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ダンスチャンプ・コウジ✨4



翌週から、水曜日と土曜日の練習に欠かさず参加した。
道も覚えて自分の車でいける。
ダンス部の内部の様子もわかってきた。



四年生の先輩はデモンストレーションで踊ってくれた宮路さんと、
コウジを勧誘した坂本さん、送り迎えをしてくれた優しい富田さんの三人。

三年生はゼロ。
二年生が一人。
人の目を見ないで話すような偏屈っぽいキャラクターの人で、
あまりうまくないのに態度だけは偉そうだった。



一年生がコウジを入れて六人。
つまり、コウジたちが入らないと来年にはダンス部はつぶれる運命にある。
ダンス部にとって、僕らは救世主なんだ。
内心、強い立場を確信していた。

それにしても綺麗な女の子がいないよなあ。
イメージの女子大生とは全く違うし。
ダンスをやる子だから綺麗な子ばかりいると思ったら、憧れてる子ばかりだったとは、、、
ダンスは思ったよりなんか面白そうな感じだよなぁ。


梅雨の時期も練習には真面目に通った。
ブルース、ワルツ、クイック、のステップを覚えて、
なんだか踊れそうだな僕も、と思うようになっていた。



キャンパスに蝉が鳴きはじめ、大学生活最初の試験に悩まされたあとは、
待ちに待った夏休み。
ダンス部の夏合宿だ。
例年通りということで岐阜県の山奥の民宿へ、車を連ねて出発した。



お目当ての子がいないとはいえ、女子たちとの合宿はウキウキする。
野球部の合宿とはえらい違いだった。
初日は練習もなく、夕食の後のミーティングもお菓子を食べたりして和やかだった。



一夜明けて。
6時起きでストレッチと柔軟体操を部屋で行う。
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男子はとくに体が堅いから、コウジもヒイヒイいってしまう。
それからランニング。
野球部出身者としては、まあたいしたことはない。
山の朝は清々しいなあ、と余裕でこなした。



朝食を摂ったら、山の中腹にある体育館までまたランニングだ。
体育館での練習が始まる。
ダンス部が体育会系よりも体育会系であることに気づくまでに
たいして時間はかからなかった。



ステップの基本である、ナチュラルターンとリバースターンをえんえんと繰り返す。
男女とも、相手とは組まずにシャドウでの練習だ。
ホールドという、組むときの姿勢を取って1時間そのまま動かない、というのもある。



前へならえだって、5分も続けたら苦しくなるだろうに、
胸を開き肩を下げ腕を柔らかく伸ばして形を整えるという至難の技を1時間。
1000本ノックとどちらが大変かと聞かれたら、ホールド1時間と答えただろう。



コウジの腕には野球でついた筋肉がある。
筋肉の太い腕は重い。
やっと耐えているところに先輩が自分の腕をのせてくるのだ。

「ふざけんなよ!     クソ腹立つやつやな。」

なんと意地の悪い先輩たちだろう。
なにがあっても腕を下ろすことは許されなかった。
筋肉と筋肉が合わさるところの窪みに汗がたまっていく。
顔からも汗が床にぼたぼたと落ちる。
動くよりつらい苦行だった。

背伸びしたまま体を引き上げ、
下ろしても踵をつかないというのを2曲分通す練習もある。
コウジは野球で膝を故障しているので、これはきつすぎて途中離脱した。
その分ホールドでしごかれたがしかたない。
先輩たちのサディステックな笑顔がうらめしい。
流れる音楽の優雅さと裏腹に、コウジたちの腕や脚は引きつって、苦悶の表情。



1年生は順番に倒れていくが、基礎体力のあるコウジは倒れたくても倒れられない。
倒れたら女子の先輩に陰で優しく介抱してもらえるのに。

「いいなぁー、涼しいところで休めて。」
「早く倒れろよ」


もう一人の自分が耳元で囁く。
その声はしだいに大きくなっていく。
しかし、


「くそ、倒れてたまるかって気持ちもある。でも、倒れようとしても、なんで勝手に体が倒れないようになるのは何でやねん。」


という自分が持ちこたえるのだ。
野球をやっていたことがここでは仇になるのか、
と思いながら、たった一人最後までやり通した。



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