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ウエストランドに、あの時、勝機は産まれたのかもしれない

2022のM1を今頃振り返る。
ウエストランドが優勝した流れだ。
私は、優勝したウエストランドは、この流れが作用した部分がかなりあると思っている。

ウエストランドは、グランプリ決勝ファーストラウンドでは、籤の結果10番目の登場となる。ここではなんとしてでも三位までに入らなければならい。そして、見事三位に入った。この三位への入り方に勢いがあった。

今から思えば、10番目に登場して、三位に入ったと言うのが、この優勝への、大前提になっていたかもしれない。

漫才の出来としては、この段階ではさや香がダントツだと言われてきたしそうだと思う。ネタ的にどうかなと思う部分があることはあったが、一位だろう。ただ、このどうかなと思うネタが、ウエストランドとかぶっている気がして、そうすると、このネタの部分は、ウエストランドが持っていってしまったことになる。

で、最終決戦。
この順番は、ファーストランドの上位者から決めることができる。ここで、さや香がトリを抑えたことが結果的には裏目に出たと思う。

トリを抑えることは定番、常道、当たり前のことである。最後に大笑いを掻っ攫って、その前に演じた彼らを上回る。それを審査員にアピールできるからだ。

しかし、ここで流れは変わった。
最終決戦は、さや香がトリを選んだことで、ロングコートダディは、トリ前になり、ウエストランドは、トップを得ることになった。



最終決戦が始まった。
最初の挨拶の後、河本が話し始める。
「オリジナルのね、あるなしクイズを考えたんですけどね、やります?」
ここで客席から、すでに笑いが起きている。
期待の笑いだ。
井口は、この笑いに小さいけど確実な確証を得て、
「あー、たまたま大好きなんで」
と答えて4分間が始まった。

最終決戦のウエストランドの後、司会の二人はこんな会話をしている。

上杉「あんなディスれるものなんですね」
今田「すごいディスり方でしたね」
上杉「でもなんかもっと聴きたくなってしまうんですよね」
今田「クセになりましたか」
上杉「なんかちょっとなってしまいました」

これは、ライブでM1グランプリが行われている特性が反映されているのがよくわかる。ファーストラウンドの最後に出たウエストランドの盛り上がりが、最終決戦の最初に出たウエストランドがその盛り上がりの上に乗って、笑いを倍増させたことがよくわかる。倍増させながら、8分間の漫才をやったかのようであった。

その波に押されたのか、焦ってしまったさや香が、入りのところで「さや香」を噛んでしまうという大きなミスをする。そして、そのミスを小さな笑いで回収することなくネタに入ってしまった。それは、審査員のみならず、会場のお客たちにも伝わってしまったのではないかと思うのだ。

もし、さや香が最終決戦で、トップを取ってウエストランドの波を抑えていたら、どうなっていただろうか。

さや香の安定した笑いで、ファーストラウンドのウエストランドの勢いを消しつつ、笑いを積み重ねていたら。これが出来ていたら、ウエストランドの盛り返しは、厳しくなったであろう。

笑いには、間がとても大事。そして、流れもこのように大事。
しかし、その流れが生まれる瞬間、流れている時にはそれをコントロールすることが難しい。

また、M1は、漫才を集めた演芸会ではない。優勝者を決めるための戦いである。だから、最終決戦を見越した戦い方すらも要求される。ここは、サッカーや野球ならば、通常監督やコーチが引き受ける場所だ。しかし、このM1ではそれはラグビーのように出場者に委ねられている。ここの戦い方までも瞬時に判断する力を求められるのは、かなり大変なことだと言わざるを得ない。

おそらく、ウエストランドもそこまで考えてはやっていなかったろう。あれは、2020年の決勝から、またこの大会で10番目に登場して、三位に入ったその時の流れがそれを生み出したと言えるのではないだろうか。

また、もうひとつだけ言えば、ファーストラウンドでネタを飛ばされてしまったにも関わらず、「えー、えー」と言いながら、その間と流れを踏ん張ってやりくりしたウエストランドに、あの時、勝機は産まれたのかもしれない。

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