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ACLSコースの学習目標とインストラクション

 この記事ではAHAのACLSコースの学習目標とインストラクションのプランの立てからについて医療ID的に解説したいと思います。

ACLSコースのコースの目標と学習目標

 ACLSコースのインストラクターマニュアル(あるいはプロバイダーマニュアル)の最初に、コースの目標と学習目標が明示されています。ACLSコースというイベントとしてのシミュレーションコースではレッスンプランに従って学習目標の達成を目指します。一方、コース修了後の発展学習(職場に戻ったあとに継続して行う学習)ではコースの目標である「高いパフォーマンスチームによる早期認識と介入を通し、心停止や他の心肺エマージェンシーを発症した成人患者の転機を改善する」能力を獲得します。
 ACLSコース(BLSコースも同じように)を設計通りにインストラクションするにはインストラクターがコースの目標と学習目標の違いを正しく理解することが必要になります。
 コースの目標とコースの学習目標を正しく理解するために、医療ID(AHAがBLS/ACLSコースの設計・開発に用いたテクノロジー)における教授系列の設計の概念について説明します。

教授系列の設計

 教授=インストラクションとは、学習者の外部環境(学習環境、例は教材やAV機器、レッスンプラン、マネキン、器具やインストラクター)を意図的に操作し、、学習者の内部(頭の中)で生起する学習活動に影響(学習成果を効果的・効率的・魅力的に達成するように)を与えることを言います。質の高い教授=インストラクションとは、学習者がイキイキと学びその成果を活用することで仕事をスマートに遂行できるようになりその人の人生が良くなるようなインパクトをもたらすものになります。
 学校教育や医療者の教育(卒前、卒後、生涯)は、長期間にわたり多くの機会を利用して取り組みます。ある能力を学習する前には、前提条件となる能力を学習し、その次にはより複雑な能力を学習します。それらの一連の能力の組み合わせは、一般的にカリキュラムあるいはコースと呼ばれています。カリキュラムやコース内では、学習目標を系列化することが必要になります。学習目標の系列に従って教授活動・学習活動を系列化することになります。この全体が教授系列の設計という概念になります。

コースの目標

 コースは決められた時間で、決められた内容を学び、決められたテストで合格すれば終了します。コースを終わったあとも生涯学習は継続し、将来的に達成するゴールに向かって一歩づつ中間ゴールをクリアしていきます。

 ACLSコースの目標、すなわち「高いパフォーマンスチームによる早期認識を介入を通し、心停止や他の心肺エマージェンシーを発症した成人患者の転帰を改善する」(インストラクターマニュアルから引用)ようになるのはACLSコース内ではなく、ACLSコース修了後の発展学習・継続学習の目標になります。

 ACLSコースではコースの目標を達成するための前提条件を学びます。それが学習目標になります。

学習目標

 ACLSコースの学習目標は、コースのインストラクションが完了した直後に期待されるパフォーマンスを述べたもので、臨床現場でできることを保証するものではありません(臨床現場でできるようになるのはACLSコースの責任範囲外になります)。

 学習者が学習目標を達成するようにインストラクションするためには、学習目標ごとにそれが言語情報・知的技能・運動技能のうち、どの分類の目標なのかを理解したうえで、それぞれの学習目標を達成するための学習の条件(学習者の外側の条件と内側の条件の2つがあります)を整える必要があります。学習目標が言語情報なのか、知的技能なのか、あるいは運動技能なのかを区別し、それぞれの学習に最適な学習環境を整えることが出来なければ、学習者が学習目標を達成することが難しくなります。

ACLSコースの課題

 ACLSコースの課題を整理しリストアップします。

ACLSインストラクターマニュアルの内容が意図されたように理解されていない。従って、コースがデザインされた意図通りにインストラクションができていない。

ACLSコースを受講する・テストに合格するというイベントだけで、コースの目標が達成されるという錯覚が蔓延している。

ACLSコースの目標を達成するには、ACLSコース後の生涯教育・継続学習のシステムが必須であるが、そのような教育は行われていない(AHAハイライトの蘇生教育の提言のような)。

インストラクターの多くが、自分たちがACLSコースのコンテンツを言語情報として伝えているということに気がついていない。

 このような状況を改善するためにも医療IDの普及が必要と考えます。

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