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明日の穴 第2稿

前の「明日の穴」はこちら。
https://note.com/ikedarego/n/n861c3e891137
渋谷悠氏の指導の下、以下のモノローグに生まれ変わりました。
以前との違いをぜひご覧ください。

『明日の穴』

(男、ホテルの部屋から帰ろうとする恋人を呼び止める)
待って!帰らないで!大丈夫!大丈夫だから!
心配する必要はないよ。ゴムは用意してある。指にゴムをはめれば汚くならないだろう。
ローションも用意してある。使えばすんなり入ると思うから大丈夫なんだ。
え、心配ってそっちの?‥‥‥僕の頭は正常だよ。おかしくなってなんかない。
僕は君と会わなかったこの半年間、このことばかり考えてたんだ。変態じゃない。そうじゃないんだ。僕はただ知りたいんだ。君のことをもっと知りたいんだよ!

君が言ったんだよ。「私のこと全くわかってない」って。言ったよ。覚えてないの?
ほら、半年前に僕がプロポーズした時にだよ。
「役者なんて諦めて専業主婦をやってほしい」って言ったら「嫌だ」って君が言ったのは覚えてる?あの時、君は言ったんだよ。「私のこと全くわかってない」って。

あの時から僕はずっとそのことばかり考えてるんだ。
なんで断られたのかの理由ははっきりしてる。僕が君のことをわかってなかったからだ。
つきあって三年。畳よりフローリング派。ごはんよりパン派。ズボンよりスカート派。
僕は君のことはよくわかってるつもりだった。でもそれは勘違いだったんだ。
勘違いしたまま君と幸せな家庭を築こうとしてたんだよ、僕は。バカだよね。

あれからずっとさ、君のことを必死でわかろうとしたんだ。
最初はどうしていいか全くわからなかったんだ。考えても考えても結局、それは僕の妄想でしかないんじゃないかって不安にしかならなかった。でも今は少しは君のことがわかる。
‥‥‥きっかけは君の夢だったんだよ。君は役者を目指しているだろう。だから演技の本を買って読んでみたんだよ。相手の気持ちをわかるには相手と同じことをしてみることが有効だってことがわかったんだ。道が開けた気がしたよ。

それで、君がしていたように発声練習をしてみたりダンスの練習をしてみたりしたんだ。
声を出したり、身体を動かしたりするのは楽しいんだね。
ダンスの練習はフローリングの部屋のほうが断然しやすいんだね。昼食をパン食にしたらパンのほうが服が汚れにくいってことも知った。女性の服はスカート一枚でも高いものね。スカートってのはこんなに涼しいものなのかってびっくりしたよ。
君の真似をすればするほど新しい発見があったんだ。確かに僕は君のことを全くわかってなかった。君の言うとおりだったんだ。

もっと君のことが知りたい。もっと君と同じ体験がしたいって思った。
そうすれば君のことがもっともっとわかるから。だからお願いしているんだよ。
入ってこられるということを知りたいんだ。身体の中に侵入されるということがどういうことなのかを知りたいんだ。わかりたいんだ。君の立場に立ってみたいんだよ。

自分で?自分でやってもそんなの耳掃除と同じだろう。侵入にならない。
自分の家に自分で入っていってもそれはただ帰ってきただけになってしまうだろう。
お店?それじゃ意味がないんだよ。風俗の女性は他人じゃないか。そこに愛はないだろう。自分の家に他人が入ってきたら警察を呼ぶよ。
愛しているから愛されているから侵入してくることを許せるんじゃないのかな。

それに、君にとっても誰かに侵入するっていう経験になるだろう。役者にとって経験は宝だってそう本に書いてあったよ。これはWinWinじゃないか。
よりお互いにわかりあいたいんだよ。いいだろう?

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