映画「The walk」を観て

ときどきは普通の映画レビューも。

今はなきニューヨークの貿易センタービルの間にロープを渡し、その間を渡るというゲリラパフォーマンスを行った大道芸人フィリッププティーの自叙伝を映画化した作品。監督はロバートゼメキス。

先行する作品として「マンオンワイヤー」というドキュメンタリーがあって、映画はこのドキュメンタリーの中で語られた内容を割と忠実に取り込み、多少の脚色も加えながら分かりやすい物語としてまとめている印象を受けました。ただね、作品としてのインパクトの面では先のドキュメンタリーの方に軍配があがってしまうかなぁ。身も蓋もなく言えば「本人の実際の映像」の前では作り物はどうしたって霞んでしまうということですが。

ただ作り物だからこそ味わうことができる部分も確かにあるわけで。

僕がドキュメンタリーを見たときに一番ぐっと来たのは、綱渡りを制止するために屋上に駆けつけた警官の言葉です。

冷静に考えれば、まあとんでもない話ですからね。建築中のビルに不法侵入して勝手にロープを張ってその上を渡るなんて、本人の命の危険はもちろん、周囲の人や建物に危害を及ぼす恐れもあるわけで、アイスのケースに入った学生がかわいらしく思えるくらいの大炎上事案です。人に迷惑をかけて成立する行為を芸術と呼ぶことに多くの人は抵抗を持つでしょうし、そこに駆けつけた警官だって同じように考えていたでしょう。でもその警官は目の前の光景に言葉を無くしてしまうんです。後のインタビューで彼は

「こんな光景はもう二度と見られない思った」

と語ります。「よい」とか「わるい」とかいう社会通念を越えて人の気持ちが揺さぶられる瞬間。ここになんとも言えず心がざわざわしてしまうのです。

映画がドキュメンタリーを越えられるすれば、この警官と同じ感情を観客に疑似体験させることができるかどうかにかかっていると思っていました。要はそれまで「こんなの絶対やっちゃだろだろ」というスタンスで観ていた観客にすら「これは、そんな価値基準を超えた何かだ」と思わせる圧倒的な説得力を最後の綱渡りシーンに持たせられるかどうか、です。でね、結論を言えば、この映画はそのことにかなりの部分成功しているように思えました。まさに作り物でしか再現することができないラスト15分の景色を見せてくれたというだけでも、これを観た価値はあったように思えます。

ただ、ここで語られる「実話」について全く知識がない人はまずドキュメンタリーも観て、それから映画を観るという順番を僕はオススメしますけどね。

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