ニコニコ動画のランキングの歴史について。闇に触れながら振り返る

この記事では、 ニコニコ動画とランキング、特に工作(スパム)についての私見を述べようと思う。

なお、この記事で情報が完結するようにする予定なので、長文となることを了解いただきたい。(この記事は私のブログを転載したものです)


ニコニコ動画というサービスのポジションあるいは特殊性とランキングの意味

先日「X年後の関係者たち あのムーブメントの舞台裏 ニコニコ動画編」という番組が放送された。この項においては、ニコニコ動画に大きく関わった人々が出演したこの番組を多少参考にしながら、私なりの見解を加えて行く。

ニコニコ動画が「オワコン」と呼ばれるようになって久しい。ニコニコ動画はサービスを提供するビジネスとしても捉えられるが、プラットフォーム、遊び場としての一面もある。そこでの熱量、盛り上がりを客観的に述べることは困難である。だが、集団の関心の行方を予想することが困難である以上、「熱狂が今全盛期であること」をその当時に評価することが難しい一方で、界隈の衰退を誰しもが認めるような段階は確実に存在すると思う。IR情報の各種指標が示す通り、ニコニコ動画はそのライフサイクルの変遷において全盛期を過ぎ去っている。


では、黎明期のニコニコ動画はどのようなコンセプト、ビジネスモデルであったか。当時は、ひろゆきが運営に深く関わっており2chで本人がサービスの開始を宣伝する等していたと聞く。また、動画の上にコメントを表示することがニコニコ動画の本質的な価値であることは共通の理解であると思うが、これは2chのスレッドの仕組みと密接な関係がある。匿名性とリアルタイム性(「実況」的性質)だ。そもそも、動画の識別IDを「スレッド」と呼ぶし、コメント投稿は匿名であるし、(9)登場までは動画から投稿者を特定することを前提とした仕組みが存在しなかった。ではリアルタイム性とは何か。動画を見ている瞬間を(本来の意味で)リアルタイムに他者と共有している訳ではないが、動画に対してつけられたコメントを見ることで、多くの視聴者と時間と感想を共有しているような錯覚を抱くことが出来る。開発者は「コメントの擬似的な同期機能」と述べている。つまり、コメントがリアルタイム性を担保しているのだ。


動画共有プラットフォームが愛され、成長するための重要な機能が「コンテンツ発見機能」だ。視聴を求める人々に動画が発見され、評価を受けることは投稿者のモチベーションに繋がる。また、視聴者は好みに合う動画を見つけたい。両者を同時に満たすことが「高く評価されている動画をより多くの人に見せる」ような機能であり、私が思うに、2007年~2009年のニコニコ動画ではこの機能をランキングというシステムに託していた。



ランキング工作の歴史


ニコニコ動画におけるランキングの重要性については上で述べた。

その価値の高さ故に、ランキングを不正に操作しようとする人々の試みを刺激したのだ。

以下において、ランキング仕様の変更からざっくりと4つの時代に区分して概要を述べようと思う。勿論、ランキング工作についても記述していく。

昔のランキングについて基本的な仕様を解説することまではしないので、分からないという人には各自調べていただきたいと思う。


マイリストは存在感を誇っていた

(γ)~(ββ)までの時代を指すことにしよう。

当初の仕様は、マイリスト24時間積み立て式ランキングであり、5時に積み立てた値がリセットされる。

どういう経緯でこのような実装となったのかは不明であるが、ユーザーを最も集める夜間~深夜帯は15時間以上の積み立ての結果が表示されるため、不正な値の影響が正当なマイリスト増によって相殺されるであろうと予想したのだろうか。

早朝のランキングには、閑散とした時間帯における1時間のマイリスト数の増分が表示されるため、単独ないし少数の連携による工作が非常に有効だった。

特に初期、γの時代は一つのアカウントでもフォルダごとにカウントされてたので、一つのアカウントで25まで増やせた。

バージョンがRC2になってからは、同じフォルダ内に同一動画を重複して登録できないというのもあり、フォルダを作成上限まで作り、マイリストを1つずつ登録し、それ以上増やしたい場合はアカウントを用意する必要があった。もちろん、IPを変更せずに連続登録してもマイリスト数を増やすことが出来ないため、Proxyを経由して登録作業を行う必要があった。ただし、このIP規制が存在するのは同一アカウント内に限定されていた時期があり、高々フォルダの数だけProxyを用意すれば良かった。(フォルダの作成上限はその後5→25→50となり、IP規制は異なるアカウントに対しても有効となった)

