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『ピンハイ』〜3杯目〜

–中京新聞杯と小柄な球児–
イカルの競馬小説No.005

 『マスター!それで桜花賞の結果は?!
  ピンハイはどうなったんだ!?』

 「本当に便利な世の中になりましたね‥」

 私は携帯電話を取り出し【2022 桜花賞】と検索し項目をタップした‥

 私の上に設置している大きな画面にYouTubeがアップされた‥

 「こちらがOUKASYOの2022でございます。」

 『うぉー!やるじゃんマスター!
  ピンハイは何番だった!?』

 「ピンハイは赤帽子の5番‥
  ちなみにですが‥このレースでは
  大穴の13番人気でございます‥」

 薄暗かったカウンターが画面の光で明るくなった…

 小柄なお客様による桜花賞実況が始まった‥

 『おいおい!ピンハイ結構後ろじゃねぇーか!?大丈夫かぁ』


 『ラスト直線!!ピンハイ内側に行ったぞ!!そこは厳しいだろ!』

 『まさか!そんな狭い隙間からいけるのかっ!!』

 『うぉーー!いったぞ!これはあるぞ!
  いけーピンハイ!』

 私はまるで生中継で見てるかのように
 実況に夢中になってる小柄なお客様のグラスに3杯目を注いだ‥

『あ゛ぁーーー!!』



『ピンハイ』〜3杯目〜
《ゲン担ぎ》


 デパさんの頭を抱えながらの

『あ゛ぁーーー!』


 そのリアクションで3着以内ではなかった事を察した‥

 近くでは、さっきまで
 『アナタに感情あるんですか?』と聞きたくなるぐらいの無表情だったおじさんが
 「ひゃっほー!スターズ最高!さすが川田大明神!ポンポーン!」と人が変わったかのように喜んでいる人もいた‥

 会場は試合終了後の甲子園の様な雰囲気でたくさんの人がザワザワしながら試合の余韻に浸っていた‥

 ピンハイは5着‥

 レースは終わった‥

 しかし僕のドキドキはまだ収まっていなかった

 久しぶりの高まった感情‥


 こうして僕はこの日から‥ピンハイと競馬のファンになった‥


『兄ちゃん惜しかったな‥ピンハイ次も熱いぞ!』

 残念ながらデパさんのラックにはなれなかった‥

 僕は『ピンハイ』と書かれた思い出映画の半券を大切に財布にいれた‥

 親切なデパさんにお礼を言い僕はWINSを出た‥

 あっ!


 僕はある大事なことに気付いた

 『電車賃の事忘れてた‥』

 なのに‥何故か爽快だった‥



 高校球児時代の快速を飛ばし日曜日の賑わう人混みのなか‥

 小さな体を活かし人混みをくぐり抜けた‥

 今日の桜花賞ラスト直線の「ピンハイ」のように‥


 それから、完全に競馬ファンになった僕は毎週競馬をチェックするようになった‥

 もちろんピンハイの馬券だけは必ず買い続けた‥

 そして月日はながれ2023年12月‥季節は完全に冬だが僕は季節外れの野球練習に参加してた‥

 『おいっ!そんなんじゃ東町に勝てないぞ!お前はカレイだ!カレイみたくドロにまみれろ!』

 魚屋兼コーチの激しいノックが僕を激しく左右に動かして冬の寒さを吹き飛ばした‥

「もう一丁!!」

 高校で野球を辞めた僕だったが

 スパルタ教育で鍛えられた守備の上手さと、しぶといバッティングをかわれて

 僕の住む南町町内会野球チームにスカウトされ『2番ショート』を任されたのだ‥
 社会人野球は負けたら終わりのプレッシャーもなく、今更だが野球の楽しさを感じた‥

 楽しい野球のハズなのになんでそんなに厳しい練習かというと…

 明日は東町町内会との町内会のプライドをかけた決勝戦だったからだ‥

 勝った町内会には優勝チームとして商店街に『優勝』と書かれたのぼりがたつ‥

 なぜか『セール』と書かれていないが、それだけで商店街の売り上げが必ず上がるらしい‥

 公務員の僕にはあまり関係ないが、町内会を盛り上げるため‥

 『負ける事が出来ない大事な一戦だ!甲子園決勝だと思え!!
  1球を追い動きつづけろ!マグロになれ!』

 魚屋兼コーチのゲキがまた飛んだ

 『いいか!担げるゲンは担ぎまくれ!俺は今日トンカツを食べて勝利に勝つぞ!』
 (そこは肉なんかい‥)

 魚コーチのいうとおり、野球選手は大事な一戦などでゲン担ぎをする選手が多い

 幸せの黄色いパンツを履いたり‥
 試合の朝はカレーを食べたりなど様々‥

 そして、僕のゲン担ぎは

 『ピンハイの馬券を御守りにする』


 野球の試合がある日はピンハイの馬券を左尻のポケットに入れておく‥

 馬券の『当たる』とバットに『当たる』をかけたダジャレゲン担ぎである

 ベンチに貼ってあるカレンダーに目をやった

東町町内会VS南町町内会
 【2023.12.9(土)13時 試合開始】


 明日は今までで1番熱くゲンを担ぐ‥
当然だが買う御守りは決まっている‥

 魚コーチの熱いノックが続く

 「いくぞ!」

 『ハイッ!』

 「まだだっ!」

 『ハイッ!』

 「ラストっ!」

『よっしゃー!ピンハイっ!!!』

 ダイビングキャッチが決まった僕の
 『ピンハイ!』が市民球場に響き渡った‥

中日新聞杯【枠順確定】

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