渋谷・のんべえ横丁

 最近、渋谷のこの界隈にハマっている。新宿ゴールデン街以上に一軒の店が小さく、カウンター席のみで8人も座れば満席になってしまう。
 その分密接なコミュニケーションが成立する。で、イヤな奴を避けることもできない。
 不愉快な客がいる店には二度と行かないことになる。
 もう10年以上は通っているのだが、驚愕の出会いがいろいろとある。先日も二人組が入ってきて、いきなり「アナタにはどこかでお会いしたことがあります」と言われた。
 イーズカも同様だが、記憶が曖昧だった。イーズカは名刺を渡し、面識のない同伴者の名刺をもらった。大阪に勤務する広告会社のものだった。
 話し始めたら共通の友人の名前で互いに記憶がよみがえった。イーズカが大卒直後にやっていた東電のイベント現場にアルバイトで来ていた、慶応の後輩だった。
 共通の友人が結婚してしまい、彼とは疎遠になっていた。
 ちょうど白井聡の『武器としての資本論』を持っていたので見せると、「相変わらず過激ですねえ」と呆れられた。
イーズカはマルクスの解説書など数十冊は読んでいるが、これほどオモシロク、説得力のある本は無かった。
 『資本論』そのものも、大学時代に友人との読書会で3回は読んだが、理解しきれなかった。
 白井聡の解説は、「革命に参加する同志に呼びかける」ように進んでいく。マルクスの含蓄深い言い回しが、何を意味するのかを現代に引き寄せて語っている。内田樹の解説によれば、桑原武夫は人を評価する時に「一緒に革命ができるかどうか」を基準にしたという。
 まさにそのノリで白井聡の論理展開は力強く進む。
 「驚愕の出会い」に話を戻すと、現在の店主は元々は客で、イーズカがある人に連れられて初めて店に入った時に隣同士だった。互いに禿げ上がっているので、外見からは分からなかった。ただ話していたら「えっ、オマエか」と20年ぶりくらいの再会をした。
 最近は裏の店の曜日替わりのママが現役の慶大・哲学科の人間だと知った。なかなかの豪傑でイーズカと同年齢の男性客を「こら、スズコー」などと罵倒している。
 小生意気でオモシロイ女だと思い、スズコーに連れられて裏の店に入った。彼女の友人でやはり哲学科・美学美術史専攻の人間がふたり居た。なかなかノリが良くて賢い若者たちだった。
 反対側には上智大出身の美女も居た。イーズカが新卒時にデンツーの就職面接で「とっとと帰れ」と追い返された話題で盛り上がった。彼女はこののんべえ横丁に初めて来て、入りやすそうだったのでこの店に入ったとのことで、偶然による遭遇だった。
 このように「驚愕の出会い」に溢れている。イーズカは昔から飲み屋でばら撒くために名刺を持っている。営業時に使用したことなどほとんど無い。
 人脈などというものは「メリット目当ての言葉」なので品が無いが、飲み屋で知り合った人間の方が、昼間に知り合った人間などより、人生を豊かにしてくれる。
 ほとんどが数十年の付き合いとなり、疎遠になってもまた再会したりする。
 「夜の人生営業」は大事である。

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