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【帰国】器に惚れた 〜讃岐漆器〜

年を重ねる毎に、順に「花鳥風月」を嗜むようになると

先輩方がよく言っていますが、

その前に器の世界に魅了されています。

学生の頃、日本料理店でアルバイトしていたこともあり、

本物の器とは接する機会がありました。

社会人になり、器よりラジオに夢中になり、

イタリアへ渡り日本の文化を語るにあたり、

徐々に器への関心が高まっています。

今回は、漆の話題です。

香川県庁と高松市役所の間に、

「香川県文化会館」があります。

漆器の展示や販売をしているほか、

展覧会や催しを行なっています。

そして、上部の階では「香川県漆芸研究所」という

後継者育成のための施設となっています。


香川漆芸は、江戸時代に入ってきました。

第一人者である玉楮象谷(たまかじぞうこく)により創始。

香川の三技法と呼ばれる独自の加飾が見どころです。

文化会館の一階では、常に展示を行なっています。

久しぶりに訪れてみました。


入ってすぐ、漆採取に必要な道具や

漆器を作るための小刀などを展示しています。

手前にあるのが漆の木。

傷をつけると、埋めようときて乳白色の樹液が出てきます。

これを集めて精製したものが漆です。

一本の木から年間で200gしか取れないほど、

木の遠くなる作業がここから始まっているようです。


香川の三技法 

蒟醤 きんま

木や竹の素地の上に、漆を塗り重ねる。そこに模様を彫り、色漆を埋める。最後に平らにさせる技法。


存清 ぞんせい

漆を塗った上に、色漆で文様を入れる。輪郭や細部を掘ることで、立体にさせる。

光っている部分の凹凸が見えるでしょうか。


彫漆 ちょうしつ

複数の色漆を何十回もぬり重ね層を作る。それを求めている色まで彫り模様をつける。

光が当たっている部分は、まるで木の年輪のよう。

中学の頃、美術の授業で一人ずつ5cm角の

彫漆用の漆を渡され、それぞれ好きなように彫りました。

この体験は未だに覚えていて、彫りすぎたり、

求めている形にならなかったり、中には折れる子も。

讃岐人らしい、地元に根ざした授業を受けることができ、

誇りに思っています。


展示の中で、気になった作品を紹介します。

まずは、中央に飾られている入れ物。

緻密な細工が施されたトンボは躍動感あります。

四つの側面全てには、重ね合う紅葉の葉。

どこから描き始めたのか、枝が先か、一番下の葉はどれか、

色の塗り方など、素人には難解な技術が使われています。

この考える時間がたまりません。


また、どうしても上部の文様だけを見てしまいがちですが、

下段の足がどのような施しがしてあるかを

見比べるのも密かな面白みがあります。

暗く浮いているような演出をしているものや

開きやすそうな弧を描いたもの、または、

全てが一体化したように見せるものなど、

使う人の動きを計算し、開ける楽しみがあります。

はたまた、利用者は作り手の狙いを慮る粋さを感じます。


そしてもう一つ気になる作品がありました。

きめ細かな文様をじっくりと見てしまいますが、

濃淡の変化にも注目です。

柄毎に変わっているはずなのに、

遠くから見ると滑らかな色の移り変わり。

さらには、中心を避けた濃い部分に遊び心を感じます。

この作品は、最後にもう一度観たいと戻ったほど

惹かれるものがありました。


ここまで立派な作品は持てません。

ですが、庶民でも使いやすい漆器をイタリアで使っています。


それは、塗りのお椀。このような、器です。


木目がしっかり見えるお椀は、素朴で温かみを感じます。

お味噌汁を飲むときは必ずコレ。

イタリアにはまず存在しない塗りのお椀は、

日本から持って来なければまず出会えません。

木の温もりを感じられる器は、国境を問わず

万人に愛されるものではないでしょうか。

手入れが面倒に感じますが、気にせず使っています。

もしくは、丁寧に扱うので、なかなかへこたれないのかもしれません。

このほか、漆のスープ用スプーンや、

お菓子用の小さなスプーンもイタリアで使っています。

ステンレスとは全く違う優しさがあります。


10年前に、日本に住み続けていたら、

これだけの愛情を持っていたかどうか。

離れたからこそ見える故郷への想いかもしれません。

明日はさらに一歩踏み込んだ、焼物の話題を届けます。

久々に胸が高まる世界を見つけてしまいました。

蛸唐津… 可愛くてしかたがないんです。

もうこれは私の「推し」かもしれません。

では、続きはまた明日。

 

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