鈴木孝夫氏のこと

 図書館から彼の著作を借り出した。鈴木孝夫研究会『鈴木孝夫の世界』があった。
 冒頭に「世にも不思議な研究会の主人公となって」と題する文章があった。

 「私は生来人前で話すことは大好きで、小学校時代成績は決して悪くないのに、通信簿の操行(行儀)のところには、いつも赤インクで饒舌(おしゃべり)と特記してあった。ところがしゃべるのとは正反対に文章を書くのは大嫌いで、(中略) その私がいつの間にか次々に本を書くになり著作集まで出たのだから、昔の私を知る家内などは、「まさかあなたが本を書くようになるとは思っても見なかった。人間て変わるものなのね」と妙に感心している。」
とある。

 鈴木孝夫氏の文章には独特のリズムがあり、「ナニモノにも捕らわれない姿勢」が端々に見て取れる。

 「青山墓地を世界遺産に!」という文章もあった。
 彼は海外を旅する時に、墓地を見て歩くのが趣味らしい。「私の見た限りでは、この青山墓地のようにいろんな宗教が雑然と何らの抵抗もなく混ざっている墓地というのは、他にないんじゃないかって思うんですね。(中略) 青山墓地というのは、130年以上もずうっと日本の社会で宗教的対立とか争いとか差別とかそういうものがないということを一番象徴的に反映しているんです。」

 彼は「白村江の戦い」と秀吉の「朝鮮征伐」以外に、日本から仕掛けた侵略戦争は無かった点を上げ、
 「それなのに日本は、明治維新後、戦争に明け、戦争に暮れるのが当たり前という当時の国際社会に、いわば引きずりだされた。」

 そして「外国基準で者を考えるのはもうやめよう」との見出しで、「その万国、つまり世界が客観的に人間としては正しくて、日本は人間として遅れているんだ、という自覚が日本を救いもしたけれど、現在のだめな日本の原因でもあるんです。精神的に日本をだめにしたのはその認識なんです。」と言う。
 「日本のような行き方、文化のありようが、今後の世界の人類の破滅を救う可能性があるということを、もう少ししっかりと日本人自身が見直していくことが大切だと思うんです。」

 「だから世界の人口は減らすべきなんであり、消費も大幅に減らすべきであり、不況は大歓迎。こういった考え方に頭を切り替えることができるかどうか。」

 「イエス・キリストの時代に2億しかいなかった人類がまもなく100億になろうとしているんですが、地球の大きさは50倍にはなってくれないんです。(中略)
 今のようなもっと人口を増やし、経済も発展させるっていう考え方は金輪際やめましょう。」
と結んでいる。

 40年前に聴講した、彼の講義そのままである。

 文章にして書き残すのは、素晴らしいことだ、と痛感する。


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