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ヘンダーソンの看護理論とGOLDメソッド

 この記事は現在執筆中の、「できる」看護師のように看護実践ができるようになりる!、と題した独習用教材の終章を切り抜いたものです。この独習用教材は、看護学生2年次を対象とした成人看護援助論の事前学習資料になります。

 「ヘンダーソンからの贈り物 いつ,どこであっても蘇る看護の魅力」(川島みどり、小玉香津子、医学界新聞、2007)を引用しながらヘンダーソンの看護論とGOLDメソッドの関連について考えてみましょう。
 以下、対談・座談会から鍵となるフレーズを引用し(大見出し)、その内容を認知脳科学的に解釈し、さらにGOLDメソッドとの関連について解説します。

 『看護の基本となるもの』のいちばんの見所は“ばらばらの看護行為を体系づけたこと”だったのではないでしょうか。

・ばらばらの看護行為とその構造はミンスキーのモデルを用いることで、看護師の知識ラインとして形式知化することができます。

・看護の基本となるもの、すなわち「できる」看護師がさまざまな状況でのバラバラな看護行為の拠り所としているのは、「できる」看護師が経験を通して組み立ててきた知識ラインです。

・GOLDメソッドを用いることで「できる」看護師の知識ラインを見える化、教材化することができるため、初学者であっても「看護の基本となるもの」を直接学ぶことが可能になります。

例えば教育現場では、基本的ニードを個々に考えさせた時期がありましたよね。本当なら排泄の援助から身体の清潔、さらにコミュニケーションへというように有機的に、全体を統合する方向でヘンダーソンは述べている・・・。


・GOLDメソッドでは患者物語と患者のゴール達成を支援する(援助する)ことを看護実践として捉え、それぞれの看護行為はシーン4で実行し、シーン5ではその看護行為が患者のゴールを達成できたかどうかを評価します。

・GOLDメソッドは、部分の集合から全体が統合されるだろうという知識提供型の教育の方法ではなく、統合された全体から部分を考えるという認知科学的アプローチを採用しています。

「看護を高く評価し、その価値を証拠をもって証明しなければならないのは、看護実践家たちである」

・自分が行った看護実践を患者の視点で評価・検証し、看護実践を振り返ることで自分の中の「できる」看護師の心を育てる責任は看護師自身が担っています。

・GOLDメソッドでは患者のために行う看護実践と(シーン1からシーン4)と自分の成長のために行う看護実践(シーン5とシーン6)を切り分て、看護実践を通して自分が行った看護を評価する力と「できる」看護師に成長する学び方が獲得できます。換言すれば上記引用に対して看護師が自ら応えることを可能にしています。

ナースの行っていることが看護なのだと思いがちなナースたちに、ヘンダーソンは「独自の機能を発揮してはじめて、看護は世の中をよい方向へ変えていく力になる」と言っています。

・看護師の資格を持っているからと言って優れた看護ができているとは限りません。そのことを評価できるのは当事者しかいないので、当事者が初学者のうちに「できる」看護師が行う看護を実践するための知識ラインを獲得する必要があります。

・「できる」看護師の心の6階層(特に第6層の心)を多くの看護師が共有することで、看護は世の中を良い方向へ変えていく力になるはずです。

学生時代には「看護学概論」などで「看護とは何か」という古くて新しい問いを考えますが、実際にナースとして現場で働き出すと考える時間を持てない。それでも、ナースとして一生懸命成長しようとしている人たちは、ふと、「卒業した頃の私に戻れるだろうか」と思うようです。

・看護実践の中で「看護とはなにか」について「遅い思考」をする時間を見出すには、看護実践のほとんどを「速い思考」で実行する心が必要になります。

・看護の卒前教育では「遅い思考」を使えばなんとか看護実践ができるレベルを達成しますが、これでは不十分なことがこの引用からも明らかです。
GOLDメソッドは初学者が「できる」看護師のように看護実践ができるようになるためのテクノロジーなので、看護実践を「速い思考」で自動的に実行しながら、短期記憶を使って「看護とはなにか」を「遅い思考」で考えることを可能にします。

「ええ、戻れますとも。あなたがそう思っている限り」と返事を書きながら・・。

・「GOLDメソッドがあります」「この事前学習資料を精読することで病院で当たり前とされている看護とは異なるあなたの看護を発見することができます」。

看護は、人々の暮らしから生まれた専門職ですから、その人が暮らしの中で気持ちが良いこと悪いことを、ナースは敏感にキャッチし、ケアを行っていかなければいけないと思います。

・私たちは生得的に共感脳を使って生き延び、成長してきました。共感脳を意識し、患者が暮らしの中で気持ちが良いことと悪いことを患者シグナルとしてキャッチできることを知ることで、それをケアに反映することが難なくできるようになります。