このように、マイリストが操作の主な対象となっていた。規制は十分ではないのは言うまでもないが、Proxyを用いない直接接続であってもマイリスト登録自体が相当に重い作業であったので(連続的な登録にインターバルが設けられていた時期がある)、規制の緩さに対して操作の規模は控えめであったと言わざるを得ない。(時速数百マイリストが一般的な値)

もちろん、マイリスト偏重主義にも修正が加えられ、再生数基準のランキングも設けられたが、評価を示すパラメーターとしてのマイリストに対する信頼の高さは保っていたように思う。というのも、マイリストは「もう一度見たい」というブックマーク機能を兼ねるものだから視聴の感想を示す性質があるし、アカウントに対して登録の上限数があるため、(工作以外では)再生やコメントのように何度も繰り返し行って増えるような性質がないからである。

とはいえ、無制限に増やせるという再生数の性質に着目する工作員もそれなりに存在しており、nicohistoryという視聴記録を担うcookieを削除して定期的にアクセスするようなブラウザを操作するスクリプトは普及した。


運営の失敗と工作の転換期

2009年の夏に決定的な出来事があった。いわゆる「工作支持スレ」において65536アカウントを保有すると自称する人間が登場したのだ。65536とは、プログラムによって自動生成したアカウントを記録するExcelの行数上限の数であり、彼は工作の技術的進歩に大きく貢献した。そもそも、アカウントの自動生成は技術的困難であると思われていたし、彼は再生数のカウントをさせるためのAPIを特定した上で、前代未聞の速度で再生数の操作を行った。上述の通り、それまでの再生数工作は動画読み込みを伴う原始的な自動化が一般的であったのだが、「6万垢」は1時間あたり数万~数十万を操作できるという、工作の新しい可能性を示したのだ。

彼の登場によって、内部的に存在する再生数カウントの規制が明らかになった。直近で多くの者から視聴されていないと判断された動画は「下位サーバー」に割り当てられている。下位サーバーでは、複数のアカウントを用いることで(IPが同一であっても)APIを用いることで高速かつ無制限に再生数を増やすことが出来る。さらに、この仕様を最大限に利用することの出来る脆弱性があった。ログイン後に取得するuser_sessionを持って動画ページにアクセスしてnicohistoryというcookieを取得して、nicohistoryに10秒間の有効期間があることを留意しながらAPIエンドポイントにアクセスすることで再生数が増えるのだが、user_sessionとnicohistoryはアカウントの対応関係を無視したものだった。つまり、(使用する回線の速度とPCの性能に応じて)10秒間にAPIを叩ける回数だけnicohistoryを取得すれば良かった。

もちろん、このようなやりたい放題の状況は時限性のものであった。下位サーバーに対して「上位サーバー」というものが存在し、これは直近で多くの者から視聴されていると判断された動画に対して割り当てられ、再生数のカウントアップのためには異なるIPからアクセスする必要が出てくる。また、新着動画が更新されるタイミング...10分をインターバルにしてサーバーの移動が行われる。この再生工作を実施した動画は必ず上位サーバーに移行するので、「10分間のうちにどれだけ再生数が増やせるか」が重視されることとなった。

また、ニコニコ動画のバージョンが(9)に切り替わった際に、「総合ポイント」というものが実装され、再生数・マイリスト数・コメント数を合算して順位が決まるようになったことで、再生数を操作するモチベーションが更に高まった。

2009年に入ってからはユーザー生放送の開始、ボカロや東方ファンの人口の急増等によって、ニコニコ全体が大変盛り上がっていた頃であり、従来の手作業による工作ではランキングに対する影響力を保てない状況であった。この時期においても、時速数万~数十万規模で再生数を増やせるとなれば、工作になおランキングの上位を約束する力があると言えた。これにより、プログラムを利用した再生工作の重要性を多くの者が認識したと言える。

この時代は「大工作時代」と呼ばれる。大工作時代を支えたもう一つの仕様変更がマイリストにあった。

上述の通り、マイリストはIPによる規制を受け、その規制はアカウントを横断するようになり...つまり動画のマイリスト数は「その動画をマイリスト登録しているIPの数」を指すようになっていた。しかし、(9)になってからマイリスト実装当初の規制に逆戻りしたのだ。つまり、増やしたいマイリストの数だけアカウントがあれば、直接接続でマイリストを増やせるということである。6万垢に刺激されて、多くの者がアカウントを大量に保持し、プログラムを駆使し始めたこの時期に規制が緩まったことは重大な影響を与えた。大好評の動画であっても、1日かけてせいぜい数千~2,3万マイリストを集めることが多かったのだが、この数字は単独の人物がわずか1,2時間で達成できる目標となったのだ。

さらに、「とりあえずマイリスト」という新機能が実装されたのだが...

