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「ミノスゲーム」第3話

■場所:1F:ロビー:BAR

猪子場

肩に突き刺さったツノの苦痛から猪子場の意識が途切れる。

ミノタウロスがツノを引き抜くと、猪子場がずりずりと力なく倒れる。

夜熊がミノタウロスの背後に立っている。

その手には火炎瓶が握られている。

ミノタウロス「グルゥゥウ……」

傷だらけのミノタウロスの口元から大量の涎が滴り落ちる。

夜熊

夜熊「花畑は好きだろ?」

ミノタウロス「ウォオオオオオオ!」

ミノタウロスが雄叫びを上げる。

気圧されそうになるも、拳を握りしめて夜熊が耐える。

夜熊「案内してやる! 来いよ!」

夜熊が駆け出す。

ミノタウロスが後を追いかける。

夜熊が後ろを振り返ると、猛然とダッシュしているミノタウロス。

夜熊(嘘だろ!? 速すぎ!)

夜熊が追いつかれて後ろからタックルされてしまう。

夜熊「ぐぇっ!」

夜熊が前方に吹っ飛んで勢いよく転がる。

手に持っていた火炎瓶も壁に激突して割れる。

夜熊が背中を押さえて悶絶する。

夜熊「かっ、はぁッ!」

夜熊(こ、呼吸ができないっ)

竜泉寺

竜泉寺「夜熊ぁ!!!」

離れた位置で見ている竜泉寺が飛び出そうとするも、虎谷が腕を掴んで必死に制止する。

虎谷

虎谷「纏! 行ったら死ぬって!」

竜泉寺「でも夜熊がっ!」

涙目になってテンパっている竜泉寺。

夜熊(し、死ぬ……)

仰向けになった夜熊の頬に唾液が降り注ぐ。

追いついたミノタウロスが夜熊を見下ろしていた。

夜熊(もしかして……詰んだ?)

