「季節のない街」はクドカンの愛に溢れたドラマ
まず、キャスティングが素晴らしいですね。濱田岳のろくちゃんを筆頭に、又吉直樹のリッチマン、藤井隆の島さん、ワイフ役のLiLiCoに至っては黒澤版で同役を演じた丹下キヨ子がAIで蘇ったと見まごうばかりの完成度!
山本周五郎の原作と黒澤版にあった「しんだんじんの平さん」のエピソードが選外だったり、原作では途中で退場する半助を「季節のない街」を執筆する作家としてメタフィクショナルに配置してみたり、島さんの影の部分を描いてみたりと「どですかでん」を黒澤明のベストムービーに挙げている宮藤官九郎が驚くほどほど自由に取り組んでいるのが意外だった。けれどもそんな宮藤官九郎(以下クドカンと称す)の姿は「どですかでん」とそこに生きている人々へのへの愛と憧憬にあふれており、その熱量はこれまでの宮藤作品にはあまり感じたことのない「泥臭い熱気」として伝わってきた。これは驚くことに黒澤版の「どですかでん」の感触にとてもよく似ているのだ。
けれどもただの憧れやオマージュだけでは終わらないのはさすがで、クドカンは原作や黒澤版では報われきれなかった登場人物たちを実に50数年の時を経て昇華させてしまった。特筆すべきはリッチマンの子供の死のエピソードで黒澤版ではたんばさんが掘った墓穴を見て父親が「プールができたよ」と場違いセリフを述べるのみだったが、クドカンは子供をプールに入れてあげてるのだ。
蘊蓄ばかり語りその日の糧も子供任せのあの父親にたった一つだけ望んだ夢「プールがある家に住みたい」をクドカンは叶えてあげたのだ。
クドカンはなんて優しさと愛に溢れた人なんだろうと私は猛烈に感動してしまった。優れたドラマは視聴者だけでなく想像上の人物の人生まで変えてしまうのだ。
映像的には黒澤明に及ばぬ点も数多くあるが(もとよりクドカンもそこに挑むつもりはなかったはず)キャスティング、オリジナルの設定、脚本の完成度ではかなり迫っているのではないだろうか?
クドカン作品が好きな人はもちろん、黒澤版を見たことがない人、黒澤の「どですかでん」を評価していない人たちに是非見てもらいたい作品です。
かくいう私も黒澤明のベストムービーは「どですかでん」だと思うのです。
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