内定をDAO投票で出しました
サクラスDAO化、これまでの道のり
サクラストークンの配布
当社では、主にデジタルマーケティングの仕事に従事する学生(「ビジネスアスリート」)を対象に、
成果報酬を受け取る権利の単位として「サクラストークン」を定義し、
2022年3月の開始以来、2084個(11/4時点)のトークンを配布してきました。
ビジネスアスリートたちの受け取れる成果報酬は、
1トークンあたりの金額(トークン単価)に基づき算出され、
トークン単価は一定の算式に基づき、全社の業績と連動しています。
トークンは、獲得できることもあれば消費されることもあり、
納期遅れや提出物に不備があった場合などには没収されます。
あくまで成果報酬をカウントする単元であるため
購入したり売却することはできませんが、
社内の「投票」にも使われています。
DAO投票の実施状況
投票は、これまでに10回ほど実施されており、
多くはビジネスアスリートの指名や報酬に関わるものです。
1トークンにつき1票を投じることができ、
投票によりトークンが減ることはありません。
課題は投票率で、
毎回の投票率は、人数ベースで1-2割、
票数ベースでも過半数を下回っていました。
代表的な議題としては、
次月のチーム編成の是非を問うものなどでしたが
賛成か反対かを問うものが多く、
またわざわざ反対するインセンティブもあまりないため
トークン保持者たちは参加の意義を見いだせていないようでした。
DAO投票で内定を決める
そこで今回は、半期のMVP(2019・20年度は年間のみ。21年度から半期毎に決定)を投票で決めることにしました。
上半期(4月-9月の)月間MVPを受賞した4名を候補者として、有権者がひとりを選んで投票する形です。
半期MVPの副賞は内々定ですので、「DAO投票で内定を決める」ともいえる状況です。
これまでの内定者の決定方法
なお、少し話は脱線しますが、これまでは半期または年間のMVP受賞者に対して副賞として内々定を授与していました。
当社の学生インターンは大学卒業後、いわゆる“大企業”に就職する学生が多いため、そういう意味では内定を出すことにそれほど大きな意味は無いのかもしれません。
それでも、学生時代にひとつ何かを成し遂げた証として嬉しいという声があったため、付与することにしたものです。
DAO投票の経過と結果
実施方法
投票は、以下のような流れで行いました。
10/17朝礼:候補者と投票方法を発表
10/20〜10/21:投票
10/24朝礼:結果発表
実際の投票の手続きは人事委員に任せ、私は途中経過もわからないようにしました。役員の間で特に事前の相談なども行わず、トークン保持者たちの自由な意思に任せています。
もし経過を確認していたら、(予期しない結果になりそうな場合などは特に)オフィスで会った相手に「投票したの?」など不要な干渉をしてしまっていたかもしれません。
準備資料
投票にあたっての参考情報として、MVP候補者たちの簡単な経歴を用意しました。
建付けとしては選挙ではなくあくまでMVP選出のため、運営の側が用意しました。(と言っても結局、本人からの聞き取りが必要ですが)
実施結果
結果は、わずか17票差の接戦となりました。
投票率も高く、人数ベースで 8 / 15人
議決権ベースでは704 / 994個(70%強)となりました。
本稿では結果に関する詳しい文脈を伝えにくいところが残念ですが、
少なくとも接戦となった結果や高い投票率から、
特定権力の影響は十分に排除されていると感じられます。
自律分散の試みとしては成功だったと思います。
なお蛇足ですが、
ひとり、期日を過ぎての無効票が発覚し、
選挙結果が覆るというハプニングがありました。。
こうした混乱は、オフチェーン、
かつ人力にも頼って実施している弊害ですね。。
DAO投票で内定者を決めた感想
自律分散組織の感覚
投票時点で私が保持していた議決権は206個で、
これは実際に投票された票数の7分の2に過ぎませんから、
結果がどうなるかは、わかりませんでした。
(実際、個人的には予想外の結果でした)
今回実施した投票は、会社経営のうちのほんの一部分に過ぎませんが、
それでも自分で立ち上げた会社が自分の“所有物”では無くなる(=健全なことなのだと思いますが)感覚を味わえることができました。
よく言われる「民主主義の難しさ」ということも、より実感が湧きます。
反対に、学生たちの側からは、自分たちの評価基準や会社の将来について考えるキッカケができたと思います。(だといいな。。)
会社にとって大事なことを「投票で決める」ということが何を意味しているのか、この件に限らず、Web3関連では何かひとつ実際にやってみると感覚が掴めるのだと思います。
トークンエコノミーとブロックチェーンは別物
既に一般に指摘されていることではありますが、トークンエコノミーとブロックチェーンは、相性は良いものの別の(独立した)物です。
今回はオフチェーンで前者を実験したことで、ブロックチェーンとの差分も感じることができたと思います。
具体的には、結果を捻じ曲げるようなことはなくとも、ルールを変えたくなるような衝動に襲われることは、あります。
また、「次回開催までに改善したい」という気持ちが、スピードや継続性を阻害してしまうこともあるでしょう。
人間の判断を一切排除して、機械的に強制力を持って実行されるほうが、良いことは確かにあるのだなと実感できました。
今はガス代などのコストがかかりすぎるとしても、チェーンに乗る(スマートコントラクト化される)ことの価値を改めて感じました。
今後の展望
今回投票で決めた半期MVPは、内々定を授与しているとはいえ実際には当社への就職は稀であり、もともと候補者を(月間MVP受賞者に)限定していることから、実際にはそれほど大きなリスクをとった決定とはいえないかもしれません。
今後は、より経営の根幹に関わるような意思決定を投票で決定していけたらと思います。
重要な意思決定というところだと、予算、投資、指名、報酬、契約などの分野でしょうか。
具体的には例えば、学生が独立起業する際の投資決定や半期の予算決定などが良いのかもしれません。
但し、投資決定の場合も予算を投票で決議する場合も、単なる賛成/反対では投票がしにくいため、予め案を複数用意するなどの工夫が必要そうです・・。
本稿では、当社で実施したDAO投票の事例について紹介しました。皆さんの参考になれば幸いです。
投資行為または類似の施策実行を勧めるものではありません。実施される際は法律や税務の専門家に相談の上、ご自身の責任において実施して下さい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?