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『神様探し』〜プロローグ〜

"私は決して‥


神様なんかではない‥"



先人の方々が積み上げてきた

医学に基づきオペをしているだけ‥


午前中に点灯した
分娩室のランプは


すでに正午を超えていた‥

"先生‥もし‥
この子かわたし‥
どちらかになるとしたら‥
この子を助けてくださいね‥"

6時間前の妊婦の言葉が
頭をよぎった‥


医師としての判断では
その答えは"NO"
だったが言えなかった


"そんな事言わないでくれよ!
両方助けてくれよ!
アンタは!
"失敗しない神様ドクター"
なんだろ!
どっちかなんて選べるわけ
ないだろぉぉ!!"


10分前に選択を迫った私の言葉で
取り乱した旦那さんの声が
胸に刺さった‥


誰が呼んだか‥

産婦人科医の"ドクターY"


私はドラマの主演でもなければ
失敗しない神様でもない


『私‥失敗しないので‥』

確かに私が今までオペを失敗
した事はない‥

100%成功している‥

しかし正しくは‥

『私‥失敗しない方を選んでるので‥』
が正しい表現だ‥


だから私は‥
失敗しない神様ドクター
なんかではない‥

先人の方々が築き上げてくれた
医学を勉強し
ひたすら身につけただけの‥


目の前の妊婦と子供‥
両方を助ける事も出来ない
ただの産婦人科医だ‥

彼女が虚弱体質とわかっていた‥
絶対に産みたいという彼女の希望と
わずかな希望に賭けてみたが
やはり‥止めるべきだった‥

彼女の体力も限界がきている‥


最悪なパターンは
二人とも‥

医師としてそれだけは
避けなくてはならない‥


「吉田先生!!患者の
血圧かなりが低下しています!」

『よしわかった!
 旦那さんを急いで呼んできくれ!』

苦しい選択となるが‥

最後の選択は旦那さんに‥

母子共に無事に出産できる可能性は‥

冷静に見積もって‥

"6.2%"

そんな危険な橋を
私は渡らせることは出来ない‥


「吉田先生!!大変です!」

『どうした!?』

「菅原さんがいません!」


『そんなハズないだろ!
 10分前にはいたハズだ!』


「先生!患者の血圧が急低下!!
体力も、もう限界です!」


成功確率‥

"6.2%"

"神様は乗り越えられる者にしか‥
試練は与えない‥"

新人時代に先輩に言われた言葉だったが
今まで"乗り越えられる方"を選んできた
私はには響かなかった‥

神よ‥

それにしても
"6.2%"の試練は厳しいだろ‥

こんな時に
不謹慎だが例えるなら
競馬の16頭だてレースで
適当に単勝を選んで当たる確率だ‥

時刻は13時30分‥

競馬が趣味の私は
"ヒヤシンスステークス"の
出走時刻だとすぐにわかったが‥


今は手術に集中だ‥


神は乗り越えられる者にしか
試練は与えない‥

か‥‥


誰が呼んだか‥



私は失敗しない産婦人科医


"ドクターY"

今日も失敗しない方を選ぶだけ‥

"6.2%"の‥

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