誘蛾灯

『誘蛾灯』　原案　九反月海

　　アイドルの女の子が観客に向かって話す。

すごいー、キラキラしてる！キラキラしてるよね！ペンライトの光が星空みたい。
みんな私のこと大好きだよね！知ってるよ！みんな、スターの私が大好きだって。
熱気。歓声。ぜんぶぜんぶ私に注がれてる！私のこと大好きなんだよね、私知ってるよ！
さぁ、コール＆レスポンス！みんな私のこと好きー？
ほら、声に出して！もっと大きな声で！
しっかり声に出してくれないと私疑っちゃうから！みんな私のこと好きー？

ありがとー！！私もみんなのこと大好きー！

今日は重大発表がありまーす！
実は私ね、恋人ができそうなの！とってもとっても大好きな彼ピッピ。お金持ちで優しくてイケメンなの！私のこと蝶よ花よって大切にしてくれて、みんなとは全然違うの。
大丈夫だよ、安心して。彼ピッピはできたけどまだアイドルはやめないから！彼ピッピとの契約が残ってるから引退はできないんだよ。

え？私の恋を応援してくれるの！ありがとー！
みんな私の話なんでも聞いてくれるから大好き。私がみんなのこと嫌いっていってもみんなは私のこと好きでいてくれるんだよね。だから私もすごく安心してる。

あ、そうそう、この間ね、夜すごく不安になったの。
ひどいひどい、私も不安になるんだよ。多分、昼間にみた虫のせいだと思う。
チョコレートの匂いがする毒の餌があってね、その餌のまわりにね、何匹も虫が死んでたの。
気持ち悪いよねー。気持ち悪いー。きーもーちーわーるーいー。
違うんだなー。気持ち悪いから不安になったんじゃないんだなー。私はそんな単純じゃないんだよー。ひどいなー、みんなー。

虫って何考えてるんだろうなって思ったの。だってさ、目の前にその餌食べて死んでる虫がいるんだよ。なのに何で食べちゃうかなーって。虫の気持ちになろうとしたらね、なんかすごい不安になったの。みんな、虫の気持ちわかる？きっとわかるよね。キラキラした私にバーッとよってくる虫みたいだもん、みんな。

それで、彼に電話しようと思ったの。可愛い？可愛いよね。知ってる。
でもね、電話できなかったんだよね。彼のこと大切だから。だってさ、夜中に電話かけてくる女ってめんどくさいでしょ。彼に嫌われたくないじゃない。だから怖くなっちゃったの。
きっとみんなだったら夜中に電話してもずっと仲良くできるよね。
みんな、私から深夜の電話してほしい？
ダメー、してあげなーい！みんなは蛾で、私は華やかなちょうちょだからね。

みんな私のことバカだと思ってるんだよね。知ってるよ、私。頭悪いって思われてること。ちょろい女だって思われてるんだよね。でもねちょろいのは私じゃないから。ちょろいのはみんなだから。私は全部わかってやってるんだ。
ちょうちょみたいにみんなのまわりを飛んであげてるの。手が届くんじゃないかって思うところに、あえて、いてあげているんだよ。優しいでしょ。

‥‥‥すごい。すごいね。調教済みだ。ここまで言われてなんでみんな笑ってられるの？愛を試されてるって思ってるのかな。そんなに私のこと好きなんだ。私に構ってほしいんだね。
よーし、コール＆レスポンス！みんなそこで三周回ってワンって言って！

すごい！やるんだ！言うんだ！すごいね、みんな！一周回ってもう怖いくらい。
すごいすごい！キラキラしてる。ペンライトの光が鱗粉みたい！
なんて激しい拍手！バチバチバチってまるで命が弾けるみたい！
みんな知ってる？ちょうちょってね、蛾とほとんど変わらないんだよ。なのにちょうちょは好かれて蛾は嫌われるの。私はちょうちょなのかな、それとも蛾なのかな。
ああ、ねっとり絡みついてくる視線。飢えた肉食獣のような熱気。獣の咆哮みたいな歓声。ぜんぶぜんぶ私に注がれてる！みんな私のこと大好きなんだね。

さぁ、コール＆レスポンス！みんな私のこと好きー？
しっかり声に出してくれないと私もう死んじゃうからね！みんな、私のこと好きー？