この重大性については後述することとする。


工作の精鋭化と広告バブル時代の到来

「大工作時代」は、工作を有利にする数多くの仕様の存在と、工作のスクリプト化によって成立していた。この時代を象徴する出来事が2009年の大晦日(糞晦日)に起こった。いわゆる「将棋盤」を使い、カテゴリグループをそれぞれ制覇するように6つの動画を用いたランキングの完全な操作が行われたのだ。ご存知でない方には、ランキングアーカイブスからその詳細を見ていただきたいのだが、6つの動画それぞれに対してマイリスト1万、再生数10~40万の操作が行われたのだ。

マイリスト工作に関しては、規制の逆戻り現象は比較的早期に(2010年1月であったと思う、「糞晦日」の約10日後だったはずだ)修正がなされた。ただし、API(getflv)を用いた再生工作については、約3年後(2012年の10月)まで一貫して通用した。この仕様がまかり通っていた時期を象徴する事件が「伝説のアルパカ」騒動であり、サービス初の1000万再生が1日あたり500万再生の工作によって到達されるという、屈辱的かつセンセーショナルな出来事であった。

この時になぜ対策がなされなかったのかというと、その当時の運営は「非公開状態でも再生数が増やせる」という仕様が悪用されたのだと解釈した。この仕様を塞げば無限に再生数が増やされることはないと推測したのだろう。確かにこれならば、再生工作がなされたとしても、その動画はランキングに載る等して上位サーバーに移行しアクセス制限を受けるため、1日500万再生ということは二度と起こり得ないように思えた。API利用の再生工作によるランキング操作は、工作があくまで1回限りしか実行出来ないから許容できるとの判断だったのだろう。

2012年10月、再生工作について大きな制限が設けられた。それまでのニコニコ動画では、視聴履歴はcookieで管理されていたのだが、ユーザーひとりひとりの視聴履歴はサーバー側に保存されるようになった。これ以降、nicohistoryの使いまわしが不可能となった上に、同一アカウントから再び再生数を増やすためには、10分以上のインターバルが必要となった。一方で、アクセスを集中させると同一IPで再生数が増やせなくなる制限は変わらず存在していたので、増やしたい再生数だけアカウントを用意しなければならなくなった。従来では2000アカウントを用いて、32アカウントでnicohistoryを取得して、32スレッドで10秒間に2000回APIを叩けば10分間で12万再生増やすことが出来た。同様のことをするためには、「nicohistoryを取得してAPIを叩く」ことを12万アカウントそれぞれで行わなければならなくなった。更にいうならば、nicohistoryは動画視聴ページから取得するので、APIを利用する通信より負荷が高い。そのため、アカウントを大量に持つ人でも、かつてのような効率的な再生工作は完全に不可能となった。


バージョン(9)以降は「総合ポイント」が導入されたと述べたが、そもそも、「総合ポイント」の計算式によるとマイリストは再生の15倍の価値を持っているし、先述のようにマイリストは高評価の程度を推定するような役割を持っていたため、マイリストを操作する重要性は変わらず高かった。極端な話、サムネやタイトルがユーザーを引き付けるものであれば、つまり釣り動画として優秀であれば、再生数は容易に増やすことが出来る。しかし、視聴した人の多くが「もう一度見たい」と思わなければマイリスト登録はされないので、ランキングに掲載されたとしてもマイリストが伸びるとは限らないのだ。また、公式のランキング以外の「週刊ニコニコランキング」や「週刊VOCALOIDランキング」等でもマイリストは高い補正値を持っているため、それぞれで上位に入り多くの認知を得ることを欲するならマイリストの操作が求められた。では、マイリスト工作の環境はどうであったか。


そこで、私が最も問題視する機能である「とりあえずマイリスト(とりマイ)」が話に非常に関わってくる。そもそもとりマイは(どのフォルダに登録するかといった手間を省いて)「とりあえず」登録する場所で、後日ユーザーが分類を考えながらそこから通常のマイリストに移動することを期待して設けられた機能であり、通常マイリストとは別個の扱いであった。そういう設計思想もあってか、通常マイリスト登録ととりマイ登録のIPが同一でも、2つのマイリスト数を増やすことが出来た。とりマイ実装当初はこの性質が注目されたのだが、「とりマイに複数の動画を連続登録しても何故かマイリストが増えない」という奇妙な性質が不利に捉えられたし、Proxy等を介さずに再生工作によってマイリストを数千数万と増やすことと同等の効果が得られたので、とりマイを軽視する人は多かったようだ。