諦めかけていた夜熊が目を見開く。

朝鳥が背後からミノタウロスに抱きついてチョークスリーパーで首を締めている。

朝鳥

朝鳥「俺と遊んでたろ、牛野郎!!!」

ミノタウロス「グルゥゥウウウ!」

ミノタウロスが振りほどこうと暴れるも、朝鳥がしがみついたまま右目(弓矢が刺さっていた)を何度も殴りつける。

ミノタウロスが嫌がって暴れる。

二人が絨毯の上に乗ると夜熊が叫ぶ。

夜熊「朝鳥ィ! 離れろォ!!」

夜熊の意図に気づいた朝鳥がミノタウロスの背中を蹴って飛び降りる。

それと同時に黒羊がシャンデリアめがけて矢を放つ。

シャンデリアを支えていた留め具が破壊され、巨大なシャンデリアがミノタウロスめがけて落下する。

シャンデリアの下敷きになるミノタウロス。

シャンデリアのロウソクの火がカーペットに燃え広がる。

火がミノタウロスを包み込み燃え盛る。

ミノタウロス「ウォオオオオオオ!」

ミノタウロスの断末魔の叫び声。

夜熊「やった……のか……」

燃えているミノタウロスを見ながらつぶやく。

朝鳥が大の字になって寝転がる。

竜泉寺達が夜熊の元へ駆け寄る。

竜泉寺「夜熊! 怪我は!?」

夜熊「何とか……擦り傷程度で済んだ」

安堵する竜泉寺。

小蟹「なんでカーペットがあんなに燃えてるんだ?」

小蟹「ペルシャ絨毯って、燃えにくいウールかシルク素材じゃなかったっけ?」

ハンカチで頭部の出血を押さえながら小蟹が質問する。

夜熊「ここの絨毯はポリプロピレンだよ」

虎谷「ポリ? え? 何?」

夜熊「要は偽物で……石油から出来てるから燃えやすいってこと」

黒羊「どうしてそれがわかったの?」

夜熊「アプリに記載されてる暗号通り」

夜熊「"ペルシャ"はペルシャ絨毯のことで。"偽りの"というのは、偽物のペルシャ絨毯ってこと」

虎谷「なんでその偽物の絨毯があれだってわかったのよ?」

夜熊「虎谷がドリンクをこぼした時に、あのカーペットが水を弾いてたからな」

虎谷「あっ」

夜熊「そして、白く光る蜜蜂の巣は、シャンデリアと蜜蝋のことをそれぞれ指していた」

竜泉寺「蜜蝋って?」

黒羊「蜜蜂から分泌された蝋のことよ。蝋燭の起源ね」

夜熊「シャンデリアの真下にある絨毯は、あれだけだった」

燃え盛るミノタウロスを指さしながら夜熊が答える。

虎谷「あんた凄すぎ……」

夜熊が首を横にふる。

夜熊「皆で協力しなきゃ死んでた」

夜熊(このミノスゲームとかいうゲームは)

夜熊(協力プレイ必須みたいだな)

動かくなくなったミノタウロスの遺体を見つめる夜熊。

夜熊(そうだ。これはゲームなんだ)

夜熊(ルールがあって、ヒントがあって……)

夜熊(クリアできるように設計されている)

夜熊(でも……これがレベル1……)

夜熊は喉元をゴクリと鳴らす。

小蟹「夜熊…他に生存者がいないか確かめようぜ」

■場所:1F:ロビー:休憩所前

瀬兎

瀬兎(理由がある……)

瀬兎(僕はあえて動かなかった)

瀬兎(命の危機に瀕した場面で、僕は"動ける側"の人間だ)

瀬兎(何度もそういうシチュエーションを想定してきた)

瀬兎(だって僕は"瀬兎"の人間であり)

瀬兎(全校生徒で最も賢く、特別な人間だからだ)

瀬兎(なのにどうして?)

瀬兎(どうして僕は今……)

瀬兎(みっともなく……ソファの下に隠れている?)

ソファの下で縮こまって震えている瀬兎。

瀬兎「ち、違う……タイミングだ……トドメは僕が刺すつもりだ」

瀬兎「僕は……」

瀬兎「タイミングを待って…」

蛇原

蛇原「だ、大丈夫?」

瀬兎「!」

蛇原がソファの下を覗き込んで、瀬兎に話しかける。

瀬兎「じゃ、蛇原さん」

瀬兎「すまない。身動きが取れない」

蛇原「うん。今助けるね……手を出して」

瀬兎「あ、ああ」

蛇原が瀬兎の腕を引っ張ると、ソファから出た瀬兎が起き上がる。

瀬兎「助かったよ。気を失っていたみたいだ」

蛇原「良かった。瀬兎君も生きてて」

瀬兎「も? 他には誰が生き残って……」

瀬兎「というか、あの怪物は!?」

蛇原「夜熊君達が倒してくれたみたい…」

瀬兎「夜熊……が?」

蛇原が頷く。

瀬兎(あの凡人が? 冗談だろう?)

蛇原「瀬兎君、生存者達はみんな休憩所にいるから」

蛇原「合流しよう」

瀬兎「あ、ああ……そうだね」

瀬兎「それはそうと、蛇原さん」

瀬兎「何だか雰囲気が変わったね」

ずっと笑顔の蛇原をいぶかしる。

蛇原はいつも自信が無く俯いていた女生徒だったので、この状況下で笑えるのはおかしいと感じている瀬兎。

瀬兎(愚図女が……怪物が死んで気でも緩んだのか? それとも死体だらけで気でも触れたか?)

