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「できる」訪問看護師に育つ学び方/支援の仕方シリーズ・その1 感じ取り判断する力

  「できる」訪問看護師さんなら利用者さん、ご家族だけでなく、お家の外回り、玄関の佇まい、「こんにちわ」と呼びかけた後の返事の様子(間、誰の返事か、声の主の声の表情、トーンなど)、匂いや空気を感じ取り、「おや?おかしいぞ」と直感し、自分の直感を解釈し、何が起きているのかがパッと分かる、あるいは予想できる能力が必要になります。

 この能力、どうやって学ぶのか?

 実は、この能力の半分は人間に生まれながらに備わっているので、特に学ぶ必要はありません。が、その能力に気づくこと、思い出すことが必要になります。学ぶべきことは、感じ取ったことが具体的に何なのかを判断し、それが利用者さんの病状の変化と関係がありそうなのかどうかを判断する能力になります。

 私たちの脳には生まれつき共感脳と呼ばれる神経細胞が備わっていて、外界・他者を感じ取る(視覚、聴覚、嗅覚)だけで、そこで何が起きているのかを察することができるようになっています。というわけで感じ取ること自体は特に学ぶ必要はありません。


 学ぶ必要があるのは感じ取ったことを自分の言葉で表現すること・言語化することと、言語化したことを看護や医療の用語に翻訳すること。
 感じ取ったことを自分の言葉で表現することは意外と難しいようです。ここで言う表現、とは、他者に言葉で伝えるということで、頭の中でぶつぶつと呟くというような曖昧なことではありません。自分が感じ取ったことを他者に伝わるように言語化するには表現力・語彙が必要になります。この能力は小説を読んだり、映画を見たり、絵画を鑑賞した際に感じ取ったことを言語化するといった、いわば評論家的な能力を必要とします。
 感じ取ったことを自分の言葉で表現するという関門をクリアすると、次はその言葉に対応する看護や医療の用語に翻訳するという次の関門が待ち構えています。同時翻訳に相当するので、看護・医療の幅広い知識(意味記憶とエピソード記憶)と、知識を即座に検索し該当する用語を選択するエンジンが必要になります。

 利用者宅を訪問したら知覚の感度を最大限に上げ、すべてを感じ取り、感じ取ったことを看護・医療的に判断する、それが「できる」訪問看護師さんにまず求められる能力・スキルになります。

 外界や他者のことを感じ取る共感脳は誰でも備えていますが、感じ取るためには仕込みが重要になってきます。仕込みがなければ感じても解釈する作業に進むことができない、それが人間の認知の限界なのです。

 で、仕込みですが、これは状況認識と呼ばれる課題と同じです。

 仕込み=状況の変化を予測し、それに対応するプランをリハーサルしておく。それを行わなければ感じでもそれが解釈されたり、言語化されたり、さらに判断につながることはない、ということです。

 感じ取り判断する能力、簡単なようで簡単ではない、しかしその能力がモデル化されていることを利用すれば、学び方をデザインすることが可能になり、また学びを支援することも可能になります。

 今回取り上げた能力、感じ取り判断する能力は、看護師の第六感とか勘とか呼ばれていて、それは教えることも学ぶこともできないことで、看護師としての長年の経験により次第に獲得されるものという具合に受け止められていますが、実際にはそんなことはなくて、それは科学的に解明されていて、学んだり学びを支援する方法はちゃんとある、というのがここでの主張になります。

 ずいぶん書いたので今日はこの辺で。


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