だが実際には、とりマイの特殊性は工作の可能性を無制限にするものであった。具体的には、以下の仕様がマイリスト工作を有利にした。

  • 登録から5分経過すれば、同一IPから再度マイリスト数を増やせる

  • 100件を超える登録は古い登録を自動解除する「押し出し登録」の性質がある

  • 通常マイリストと併用することでアカウントあたりの効率が1.04倍(25→26)になる

  • Proxyの数あたりのマイリスト工作の1時間あたりの効率が13倍(n→n+n*(60/5))になる

  • 同一ポイントあたりのアカウント効率が15倍になる

しかも、ランキングに載る等して上位サーバーの制限を受けたとしても、マイリストは変わらず増やすことが出来たため、長期に渡ってランキングに関与することが可能であった。この性質に着目した者は少なからず存在したと思われるが、2010年1月に通常マイリストの規制退化が是正されたように、とりマイの仕様が変更されることを恐れた人が多かったように思う。というのも、そもそもマイリスト工作は「高評価であることと偽る」機能があり、視聴者を呼び込むことを目的として求められることが主であった。そのため、VOCALOIDや歌ってみた、MMD等で支援者や投稿者本人によって密かに用いられた。さらに、「別の動画であっても、同一IPから5分以内の再登録はマイリスト数を増やさない」という仕様も、とりマイを秘匿のうちに利用させた。というのも、工作員は多くの場合で公開Proxyを用いてIPを変更するので、とりマイ工作が認知されればされるほど、5分以内に誰かが既にProxyを使っている「IP被り」によってマイリストを増やす効率が落ちるからだ。


このような慎重が運用が続けられていたにも関わらず、既に述べたように再生工作が最早「コスパが悪い」ものとなったので、以前と同じようにランキングを支配したい人はマイリストを数千数万と増やすようになった。マイリストだけ増やすことが出来ても、マイリスト数が再生数を上回る事態が起きれば不正が認知されてしまう。再生数を増やすためにも、アカウントを生産しなければならない。以前にも増して、工作員たちはアカウントの生産に邁進するようになった。ちょうどこの時期に、アカウント生成の際にIP規制が撤廃されたこともこの状況を加速した。更にいうならば、スパム対策として設置されていた画像認証が非常に単純な構造で、多少の回転をさせたのち、フリーのOCRを用いれば文字を正しく認識する精度が高かったため、容易に突破出来た(実証した動画)。さらに、認証をクリアしたセッションを使い回せたため、律儀に一つずつ画像認証をクリアせずとも2000,3000程度なら一瞬にしてアカウントを発行出来た。このようにして、スパムアカウントは量産され続け、IDの発行数はユーザー数を全く示さないようになった。2022年7月現在、ニコニコのIDは1億3000万程度に達したが、私が知る限り、「少なく見積もっても」このうち2000万~3000万程度は不正に取得されたものであると思う。(このうち1500~2000万程度が私が生産したアカウント)



ニコニコ運営も工作に対して無策であった訳ではない。上述の通り、再生工作に歯止めをかける変更はなされたし、2015年頃からはマイリスト工作にも手が加わった。アカウントの振る舞いを追跡調査して、短期的かつ機械的なマイリスト登録をしたアカウントからはマイリストを増やせないような「透明BAN」処理を行うようになった。更には、同一アカウント内の登録はマイリストを複数回カウントさせないようにもした(つまり、25個フォルダを作って25回マイリストを増やせたのだが、1回しか増やせないようになった)。


いわゆるthread_Id(スレッドID)の発行を利用した無限マイリストも対策が入った。スレッドIDとは、投稿日時のUNIX timeで与えられるIDのことで、内部的にはこのIDで動画を区別する。動画IDがsm19537579ならスレッドIDは1354993084が該当する。ここで、ユーザー投稿動画(sm19537579など)をコミュニティに登録したり、マイメモリーに保存することで新規にスレッドIDが発行され、シンボリックリンクとしての役割を果たすことを確認する。


  • スレッドIDが異なれば別の動画として扱われ、同じマイリストに複数回登録できる

  • コミュニティ登録を解除したり、マイメモリーが削除されるとスレッドIDが消失して、同じ動画に対してスレッドIDを新規に発行できる

  • とりあえずマイリスト登録後にマイメモリーを削除すると、とりあえずマイリストの登録を解除してもマイリストが減らないというバグがあった

つまり、このようなことが出来る。

  • 工作対象の動画IDを100回マイメモリーに登録してスレッドIDを発行する

  • 異なるIPでとりあえずマイリストに100スレッドID登録する

  • マイメモリーを削除する

とりあえずマイリストは、上限を超えて登録しようとすると古い登録を自動で解除するのだが、マイメモリーを削除すると、押し出された登録によってマイリスト数が減ることはなくマイリスト数が増加する。つまり、5分以内にIPが重複しないようにすれば、1つのアカウントでマイリストを無限回増やすことが出来た。この仕様は実際に超々アルパカに対して1000万マイリストを実現するために使った。

