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透明人間

『透明人間』 原案 こいでまりも

あなたのことを教えて。
あなたは何を考えているの?私はそれが知りたいの。
あはは。その表情。楽しいわけでも悲しいわけでもないその顔。もしかして緊張してる?
小指のちょっとした動きまで見逃さないように。小さな吐息の一つも聞き逃さないように。私はね、あなたを知る材料を一つ残らず集めて、あなたのことをゆっくり考えるの。

あなたは今、私をじっとみてるね。
私のこと考えてるんだね。
小さなまばたき。息を吸った。私の言葉の意味を考えてるんだね。
あはは。楽しいよね。面白いよね。もうずっとこうしていたいよね。

あ、今、瞳孔が少し大きくなった。何を考えたのかな。
あ、今、目を逸らしたくなったのかな、唾を飲み込んだ。
あはははは。タイミングが面白いね。どうしたのかな。どうしたの?
面白い。面白いなぁ。あなたは。人間って本当に面白い。

ああ、くやしいなぁ。
私の言葉なんて、存在なんていらないのに。私はノイズにしかならないもの。
素の状態のあなたがみたいのに、どうしても私が影響を与えちゃう。

私がいるとありのままのあなたをみることができない。
一人でいる時のありのままのあなたを知りたいのに。本当のあなたがみたいのに。
私の視線が、呼吸が、体温があなたを身構えさせてしまう。
本音を語れなくなっちゃうよね。

だから私は透明人間になりたいの。観察者でいたい。
透明人間になってあなたの後ろにそっと立っていたい。
人間をずっと観察していたい。私は意識だけになってあなたの気持ちを、なんであなたがそんなことを言ってそんなことをしたのかをずっとずっと考え続けるの。

あなたは黙って私をみてるね。私のことが知りたいのかな。
いいねいいね。わかってきたね。相手のことを知るのって楽しいよね。
でも、私の話なんてつまらないよ。それでいいなら素材をあげる。あなたが私を知るための材料をあげる。そうだよね。この面白さを自分だけで独占しちゃいけないよね。

あ、今、指がちょっと動いたね。なんでだろう。今、何を考えたの?
どうして何も言わないの?沈黙もあなたを知る材料だけれど少しは話してほしいな。
好奇心が止まらないよ。ねぇ、何を考えてるの?怒ってるのかな。
ああ、そうか、ごめんごめん。今はあなたが私を知るターンだったね。
何か知りたいことある?

‥‥‥じゃあ透明人間の話をするね。
私はね、いじめられっこだったんだよね。
私の靴箱も机もいつも通りの場所にあったし、出席簿にも私の名前は書いてあったし、教師は私の名前を呼んでくれたのに、クラスメイトの中では私はいないことになってたもんね。
昨日まで仲良く話をしていていたのに、突然私のことがみえなくなったもんね。
その時、私は透明人間になれるかもって思ったんだ。

悲しい話じゃないよ。その顔。あなたは私が悲しいと思ったんだね。面白いな。
たくさんのクエスチョンマークが次々と頭の上に浮かぶのは楽しいんだよ。
何で私を無視するんだろう?どうして教師は何も言わないんだろう。クラスメイトは何を考えているんだろう?そういうことを考えてるのってとても楽しいでしょう。

ねぇ、どうして黙ってるの?私はあなたに話しかけてるんだよ。画面の前のあなたに。
もしかして私のこと見えてないのかな。私は透明人間になれたのかな。
私はみてるよ。あなたをみてる。
あははは。私のことがよくわからないって顔してるね。
いいなぁ。その時間が一番楽しいもんね。

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