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『神様探し』〜最終話 エピローグ〜


ヒヤシンスステークス
23年分の想いを込めた

俺の懺悔馬券は‥

惜しくも3着に終わった‥

【東京9R ヒヤシンスS 結果】

やっぱり簡単には許してくれねーか‥

あれは"一生"の約束だったもんな‥

他のレースを当てさせてもらってるだけ
ありがとたいと思わねーとな!

神様あんたはやっぱり

"優しい"


2001.2.18(日) 13時00分


俺は看護師さんに呼ばれた


『菅原さん!奥様の血圧が下がり危ない状態です!最悪お腹のお子様は‥。』


「そんな事言わないでください!なんとかお願いします!初めての子なんです!」


俺は看護師さんの言葉を遮る様に叫んだ


妻が分娩室に入って6時間以上が経過していた

妻が虚弱体質だということはすでに
わかっていた‥
だからこの病院を選んだ‥
失敗しない"ドクターY"がいる
この病院を‥

『菅原さん‥大変言い難いのですが‥
奥様の体力も限界です‥
どちらかを優先しなければいけない
可能性も出てきました‥。』

「そんな事言わないでくれよ!
両方助けてくれよ!
アンタは!
"失敗しない神様ドクター"
なんだろ!
どっちかなんて選べるわけ
ないだろぉぉ!!」


大きすぎる俺の声に男性看護師さんが現れ

『菅原落ち着いてください!
まだ大丈夫です!』


『菅原さん一旦外の空気を吸いましょう』


なだめられながら外に出された


俺には願う事しかできなかった


「神様これから俺に良いことはいらない
妻と子2人を助けてくれ!
もう競馬も一生当たらなくていい!
俺の今の"全財産"が無くなってもいい!
頼むから助けてくれ!」



俺の願いに‥
返事はどこからも聞こえなかった‥


そうだ‥!
願うだけは誰にでも出来る


実際にやってやる!
財布を覗くと3万円が入っていた



今の"全財産"だった


なかなか一瞬では使いきれない金額だ



俺は一瞬で使い切るため
走り出した



おいっ神様見とけよ!



本当に俺は
使い切ってやるからな!


時刻は13時20分


俺は目的地につき1番近いレースを調べた



『東京8レース ヒヤシンスS 13時30分』

俺は
"単勝"にマーク

"3万円"にマーク

馬番は第1子の"1番"だ!



こんな時に何やってるんだと
思ったが俺は本気だった



どうだ神!
約束通り使い切ってやったぞ!


俺はレースを見ずに全力疾走で病院に戻った



『菅原さん!どこ行ってたんですか!』
看護師さんは急いで俺を探していた
様子だった


「ちょっと神様と約束に‥」



『おめでとう御座います!
お子様!無事産まれましたよ!』


「ほんとですか!!妻は」


『奥様もお元気ですよ!
おめでとうございます』


大粒の涙を隠しもせず
俺は外に出た‥


「神様!サンキュー!
お前本当に"優しい"んだな!」
どっちにいるかわからないが
とりあえず適当に叫んだ

病院に戻ると
疲れた表情の"ドクターY"
が分娩室から出てきた‥

『菅原さん‥どこ行ってたんですか‥
アナタのおかげで6.2%の
危ない橋を渡らせましたよ‥』

「先生!本当にありがとうございました‥」


泣きながら心の底から感謝した


『まぁ私にとっては‥
成功しそうな6.2%を選んだだけです‥
わたし"失敗する方は選ばない"ので‥
ところでどこに行ってたんですか?』

「本当申し訳ありません!
 "俺の全財産をあげるから助けてくれ"と
 神に約束したので本当に競馬で全財産
 使いきって来たところです。」

『ははっ!競馬!?
 菅原さん実に面白い!そのおかげで
 きっと奇跡がおきたんですね!
さっそれより早くお子さんのお顔を
見に行ってください!』


病室に戻ると
妻と産まれたばかりの
俺の子が元気に泣いていた



「よく頑張ったぞ」




『あなたどこ行ってたの?』
妻は弱った声で聞いてきた


「神様に安産祈願を‥」


泣き疲れた俺の子はスヤスヤと眠った


可愛い女の子だった

『それであなた名前は決めてくれたの?』


前から言われていたが
決めていなかった


ポケットからさっき買った神様と
約束馬券が出てきた


『美香』にしよう


「菅原‥"美香"‥良い名前ね
どうして?」

俺は正直に馬券を見せた

『ちょっとあなた本気で言ってるの!』


「俺は本気だ!」


『将来名前の由来聞かれたらなんて言うの!』

「それはお前が考えろ」


『ていうか!この3万円てどう言う事!
出産費用もあるんでしょうね!
返ってくる費用だけど先払いだって
言ったでしょ!?』


‥‥‥


神様との全財産の約束だからもうない‥


誰に借りようか‥


そういえば"使い切る約束"だったから


負ける前提だった‥


レース結果すら見ていなかった

はっ!!
「ちょっと待ってくれ」


レース結果を確認した


東京8レース ヒヤシンスS
「1着 1番 ミカダンディー」

2001.2.18 ヒヤシンスS結果


「おぉーーい!!」
『うるさいっ!』



神様からの粋な"御祝儀"だった



こうして俺は
神様の粋なご祝儀のおかげで
無事出産費用も払うことができた



そして‥退院日



「結局女の子だから良かったけど
もし男の子だったら名前どうしてたの?」

『えっ‥

"ダンディー"』


「本当アンタは
最低な父親だわ!」

このあと"この子"が本当に
"ダンディー"というあだ名になるという事を
二人はもちろん知る由もない‥



"神様"は"優しい"

どんな人にも平等に現れ

願いは叶えてくれないかもしれなが‥

"過ち"は許してくれる

「本当ごめんて!!愛してるぜぇ!」

『ゆるさないっ!』


神様""優しい‥


『神様探し』
完  

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