・この引用にある懸念は、認知脳科学とミンスキーモデルを使うことで具体的に解決することができます。

ヘンダーソンは、“その人の身になる”というのでは不十分、“皮膚の内側に入るというセンス”のことと言われました。

・その人の身になる・・・患者の立場に立って考える。患者の身体、心や置かれている状況を知識を持って理解し、その患者のことを外側からわかるということ。1980年代の認知心理学・認知科学的な表象主義が前提となっていると考えられます。

・すぐれた看護師 は他者の皮膚の内側に入っていく・・・「自分が看護している人の間に一体感を感じることができるのは、優れた看護師の特性である。患者の皮膚の内側に入り込む看護師は、傾聴する耳を持っているにちがいない。言葉によらないコミュニケーションを敏感に感じ、また患者が自分の感じていることを色々の方法で表現するのを励ましているにちがいない」

・この表現は認知脳科学的に次のように理解できます:私たちは生得的にシェアード・サーキット(Keysers、2007)を備えていて、他者のことを頭で・表象主義的に理解するのではなく(心の理論でいうセオリ・セオリ)、その人になりきってその人の人生、いまを経験している(心の理論でいうシミュレーション・セオリ)。

著名なナースたちだけでなくて、無名の優れたナースたちが、その背後にはたくさんいる。現場には知識・技能・洞察力・誠実さなどすべてを傾けて、その人の“皮膚の内側に入っていく看護”を実践しているナースたちがいる。

・「できる」看護師(「できる」看護師の心の6階層を備えている)はどこにでもいます。自分ではそう思っていないし、多分、そうするのが当たり前と考えているはずです。「できる」看護師の能力は暗黙知であり、言葉にできない心と技とされてきました。

・GOLDメソッドは「できる」看護師の心と技を見える化・教材化する方法として開発されました。認知脳科学都民スキーモデルと併用することで、「できる」看護師の心を6階層モデルとして、まは「できる」看護師の技を知識ラインとして見える化することができます。

・見える化した「できる」看護師の心の6階層モデルと知識ラインを教材として用いることで、「できる」看護師の心と技を直接教授し、直接学ぶことが可能になりました。

看護に優れるとはどういうことかを探る目的は、真の医療の中で優秀性を磨き上げていく能力を身につけた人たちをたくさん育てる、学生が自分のもてる力を十分に伸ばして、試して、見積もって、自分で仕事を評価できるようにしていく、優れた看護ケアを行った時には必ず伴う達成感や満足感が得られる条件を提供することだ。

・この一般論を実践可能にするには医療ISD(GOLDメソッド)というテクノロジーが必要になります。

・「できる」看護師の知識ラインを看護実践のメンタル・シミュレーションの中で試して、行った看護実践の質を評価し、検証と振り返りにより自分のもてる力を伸ばし、さらに次の看護実践で拡張した知識ラインの効果を試してみる、という認知脳科学的な経験学習が可能になります。

観察がなくなってしまったことはおかしいですよね。やはり、五感、自分の身体ツールを使って「見る、聞く、そして嗅ぐ」、そこがすごい基本なのに、それが忘れられてしまった

・GOLDメソッドでは「できる」看護師の第1層の心をシェアード・サーキットを使った観察による患者シグナルを医療的に解釈する能力としています。

・観察は「できる」看護師としてつねに稼働している心であり、シフトの間は一瞬たりともオフにすることはありません(また意識されることもありません)。

・観察は習慣であり、「速い思考」であり、「できる」看護師の看護実践の基盤になっています。

 以上、「ヘンダーソンからの贈り物 いつ,どこであっても蘇る看護の魅力」の引用と解説という形で、ヘンダーソンの看護理論とGOLDメソッドの関連について解説しました。
 学校の課題図書として初学者が「看護の基本となるもの」(ヘンダーソン)を読んで内容を理解することと、「看護の基本となるもの」を看護実践の中で実行することはまったく別の技能になります(前者は言語情報、後者は知的技能)。言語情報としての「看護の基本となるもの」を、初学者が優れた看護実践の知的技能に変換するには「看護の基本となるもの」の内容を埋め込んだ看護実践を具体的に経験する必要があります。「看護の基本となるもの」の内容を知っている状態(言語情報)から「看護の基本となるもの」の内容を看護実践の中で使える状態(知的技能)に変換する、あるいは「看護の基本となるもの」の内容を看護実践の中で具体的に使う経験を通して「看護の基本となるもの」の内容を腑に落とすためには何らかのテクノロジー(言語情報を知的技能に変換する装置)が必要になります。それがGOLDメソッド(医療インストラクショナル・システムズ・デザイン、医療ISD)になります。GOLDメソッドを用いることで初学者でも「看護の基本となるもの」の内容を埋め込んだ看護実践、すなわち「できる」看護師が行う看護実践ができるようになります。


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