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全裸生活

『全裸生活』 原案 須崎真緒

私、服を着るのが苦痛なんですよね。
シャツとかズボンとかの服。本当は一日中、裸で過ごしたいんですよ。
だから正直、今はすごく我慢してます。我慢して着てます。
さすがに外では服を着ないとまずいですから。

家に帰ったらまず脱ぎますね。
玄関開けたら二分で全裸です。少しでも早く服の拘束から逃れたいですから。
玄関の鍵を開けながら、シャツのボタンに手がかかってますから。

裸で長時間、過ごしたことってあります?
お風呂上りにパンツ一丁とはかなり違うんですよ。それは下着着てるじゃないですか。
下着つけてたら全裸じゃないですから。もちろん私は下着も脱いでますよ。
この下着をつけているかどうかの一線が、本物と偽物をわけるっていうか。
下着を脱ぐと解放感すごいですよ。私を縛り付けるものはもう何もない。

服が嫌だから、在宅でできる仕事にしたんです。全裸で毛布羽織ってこたつに入ってパソコンでできる仕事。外に出る必要がなくなったらもう服着る必要もないですから。
食料品や消耗品の買い出しも、全部ネットで届けてもらえるでしょう。
受け取る時だけ着る必要があるけれど、それ以外はずっと全裸。
今はマンションですけど、将来的には大きめの宅配ボックスを置ける一戸建てとかに住みたいなって思ってます。そうすればずっと全裸で生きていけますから。

それで一ヶ月くらいずっと部屋に引きこもってたんですけど……気づいちゃったんです。「私、この一ヶ月全く人に会ってない」って。宅配の人としか会ってないって。
そうなんですよ、全裸だと人に会えないんですよね。
人に会う為には服を着る必要があるってことに気づいたんです。
せっかく全裸の為の生活を整えたのに悔しいじゃないですか。

だからまず友達を部屋に呼ぶことを考えました。
ただ私、別に服がダメなだけで社会性を失ったわけじゃないですから、友達の家に遊びに行ったら相手が全裸だったらびっくりするし、温泉でもないのに裸の友人と同じ空間にいるのはきついってのはわかるんですよね。
だからまずは相手に「私、あなたと話す時に全裸だけれどいい?」って確認を取る必要があるんです。どうなると思います、このカミングアウト。

……断られないんですよ!受け入れられるんです!友達には。
「全裸だからってあなたはあなたでしょ」って。
最初は気まずかったですよ。服を着た友達と全裸の私。会話もなんかぎごちなくなったりして、でも人って慣れるんですよね。今では友人は全裸の私を認めてくれています。

で、また一ヶ月くらいして気づくんです。私、全く男性と会ってないって。
さすがの私も全裸で男性とは会えないですよ。
私、服を着たくないってだけで性的に見られたいってわけじゃないですから。
男性は、上半身くらいは脱いでいても問題ないって風潮がありますけど、女性はそうもいかないじゃないですか。上半身が裸なだけでも誘ってるって思われるのに、下半身もってなったらなおさらですよね。でも悔しいじゃないですか。やっと服の呪縛から逃れることができたのに、男と会うだけの為に服を着ないといけないってどういうことなんだと。
そこまで苦労して服を着て会っても脱がすことばかり考えている男がいたりするんですよ。
もう、私の苦労を何だと思ってるんだと。ふざけるんじゃないと。バカかとアホかと。

そもそも服って不自然だと思うんですよね。
人間ってもともとは裸で生まれてきたわけでしょう。裸のほうが自然なんですよ。
それにほらアダムとイブも最初は全裸だったわけでしょう。知恵がついて服を着て楽園から追い出されたんですよね。だったら服なんて悪魔の象徴みたいなものじゃないですか。

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