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先生になること

1ヶ月だけ経験した個別塾の先生。今日が最後の授業だった。就職や引っ越しもあるが、一番の理由は他人の人生の責任を取るというプレッシャーに耐えられなかったこと。子供って本当に大切な時期で、多感な時期で、決して安くない月謝を払って子供を預ける親御さんの気持ちや、必死で受験競争を戦う生徒たちのことを考えたら、私なんかが片手間で関わっていいことじゃないと思った。

と、こういうと聞こえはいいが、実際には逃げただけだ。責任を取りたくなかったから。でも、今になって少し後悔している。

今日、生徒さんの夢を知った。とっても素敵な夢。手紙ももらった。とっても純粋な手紙。嬉しかった。本当に本当に嬉しかった。要領は悪いし教え方も上手くない、そんな私でも先生として認めてくれて、別れを惜しんでくれる生徒さんがいる。

自分は先生には向いていないと思っていた。子供は大好きだけど、子供には好かれないタイプだということも自覚していた。だから生徒さんも、直接は言わないけどきっと私に不満あるだろうなって。違う先生に教わったほうがいいよなって勝手に思い込んでいた。でも、今日授業をして、そうではないと気づいた。「良い先生」になれないのは重々承知の上で、それでも私なりに全力で彼らに向き合っていたことはちゃんと生徒に届いていたのだ。ちゃんと彼らの「先生」になれていたのだ。それなのに、肝心なところで、自分自身のことも生徒のことも信じてあげられなかった。

「受験期に生徒以上に焦って生徒を追い込んでしまいそう。」「生徒さんが志望校に落ちたら私の責任だと思うと怖くてたまらない。」こんな理屈は私のエゴだ。お金をかけて塾に行かせたのに志望校に合格できないなんて教師のせいだと言われることを恐れていた。でもきっと違う。私が受け持った子たちはきっと合格でも不合格でも先生のせいになんてしない。彼らが言うのはきっとこう。

「最後まで一緒に走ってくれてありがとう」

ひとりの受験生がくれた手紙には、今かなりストレスが溜まって泣きそうになることもあるけれどがんばっていると書いてあった。色々なストレスに耐えながらも受験という壁に立ち向かっている生徒。生徒は受験から逃げられない。彼女が挑戦するのに、その心の内も知らずに私は怖いと逃げ出してしまった。生徒の悩みに寄り添って背中を押すのが先生なのに。情けない、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

今気づいても遅い。後戻りはできない。これから私が彼らのためにできるのは、心の中でずっと応援することと、子供たちが夢を追い続けられる社会を作ること。直接教えることで彼らの夢の実現のお手伝いをすることはもうできないから、せめて彼らが希望を持ち続けられる未来にしたい。大きなこと言って自分が影響を与えられるのはほんのわずかな範囲でしかないのはわかってる。わかっているけどそんな小さなことでもいつか彼らの力になると信じて頑張る。

最初で最後の、私の大事な生徒。たった1ヶ月だったけれどとっても思い入れがある。素直でまっすぐな子ばかりの自慢の生徒たちだ。かわいくてかわいくて大好きだった。先生のお仕事は本当に大変だと痛感したけれど、その分喜びも大きい。ちょっとしか経験していないから知ったふうなことは言えないけれど。

生徒たちがそれぞれの人生を自分の足で歩めますように。

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