前提として、マイリスト工作はアカウントを大量に生産せねばならないことが最大のネックである。使い捨てのアドレスのほとんどがBAN対象であったり、独自ドメインを取得してメールを認証させると殆ど確実にアカウントが無効化されるため、アカウント生産にあたってはメールアドレスの確保が難関の一つであるからだ。そのため、とりマイの特殊性が露見しても、アカウントという制約がある以上はランキングに影響を及ぼす人物はそこまで増えないであろうと私は考えていた。だが、この仕様は私の安心を吹き飛ばした。果たしてこれを悪用する人がどれほどいるのか、秘密裏に調査することにした。

平均的増加から外れて不審なスピードで新規発行されている際のIDを保存して、このようなアカウントを工作用アカウント疑惑群と仮定した。この群のニコレポを全走査し、とりあえずマイリスト登録にマイメモリーのスレッドIDが用いられているかを見た。結論から言うと、この仕様はVOCALOIDの支援やMMD杯の優勝争いに使われた形跡があった。私はアカウントの大量生産手法を確立させていたので、このような「抜け道」が存在しても何ら得にはならず、一方でこの抜け道の存在は競合の工作員の勢力の根源となっていると感じた。超々アルパカやその時期に行った他の工作にはこの仕様を用いたのだが、これを運営に対策させて他の工作員を潰し、私が相対的に存在感を高めることを狙っていた。

追記:当時の仕様が一部残っていた時代があり、その頃に収録したものを貼っておく(かつて存在していたマイリストの仕様)


以上のように、大工作時代の遺産は長い時間をかけながら段階的に対策がなされ、2015年頃には、工作員はアカウントを大量に生産出来る者のみに限られることとなった。2015年以降の工作員は少数精鋭となっており、6万垢が行った「本格的男尻祭」のデモンストレーションのようなことでさえ、下図のように(2017年9月)可能であった。

2017年以降はランキングそのものの信頼性が低下することとなった。

2018年2月、遂にニコニコで非ログイン視聴が可能となった(ニコニコインフォ)。当時は既にYoutubeとの勢力差が明らかになっていたのだが、ユーザー利便性を向上するであろうこの変更は歓迎されるかに思えた。しかしながら、この際に再生数のカウントが「視聴ページへのアクセス」へと条件が緩和されたため、工作が激化することとなった。Rotating Proxyなどを用いて複数のIPを経由して工作を行うことが裏で普及したし、先述の通り、そもそも工作の技術的障壁はアカウント確保の困難性であるから、このような変更は無制限の工作を即座に可能とした。超々アルパカの1億再生は非ログイン視聴によって実現したのだ。


また、先のマイメモリー法を封じさせて工作員の多くを排除することに成功した後に、私が「工作ビジネス」を開始したことも、再生工作の激化に拍車を掛けた。基本的に私は難読化を施して工作ツールを販売して利用を一元管理していたのだが、購入した者の中にツールを改変する者が現れて、VOCALOID・歌ってみた界隈で工作を普及させた。最終的には数百人以上にツールが行き渡り、ツールの再販を行う者は海外にまで現れた。

更には、非ログイン視聴が可能となってからは、彼らはRotating Proxyを独自で契約する等して、数万のIPアドレスを駆使しながら24時間体制で100を超える動画の再生数を増やすようになった。ヘラジカと う ふ さ ん を す こ れの工作員も元々は私の顧客だったのだから、私が間接的に責任のある部分は大きいと思う。特に2018年,2019年はランキングは再生工作によって全く崩壊した状況であった(当時のスクショ動画)。


この時期と重なる形で、ニコニ広告の影響が決定的となった。それまでは、総合ポイントを概算する際は再生とマイリスのみを考慮すればよかった。なぜならば、一人で何回も投稿できるコメントは補正値によって影響を無視出来るし、ニコニ広告は1ptあたり0.3倍にまで補正される上に、無料ではランキングに載る程度の大規模な広告をすることが不可能だったからだ。

