)

 2015年に千葉市の小学校で20日間にわたり水が流出し続けたケースは、担当の教員と教頭、校長が申し出て、損害の全額およそ438万円を3分の1ずつ弁償しました。

2023年5月に川崎市で起きた際はプール6杯分、2,200㎥の水が流出し、水道代は190万円にもなりました。川崎市はその半額95万円を担当教員と校長に請求しました。(*4)

水道代の半額を教職員に請求という例が多くありますが、中学校の職員に損害額の8割、約55万円を負担させた例があります(東京地判 平成9年3月13日)。この職員はプールを含む学校施設の管理業務を担当する施設管理員で、注水状況の確認を依頼されたものを失念したためにこのような判決となりました。

教職員への求償を検討する際の考え方
 東京都監査委員の監査結果に、自治体の職員への求償について記載が参考になります。(*5)
使用者は、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し上記損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきであるところ(最高裁昭和51年7月8日第一小法廷判決)、この理は、普通地方公共団体とその職員との関係にも当て嵌まるものと解するのが相当である、とされている(平成25年2月27日大阪高裁判決)。

 公表されていないプール溢水は数多く発生し、水道代を自治体が負担している実態が多いと推測します。水道代が高額になると公表せざるを得ず、教職員に責任がないケースは稀なため、水道代を自治体が全額負担することはしづらくなります。
 プール注水に携わる教職員、その上司、校長、副校長にはプール溢水による水道代を求償されるリスクがあるということです。それなら体育教師になりたくない、プール注水は担当したくない、というのは極端ですが、合理的な対応は「教職員賠償責任保険」に加入するということです。これについては次回でご説明します!

*1 国家賠償法 第一条 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。 全文は → https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000125
*2 和み法律事務所 https://www.nagomilaw.jp/archives/1781/
*3 江戸川区HP https://bit.ly/4dF5MQX
*4 川崎市発表 https://bit.ly/4fKSSTq  
*5 東京都監査委員 監査結果(18頁に上記記載あり)https://www.kansa.metro.tokyo.lg.jp/PDF/08jumin/28jumin/28jumin06.pdf


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