見出し画像

障り害されること

芥川賞を獲った朝比奈秋『サンショウウオの四十九日』を読む。ひとつの身体にふたつの魂が宿った双子、という設定を軽く触りだけ書くと佐藤亜紀『バルタザールの遍歴』を彷彿とさせる。だが本作の特質性はその状態を徹底して医学的に表現したことにある。二人分の臓器、そしてもちろん二人分の脳が一人分の体に押し込められている状態である主人公姉妹が障害者として扱われる様子を本作は明白に描く。
犯罪者が「ホモサピエンスとは別種の憐れまれるべき人類」として扱われるようになった世界を描いた『東京都同情塔』、身体障害者の性の独白とも言える『ハンチバック』といい、文学における障害者的表象がここ最近目立っていることは一人の障害当事者として大変面白く感じる。
「自分たちが特別ではないと認めると、サンショウウオは物音を立てずに通り過ぎていった(『サンショウウオの四十九日』)」
身体や脳が異質であることを強調される人間たちの思考の迸りの中に「私たちは特別ではない」という言葉が現れるのは、おそらく読者の大多数を占める健常者と彼女らを結びつけるカタルシスを産む。読み手が障害者であっても実は同じことだ。障害者というのは多種多様であって、その名を背負っているだけでは誰かたった一人さえも理解できないのだから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?