しかし、2017年以降は状況が一変した。ニコニ広告を無料で行えるチケットが全ユーザーに高頻度で配布され、広告チケットも「福引」というキャンペーンで容易に入手出来た。さらに、チケットを用いた広告や福引自体によって、福引をする権利や広告チケットを得られるようになった。さらに投入した広告ポイントは即座に還元されるので...広告バブルの到来である。投入された広告ptsが0.3倍されるとはいえ、ランキングに対する効果は絶大なものとなった。当時の総合ポイントの内訳を示した動画がこれである。シェアとしては、7割が広告で2割が再生、1割がマイリスである。無料で配布されるチケットを投入しても、従来では数万円相当の課金を要するような広告が可能となったのである。広告に際して課金をする場合は、雪だるま式に投入出来るポイントが増える。現実的な額を課金する単独の広告主によって動画がランキングの上位に載ることが日常となった。


再生工作の常態化とニコニ広告バブルによって、ランキングは最早「ニコニコの流行を知る場所」「人気の動画を探す場所」としての機能を全く提供しない状況となった。そもそも、工作・(少人数による高額な)ニコニ広告の両者が「人気の実態を無視して結果を歪める」行為である。このような「ノイズ」がむしろ主体となってしまったランキングに対する信頼は地に落ちた。


皮肉にも、広告バブルの末期においては、数万のアカウントとIPを用いて、例えば再生数を20万、マイリストを2万増やすなどの大規模な工作をしなければランキングの1位を取ることが出来なくなり、工作の影響力は相対的に低下した。また、ニコニコ自体のアクティブユーザーが減少した上に、ランキングの信頼性の低下によりランキングそのものを利用するユーザーが減ったために、工作・広告の周知効果は著しく低下した。工作員・広告主は、満足する効果を得るために工作と広告を大規模化させることを迫られるスパイラルに陥ったのだ。


ビジネスの観点からすると、ニコニ広告のバブル化は一定の評価が出来ると思う。ニコニ広告をバブル化させることを意図したのか否かは不明であるが、広告の需要を拡大させることは間違いないし、バブル化傾向の中でランキングという限られた枠を獲得するためには課金をすることが必須で、必要広告ポイントがインフレを続ける限り課金必要額もまたインフレするから、広告部門の収益は拡大するだろう。ランキングという内部のシステムを利用する都合上、ニコニ広告がいかに狂乱しようとコストがゼロであるところも優れていると思う。


ただし、広告・工作をする側にとっては悲劇的である。私がガチムチパンツレスリングというジャンルの工作員グループに属していたとき、当時の仲間から工作を自重するように暗に言われていたのだが、この忠告が意味するところをこの時理解したように思う。忘れがちだが、工作が注目され効果を発揮するのは、ランキングが信用されているからだ。そもそも工作はランキングの価値を損なう行為であるから、実行する機会を吟味しながら、必要でない時には「工作をしない」選択を選び続けることが、将来の工作の価値最大化には不可欠ではないか。


この時期から、私は過去の行いについて非常に後悔するようになった。私以上に工作を行う者が複数出現したこと、広告という「正義の工作」の熱狂を見たこと、これらの経験は私の姿を相対化して捉える機会となり、長い執着から解放されるきっかけとなったのだ。

(下図はとある日の旧ランキングの末期。黄色が広告主体で赤色が工作主体。)


レガシーとの決別

これまでニコニコ運営は工作に有利な仕様を放置するなど、ランキングに対して放任な姿勢を取っていた。しかし、根本的な解決を組み込んだリニューアルを施すことで、ランキングを生まれ変えることに成功した。

運営の意図や変更の詳細は公式を参照していただきたいのだが、ニコニ広告の排除とランキング工作の無効化が修正点の主要部分である。

ニコニ広告の排除については、そもそも広告は周知を目的とするものなので、ランキング順位を変動させる機能を持つのは必須ではない。検索画面にサムネイルを表示させたり、動画視聴前に動画の一部を映り込ませる等のやり方でも十分な広告効果があるはずだ。


工作については新たなアプローチ、しかもクリティカルに効く方法を採用した。そもそも、ランキングは順位こそ必須であるものの、律儀に集計ポイントを表示させる必要がない。しかも、旧ランキングのポイントは再生数やマイリスト数等から容易に推測することが出来るため、ランキング操作を目的とする者にとって、動画統計数値の操作が明確なターゲットになっていた。もちろん、自分の投稿動画やファンの投稿動画を「より人気である状態に見せかけたい」という動機で工作を実施する者も多い。必ずしもランキングに載せてやろうという動機で数値を操作する訳ではないということだ。再生工作やマイリスト工作など、ニコニコ動画そのものの信用を毀損する行為がランキングを機能不全にする行為を兼ねている状態こそ問題であるのだ。前者(つまり数値の操作)を完全に対策することが難しくても、ランキングの信用を取り戻すような改革は可能であり、これを優先するべきだという決心が新ランキングを生み出したと思う。

