『傷だらけのタイトルホルダー』〜エピローグ〜

2023.12.24
15時40分

　クリスマスプレゼントを待つ５万人のワクワクが集まる中…

　レース開始時刻となり有馬記念のファンファーレが鳴り響く‥

　会場に押し寄せた満員の伴奏者達は新聞を丸めリズミカルに大合奏をはじめた‥

　真面目な教師は初めての感覚に驚きながら5000円で購入したタイトルホルダーという名の『２度目の武藤敬司引退観戦チケット』を握りしめてた

　各選手がゲートの中に入り始める‥
　会場のザワメキが収まり始め‥

　最後の1人‥ピンク色の選手がゲートに入り‥
　５万人の静寂が中山競馬場を包んだ‥

　ガシャン！とゲートが開き

　５万人の静寂が歓声へと変わった‥

　『頑張れ！武藤！』

　スタートはまずまずだったが、まだ安心して先頭に立てる位置には見えなかった‥

　しかし‥今回こそ武藤のラストレース‥

　前走舞うことができなかった悔しさを晴らすかの様に中山競馬場で‥

　あの時観れなかった決意のムーンサルトを見せてくれた‥

　『いけー！武藤敬司ー！』

　差はどんどん開いていった

　「いけー！タイトルホルダー！」
　周りからも聞こえてくる応援‥

　この時の歓声の8割が
　覚悟のムーサルを決めた武藤に対するものだと感じた‥

　しかし‥BARのマスターから聞いたとおり‥
　武藤の身体がボロボロなのはわかっている‥

　ラスト直線‥

　傷だらけの武藤はヘトヘトの姿を見せながら全力で戦った‥

　200と書かれた看板を通過した‥

　まだ先頭‥

　私は力の限りカウントを叫んだ！

『1‥‼︎‥‥2‼︎‥‥3‼︎』
（ワンっ！ツー！スリー！）

　カンカンカーン！！

　私の中で試合終了のゴングが鳴った‥

　惜しいところまではいったが‥

　武藤は最強世代にバトンを託す様にゴールを通過し敗戦となった‥

　しかし‥その姿は堂々と‥タイトルホルダーの名にふさわしい引退試合の姿だった‥

　真面目そうな教師は
人生で初めて購入した
　5000円以上価値があったであろう
観戦チケットを見つめ‥

　『感動をありがとう‥タイトルホルダー‥』

　と呟きながら大事そうに
小学校名が入った
名刺ケースに入れた‥

真面目そうな教師は
空を見上げながら

　『古典的な戦法か‥‥。』

またそう呟き
中山競馬場を後にした‥
　その後ろ姿はどことなく
　昭和の熱血教師のような
闘志を感じる後ろ姿に
変わっていた‥

キーンコーンカーンコーン♪

とある小学校の始業式‥

『おいっ！お前！冬休みの宿題をちゃんとやって来たのか！？』


「YouTube見るの忙しくて
できませんでした！ひき肉です！」


『この野郎！こんな悪ガキには
足4の字固めでお仕置きだ！』


「いててっ！先生痛いよ！
なんだよこの地味な技！」

『武藤敬司の時代を変えた必殺技だ！』

「誰だよそれ！てか、本当に痛いよ！」

『宿題をやらなかったお前が悪い！
パワハラでもなんでも訴えるなら訴えろ！
どんな方法を使っても
お前を正しい道に導く！
それが俺の指導だ！』

「訴えるわけないだろ！
こんな面白い先生いなくなったら
もっと学校つまんなくなるよ！」

『はははっそうか！
ならもっと面白い技を教えてやる
卍固めって言ってな‥
右手をこうやって‥』

「いてててっ！」

ガラガラ！

『ちょっと！！
何してるんですか！？
　わたしのクラスの生徒に！
ハラスメントですよ！‥

　真面目そうな教師の『古典的な戦法』は
令和の時代でも通じるらしい‥

　プロレスの様な熱意と‥
愛があれば‥

いいかげんに
してくださいよ！

　校長！！』

『二人目:真面目なお客様』
完