蛇原が微笑むと、

蛇原「"神様"っているんだね」

瀬兎「……」

瀬兎「は?」

■場所:1F:ロビー:休憩所

休憩所の一室に生存者達が集まっている。
※ソファが2つと間にテーブル

壁際にもたれかかるように、夜熊と小蟹が座っている。

小蟹は頭に包帯を巻いて寝ている。

夜熊はスマホの画面でミノスゲームのアプリを見ている。

ソファには牛崎と石馬と猪子場の三人だけが座っている。

竜泉寺がソファに腰掛けた猪子場の肩に包帯を巻いて手当している。

猪子場

猪子場「いってぇな! ブス! もっと優しく巻けよ!」

竜泉寺

竜泉寺「文句言える立場? やめてもいいんですけど?」

猪子場が舌打ちする。

石馬

石馬「纏ちゃん。包帯とかどこで見つけたの?」

虎谷

虎谷「ここよ。こーこ」

竜泉寺ではなく虎谷が棚の引き出しを開け締めしながら言う。

黒羊

黒羊「薬箱だけではなく、他にも"アイテム"が用意されてるようね」

黒羊が壁際で立ちながらスマホのアプリを見ている。

マップ画面の休憩室が黄色く光っている。
※フロア全体が赤(危険地帯)から青(安全地帯)に変わっている

牛崎

牛崎「このフロアには、"薬箱"と後は……BARにも何かあるな」

牛崎「磯貝。調べて来い」

磯貝

磯貝「は、はひっ?」

虎谷「ちょっとちょっと~。休ませてあげなよー」

牛崎「磯貝君は誰かの役に立ちたいんだよ」

牛崎がにっこりと微笑むと、磯貝がそそくさと部屋を出ていく。

虎谷「悪魔だ。この男」

磯貝が休憩室の扉を開けると、入れ違いで瀬兎と蛇原が入ってくる。

虎谷「瀬兎君! それに蛇原さん!」

虎谷「二人とも生きてたんだ!」

瀬兎

瀬兎「ああ……どうやら僕は頭を打って気を失っていたみたいだ」

牛崎「天下の生徒会長様もドジ踏むんだな」

瀬兎「面目ないよ。僕が気を失ってたばかりに……たくさん死なせてしまった」

石馬「うーわ出ました。キモすぎるナルシズム」

石馬がおぇーっと舌を出す。

瀬兎が石馬の挑発は無視して室内を見回す。

瀬兎「生存者はこれだけかい?」

虎谷「猫井田さんと鼠家さんでしょ……犬童さんと猿橋が上の階に行ってるよ」

虎谷「あ。それと、朝鳥君もどっかに行った」

瀬兎「犬童さん達は上の階に?」

虎谷「エレベーターがまた動き出して、2階の宿泊フロアにはまた行けるようになったみたい。他のフロアは相変わらず無理だけど」

瀬兎「なるほど」

瀬兎が夜熊を見る。

夜熊

夜熊はじっとスマホのアプリを見ている。

瀬兎(夜熊……本当にこいつが?)

牛崎「よし。役者も揃ったことだし」

牛崎「今後について話を進めておくか」

虎谷「今後って?」

牛崎「単純な話だ。今後は俺の指示に従え」

牛崎「俺がリーダーとして」

牛崎「必ずお前らを生還させてやるから」

■場所:2F:客室フロア:通路

猫井田が客室の一室で引き出しを漁っている。

鼠家

鼠家「歩ちゃんっ、そろそろ下に降りて皆と話そ? ね?」

猫井田

猫井田「見つけた」

猫井田がクラスの集合写真を手に持っている。

鼠家「な、なんでそんな物が引き出しに――」

鼠家「ひぃっ!」

鼠家が写真の何かに気づいて悲鳴をあげる。

写真の顔は全てマジックで乱雑に黒く塗りつぶされている。

猫井田「A組の人数は?」

鼠家「え……さ、30人、だよね?」

猫井田「そう。30人で間違いない」

猫井田「現時点の生存者は16人。死者は14人」

猫井田「でも、死体の数は"16体"だった」

鼠家「え? え? ど、どういうこと?」

猫井田「ゲームが始まる前に見知らぬ顔はあった?」

鼠家「皆……A組だったと思うんだけど」

猫井田「死体の顔も全て隈なくチェックしたけど。全部知ってる顔だった」

猫井田「今生きている16人……この中に」

猫井田「少なくとも2人。A組じゃない"何か"が紛れこんでいる」

鼠家「な、何かって……」

猫井田「面白くなってきたね。聖子♥」

※顔を黒く塗りつぶされた集合写真がラストカット(コマ)

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