具体的には、ニコニコ運営は、ランキングの生成ロジックを複雑化、不可視化させることで、ランキング操作に対してほぼ完全な抵抗性を持たせた。順位決めをするために内部的にはポイントが存在するとしても、何がパラメーターとなっているのかが不明のままであれば、工作員は操作のターゲットを決められず、プログラムの設計が不可能となる。

また、サービスの管理者であれば、再生数やマイリスト数をカウントさせる条件を自由に設定することが出来るし、ユーザーが動画を視聴したりマイリスト、いいね!を押す際にそれ以上の情報を収集することが出来る。アカウントのプレミアム会員資格の有無、アカウント開設からの経過時間、動画読み込み時間(視聴継続時間)、行動履歴の複雑性...ユーザーはこれら様々な情報を運営側に提供しているので、あらゆる情報を総合して信頼性のあるアクセスのみをランキング生成に用いることにすれば良い。

もちろん、工作員としてランキング生成ロジックに関わるであろうアクセスを推測し、再現しようと試みることは出来る。私の想像であるが、おそらく以下のようなことは新ランキングに関わるだろうと思う。


  • アカウントがプレミアム会員かどうか。基本的に、プレミアム会員は不正に増殖させることが出来ない。プレミアム会員によるアクセスは高い補正値を持つだろう。

  • メールアドレスが一般的であるかどうか。工作用のアカウントはフリーの使い捨てアドレスや独自ドメインのメールアドレスで認証させることが多い。こういったアカウントは集計から除かれているだろう。より厳しく設計するならば、主要なドメインのみを信頼性ありと判断して、それ以外を無視しているだろう。

  • IPアドレスが一般的であるかどうか。単独の者が複数のIPアドレスを経由させて通信する場合、Proxyを用いることが多い。Proxy特有の環境変数を吐くアクセス、不審なリモートホストからのアクセスはそもそも集計非対象とされているであろう。より厳しい設計ならば、日本国内のIPのみを集計しているだろう。

  • 動画の視聴時間を計測している。大規模な再生工作は全て、ブラウザを用いず、視聴ページに対するHTTPSアクセスしか行っていない。動画の一部が実際に読み込まれた回数を再生数として計上している。そうでない場合でも、動画の読み込みに際して実行されるスクリプトなどがトリガーになっている。

私の想定では、「少なくともこれら全て」が加味されていると思う。実を言うと、上記の4つは全て確認済みなのだ。まず一番上については、プレミアムアカウントを200個程度不正に生産して再生を行ったところ、ランキングに載った(当時の様子)。


具体的には、以下のような思考を経て、プレミアムアカウントの重要性に気付いた。

総合ランキングの上位を見ても、様々なユーザーがアクセスしているため、仮に不正なアクセスが含まれて、それが排除されない形で集計されているとしても、その条件を推測することは難しいと考えた。そのため、いわゆる「過疎」のジャンルの、集計される数値が小さいような順位の動画で、しかも不正によるアクセスがランキングに反映されてしまっているケースから考察することにした。

上図は2019年8月のダンスジャンルのランキングである。同様の順位に同じ投稿者の動画が並んでいることが分かる。


その動画の統計を見てみると...なんと僅かな再生数が毎日増やされている動画ではないか。おそらくは再生数が重視されているのだろう。だが自分の持つアカウントから、この再生数の100倍増やしても全くランクインしない。なぜか?平均288再生/日程度の増加なのに...こんな数字、投稿者本人が自分の動画を再生するだけで済むではないか。

ではその投稿者は...プレミアム会員であった。ひょっとすると、アクセスしたアカウントがプレミアム会員であるからランキングで有利に働いたのではないか?例えば、再生工作された動画は、そのアクセス元はほとんどスパムアカウント、つまり一般会員である。つまり、プレミアム会員のアクセスのみを集計対象としているのではないか?となると、この動画によれば288再生/日、すなわち5分をインターバルとして、複数のプレミアムアカウントを用意して視聴ページを取得するプログラムを書けば良い。


そして実際にこの仮説は証明された。幸運にも、無料かつ匿名でプレミアム会員でアカウントを生産する方法を思いついたので、本来なら検証困難なこの説の正しさが証明された。これを見た人はこの方法をトライするかもしれない。だがこれを機にプレミアムアカウントを数として集計するインターバルが5分から1時間以上に延長されてプレミアム会員をより多く求めるようになったし、プレミアム会員の資格を得るための条件がより厳しくなった。というか、プレミアム会員を増殖させるために使った方法がこれ以来実行できなくなった。私は法律には明るくないが、金を払わずに有料サービスの権利を得ることは恐らく何らかの犯罪に違いないので、そういった意味であまりお勧めは出来ない手法だ。


他にも、最後の項「動画を実際に読み込ませる」ことの正しさも検証済みだ。Selenium等を用いてブラウザを操作し、Rotating Proxy等を経由して複数のIPアドレスを経由させることで、複数の実在のユーザーが動画を視聴しているように振る舞わせるのだ。ただし、これは相当にコストがかかる。ランキングに反映させるためにはそれなりの試行回数が必要だし、Proxyを経由しながら実際に何秒か再生させる以上、1回あたりの処理時間が長くなるため、速度を出すにはブラウザを並列起動させねばならない。そうすると個人用PCではマシンスペック的にも回線帯域的にも難しいから、AWS等の上位スペックのサーバーを借りて実行させなければならない。Proxy代金に加えてサーバー代金も発生するため、富豪でもない限りこんなことは出来ない。実際にランキングには載る方法ではあるので、興味がある方はトライしてはどうだろうか。


2020年7月、ついに「とりあえずマイリスト」が廃止された。新ランキングに通用する形でマイリスト工作が行える人物が仮に現れたとしても、通常マイリストを用いた工作ではIPアドレスの数がマイリスト操作の上限となってほとんど効果を発揮しないはずだ。これは意味のある決断だと思う。しかも、マイリスト工作については以下のように個別の規制が積み重なっており、現在では非常に信頼性の高い指標となっている。


  • 簡易登録、ゲスト登録のみを済ませてメール認証が未完了のアカウントからはマイリストが増えないようになった。(以前は、アカウント生成APIを叩いて返ってきたuser_sessionでとりマイをすることで無制限にマイリスト工作が可能だった)

  • 大手キャリアのメールアドレスや一般的なメールアドレス(gmailなど)で認証したアカウントでのみ、海外IPからのマイリスト登録で数値を増やせるようにした(独自ドメインでのアカウント生成とProxy経由の登録を無効化)

  • 一般的でないメールアドレスで認証したアカウントは、国内IPでのみマイリストが増やせるようになった

可能性の話として、現行の新ランキングでは不正を排除できない例が見られたとしよう。この場合でもランキング生成の不透明化が有効に作用する。プレミアムアカウントが関与していると私が見抜いた後に、運営が即座に規制を改定したように、運営は不正に対する対処をランキング生成ロジックのルールに追記・修正を加えることで可能にしている。修正内容は不正検出の閾値を変更したりするような過小なものであっても良いし、加味するパラメーターの追加、パラメーターの定義の変更(例えば「マイリスト数は再生を行ったアカウントが登録したものに限るようにする」ことで機械的な登録を排除する、とか)を行うような形式も有効だろう。新ランキング以降時には旧ランキングとの連続性が損なわれることを心配に思うユーザーも存在していたが、運営としてもそれは承知の上であると思う。これは告知されていない事項だが、新ランキングにおいては、必要に迫られればそのロジックはこれからも進化するものとなっているから、現行の新ランキングは旧ランキングとも連続性がないし、以前のバージョンの新ランキングとも互換性がないのだ。新ランキングは、「現時点で最も正確に視聴者の人気を示す」という運営の思想や解釈を反映させたシステムであるという意味では連続性があるとも言えるため、ユーザーが運営をいかに信頼するかでランキングの価値が決まるかもしれない。

総じて、現ランキングは非常に優秀なシステムであると思う。数値が見えないのは確かに寂しい感じも受けるが、検証を経てきちんと人気の程度が測定され順位決めがなされているのは十分に理解出来た。ランキング改変にあたっては「工作の対策が完全になされた」と高らかに宣言された。私としては、運営から大胆な挑戦を受けたと捉え、これを解析して工作実行可能であることを示そうと意欲に駆られたことがあったことは認める。だが一度は成功して満足が得られたし、もう不穏な考えはない。


総括

ニコニコのランキングは工作員を含めた多くのユーザーの興味の対象であった。ランキングは不正との戦いをしながら歩みを進め、ランキングそのものが機能不全となった長く悲惨な時代を経て、レガシーを切り捨てる大胆な改革によりその地位を取り戻す試みが今なされている。

私がこの記事を書いたのは、ランキングに関わる闇がほぼ駆逐されたと確信したためでもあるし、工作に携わる人々もまた消えたと感じたからだ。この記事では工作について面白おかしく書いたが、ニコニコを愛する者の一人として反省する気持ちは大いにある。

私自身、不正が不可視化された今のランキングとニコニコをとても楽しんでいる。万が一、状況に変化があれば、この記事に追記したいと思う。ともかく、最後まで読んで頂いた方には感謝を述べたいと思う。工作は思い出へ。ニコ厨と、そして運営に感謝を。


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